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「──お前はとても優秀だそうだから、婚約者にしてやってもいい」
ある日の休日。ベーム公爵の娘であるマイラが自室にいると、使用人から「旦那様が至急、応接室に来るようにとのことです」と言われ、急いでそこに向かったマイラ。応接室には、両親と一つ年上の姉、パメラがいた。そしてパメラの隣に座っていたのは、この国の第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンだった。
ヘイデンの第一声に困惑していると、パメラが偉そうにふんぞりかえった。
「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」
その様子から、ヘイデンと別れたわけではないらしいと察したものの、それ以外、何も理解できないマイラ。するとパメラたちは、ことここに至った経緯を語りはじめた。
パメラが王立学園に入学したのが、およそ一年半前。パメラより更に一つ年上のヘイデンがパメラに一目惚れし、告白。二人はすぐに婚約した。だが、ヘイデンは第一王子。将来は王となるため、パメラは宮殿にて、王妃としての教育を受けることになった──のだが。
そもそもパメラが王立学園に入学出来たのは、父親であるベーム公爵の権力と金のおかげである。王族と貴族の令息令嬢が通うこの学園ではさして珍しいことではない。ちなみにマイラの入試の順位は第三位だったが、むろん、これは実力だ。というより、マイラのために父親が権力と金を使うことなどあり得ないことは、マイラが一番理解している。
まあ要するに、パメラは勉学が苦手なのだ。加えて、努力も我慢も大嫌い。耐えることも無理。それなのに王妃の教育なんて、ついていけるのか。そんなことをひっそり考えていたマイラだったが、予感は見事に的中したらしい。
「あたしと王妃教育の先生の相性は、最悪だったの。あの人、あたしを苛めてばかりで……あたし、たえられなくなって」
両親はパメラを可哀想にと慰めているが、マイラは瞬時に、嘘だと察していた。この姉が大人しく苛められているわけがないし、もしそれが本当なら、婚約者のヘイデンが黙っていないだろう。
(……王妃教育から、逃げたんだ)
マイラがぽそっと胸中で呟く。ヘイデンは腕組みをし、続けた。
「そしたらどうだ。父上たちは教育係の女を責めるどころか、パメラでは王妃の勤めは果たせないと判断してしまった。それでも私がパメラと一緒になりたいと訴えると、側室として迎えるならよいが、お前の正室となる者がそれを認めることが条件だと言い渡されてしまった」
「そうなの。ひどいと思わない?」
普通なら落ち込むところだろうが、パメラは自分が悪いなどと考える思考は持ち合わせてはいない。またヘイデンがそんなパメラを責めるどころか、お前は悪くないと慰めるものだから、パメラはいっそう調子づいた。
要は、こういうことだろう。
王妃としてもおかしくない、高位の貴族令嬢。頭がよく、ヘイデンが愛するパメラを側室として迎えても、公務を押し付けられても文句を言わない者。
その白羽の矢が立ったのが、マイラだった。というより他に、この条件に当てはまる令嬢が何人いるだろうか。
「ただし、条件がある」
ある日の休日。ベーム公爵の娘であるマイラが自室にいると、使用人から「旦那様が至急、応接室に来るようにとのことです」と言われ、急いでそこに向かったマイラ。応接室には、両親と一つ年上の姉、パメラがいた。そしてパメラの隣に座っていたのは、この国の第一王子であり、姉の婚約者であるはずのヘイデンだった。
ヘイデンの第一声に困惑していると、パメラが偉そうにふんぞりかえった。
「ぞんぶんに感謝してよ、マイラ。あたしがヘイデン殿下に口添えしたんだから!」
その様子から、ヘイデンと別れたわけではないらしいと察したものの、それ以外、何も理解できないマイラ。するとパメラたちは、ことここに至った経緯を語りはじめた。
パメラが王立学園に入学したのが、およそ一年半前。パメラより更に一つ年上のヘイデンがパメラに一目惚れし、告白。二人はすぐに婚約した。だが、ヘイデンは第一王子。将来は王となるため、パメラは宮殿にて、王妃としての教育を受けることになった──のだが。
そもそもパメラが王立学園に入学出来たのは、父親であるベーム公爵の権力と金のおかげである。王族と貴族の令息令嬢が通うこの学園ではさして珍しいことではない。ちなみにマイラの入試の順位は第三位だったが、むろん、これは実力だ。というより、マイラのために父親が権力と金を使うことなどあり得ないことは、マイラが一番理解している。
まあ要するに、パメラは勉学が苦手なのだ。加えて、努力も我慢も大嫌い。耐えることも無理。それなのに王妃の教育なんて、ついていけるのか。そんなことをひっそり考えていたマイラだったが、予感は見事に的中したらしい。
「あたしと王妃教育の先生の相性は、最悪だったの。あの人、あたしを苛めてばかりで……あたし、たえられなくなって」
両親はパメラを可哀想にと慰めているが、マイラは瞬時に、嘘だと察していた。この姉が大人しく苛められているわけがないし、もしそれが本当なら、婚約者のヘイデンが黙っていないだろう。
(……王妃教育から、逃げたんだ)
マイラがぽそっと胸中で呟く。ヘイデンは腕組みをし、続けた。
「そしたらどうだ。父上たちは教育係の女を責めるどころか、パメラでは王妃の勤めは果たせないと判断してしまった。それでも私がパメラと一緒になりたいと訴えると、側室として迎えるならよいが、お前の正室となる者がそれを認めることが条件だと言い渡されてしまった」
「そうなの。ひどいと思わない?」
普通なら落ち込むところだろうが、パメラは自分が悪いなどと考える思考は持ち合わせてはいない。またヘイデンがそんなパメラを責めるどころか、お前は悪くないと慰めるものだから、パメラはいっそう調子づいた。
要は、こういうことだろう。
王妃としてもおかしくない、高位の貴族令嬢。頭がよく、ヘイデンが愛するパメラを側室として迎えても、公務を押し付けられても文句を言わない者。
その白羽の矢が立ったのが、マイラだった。というより他に、この条件に当てはまる令嬢が何人いるだろうか。
「ただし、条件がある」
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