悲劇の令嬢を救いたい、ですか。忠告はしましたので、あとはお好きにどうぞ。

ふまさ

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 ──その後。

 ペトロフ伯爵は急いでイリック子爵の行方を見つけ出し、周囲への誤解を解いてまわった。イリック子爵たちも、決心がついたのか、威力的に協力した。

 娘が異常などと、知られたくなかったのはもちろん、イリック子爵夫人は、娘を憎みきれなかったのだろう。けれどこれでは娘のためにも良くないと、イリック子爵夫人は決意し、アデルを精神病院へと入院させることにしたのだそうだ。


 一方のパーシーはといえば。

 少なくともペトロフ伯爵領にも、ヴェセリー伯爵領にも、そして王都にも、生涯、その姿を見せることはなかったという。



 ざわざわ。ざわざわ。
 カーラは、王都内でも評判のカフェにいた。昼時のいまは、客で溢れかえっている。

 クスッ。
 静かに笑ったカーラに、目の前の席に座る男性が首をかしげた。

「どうかした?」

「いえ。そういえば、同じ席だったなと思い出しまして」

「同じ席?」

「はい。一年前、わたしがこの席に座り、今、シミオン様が座っている席には、パーシーが座っていたなと」

 ──そう。ここでわたしは、あの男と別れる決意をしたのだ。

 シミオンと呼ばれた男が、不機嫌そうに眉をひそめる。

「……初デートに、ここを選ぶんじゃなかったな」

「そうですか? わたしはむしろ、あまりよい記憶ではないので、シミオン様に上書きしていただけると、嬉しいのですけれど」

「……本当に?」

「はい。何なら、ここでパーシーとどんな話をしたのか、お話しましょうか?」

 シミオンは「いや、いいよ」と苦笑した。

「どんな男だったかは、妹から聞いているからね」

「そうですか」

 シミオンの妹とカーラは同じクラスで、一番仲の良い友達だ。パーシーと婚約しているときは、あの女好きのどこがいいのかとよく訊ねられたものだ。

 その友達からシミオンを紹介され、先日、付き合いをはじめた。少し小太りで、人目をひく容姿をしているわけではないものの、真面目で、誠実なシミオンに、カーラは日々、惹かれていくのがわかる。

「でも、どうしてここのカフェに来ようと思ったのですか? やはり、王都でも評判が高いからですか?」

 カーラが訊ねると、シミオンは、それもあるけど、と小さく笑った。

「きみの屋敷を訪ねたとき、出された紅茶がここのものだったから。好きなのかなと思って」

 カーラは僅かに目を丸くし、そして、嬉しそうに頬をゆるめた。その頬は、ほんのりと赤くて。

 パーシーとしか付き合ったことのないカーラは、シミオンから、はじめてをたくさんもらっている。上部だけではない言葉、気遣い、そしてきちんと自分を見ていてくれていることが、こんなにも嬉しいことだなんて。

「……知らなかったです」

「え?」

 カーラは「いえ、何でもありません」と微笑み、紅茶を一口、口に含んだ。


 それはあのときよりもずっと、ずっと、美味しく感じた。


             ─おわり─

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