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 ライナスとの出逢いから、奇跡とよべる再会を果たすまでの経緯が、そこには書かれていた。この国を出て、サイディルム王国の民となり、ライナスと婚約する。そうなればもう、ベーム公爵一家とヘイデンを恐れる必要もない。信頼するアンバー先生にだけは、嘘偽りなく、全てを打ち明けたかったのだと。

 そう、マイラは想いを綴っていた。

「……良かった」

 アンバーは手紙を胸にあて、抱き締めた。涙がにじむ。ライナスのことを語る文章から、マイラの幸せな様子が目に浮かんだから。

 アンバーには、息子が二人いる。もう独立して、それぞれに家庭を持っている。実は娘も欲しかったアンバーにとって、いつの間にかマイラは、娘のような存在になっていたのかもしれない。だってあの子が、あの一家とヘイデンから逃れられ、幸せになろうとしていることが、こんなにも嬉しい。

「……幸せにおなりなさい」

 呟き、アンバーは顔をあげた。近付いてくる宮殿を見据えると、決意を宿した双眸を向けた。


 アンバーは足早に国王の執務室に向かい、扉をノックした。名を告げる。「入れ」との許しに、アンバーは執務室へと足を踏み入れた。

「マイラ嬢とは会えたか」

 ギィ。
 国王が椅子の背もたれに体重を預ける。アンバーは「いいえ」と答えた。

「……そうか。あそこは関係者以外、立ち入り禁止だからな」

「そうではありません。マイラ様はそこに、いなかったのです」

 国王が目を丸くする。

「どういう意味だ? ベーム公爵は確かに、マイラ嬢を修道院に送り届けたと……」

 アンバーが「嘘だったようですね」ときっぱり告げる。国王は驚愕に「嘘?」と目を見張った。

「ならマイラ嬢は、どこに行ったと言うのだ」

 すっ。
 アンバーは机の上に、マイラからの手紙を置いた。国王がアンバーを見上げる。

「手紙、か?」

「はい。マイラ様からの、私宛の手紙です。私が修道院に来るものと信じ、修道女に託していかれたものです」

「……マイラ嬢は、修道院には行ったのか。ますます訳がわからん」

「その手紙を読めば、わかります。信じるか信じないかは、陛下次第ですが」

「お前宛の手紙を、私が読んでよいのか」

「はい、是非とも──ところで陛下。マイラ様とヘイデン殿下の婚約解消の手続きはすみましたか?」

「いま進めているところだ」

 そうですか。
 アンバーは一歩近付き「私も手伝いましょう。今日中に終わらせますよ」と目を光らせた。
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