幼馴染みとの間に子どもをつくった夫に、離縁を言い渡されました。

ふまさ

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「セシリアが居てくれるのなら、明日もまた、屋敷に帰ってこようかな」

 ハロルドの言葉に、セシリアは顔をあげた。

「おや、月に数度しか帰ってきてくださらない旦那様が、お珍しいことで」

「拗ねるなよ、リチャード」

「とんでもない。旦那様が毎晩帰っていらして、食事と睡眠をきちんととってくださるなら、こんなに嬉しいことはありませんよ」

 図星をつかれたように、ハロルドが言葉に詰まる。セシリアは焦ったように声をあげた。

「さ、差し出がましいでしょうが、お食事と睡眠は、きちんととられた方が……」

「うん。じゃあ、セシリアがいつでもわたしの好きなときにこのスープを作ってくれると約束してくれるのなら、そうするよ」

「……っ。けれど、わたしは」

「駄目かな?」

 純粋に、誰のためでもない、自分だけに向けられる優しさ。気遣い。ランドルとはまるで違う。二十ほど年の離れたハロルドには、どこか芯があった。単に、年月を重ねたゆえの経験の差なのだろうか。

(これほど見目もよくて、お優しくて、優秀なお方だもの……女性が放っておくわけがない)

 それでもいまだ独身なのは、亡くなられた奥様だけを愛しているからだろう。

 この人を好きになっても、決して報われない。ランドルといたときと、同じ想いをするかもしれないのに。わかっているのに、気付けばセシリアは「……駄目じゃ、ないです」と答えていた。


 次の日。王宮へと出勤するハロルドをリチャードと共に見送ったセシリアは、リチャードに頼み込み、家事をさせてもらった。やっていることは同じはずなのに、セシリアは何だか、全てが楽しかった。心持ちというか、気持ちが違ったのだ。今までは、シンディーのために働かされているような。そんな気持ちにずっと苛まれていたから。

 でも、今は違う。これは、自分のために、自分から進んでやっているのだ。それだけで、心はこんなにも軽い。

 次の日も。次の日も。
 どんなに遅くなろうとも、ハロルドは屋敷に帰ってきてくれた。そして、セシリアとリチャードが作った料理を美味しそうに食べてくれた。

 いずれ、此処も出ていかないといけない。わかってはいても、ここでの生活は充実して、心が自由で、楽しすぎた。

 日に日に増していく恋心だけは辛かったが、この想いが誰にも知られない限りは、ずっと此処にいたい。そう願うようになってしまった。わたしは、傍にいられるだけでいいから。

(……奥様。ハロルド様を好きになってしまって、申し訳ありません。ですが、ハロルド様が奥様以外を好きになることなどありえません。だから)

 だから。

 セシリアは、窓から見える夜の空を見上げ、誓いのように、胸の前で手を組んだ。


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