文字サイズ
小
中
大
特大
15 / 30
15
馬車のそばでリアを待っていたニールは、リアの様子がおかしいことに、すぐに気付いた。
「──お嬢様?」
呼び掛けに、リアは顔をあげた。そして。
「アビーに花瓶を投げつけられました」
「なっ……」
「けれどアビーは、わたしがアビーに花瓶を投げつけたとモーガンに泣きつきました」
淡々と語るリア。ニールが、奥歯をぎりっと噛み締めた。
「……モーガン様はそれを信じたと?」
「ええ。そして、わたしはモーガンに頬を打たれたわ」
ニールは血がにじむほど、こぶしを強く握りしめながら叫んだ。
「──もう我慢なりません。お嬢様がどれほど止めようと、私はすべてを旦那様に報告します」
「駄目よ。ニール」
「止めても無駄です。お嬢様。たとえあなたの護衛をはずされようとも、私は……っ」
ニールは、はっとした。リアのまとう空気が、双眸が、凍りのように冷たく、まるで刃のように鋭かったからだ。
「──お父様たちには、わたしからお話しします」
「ただいま戻りました」
屋敷に戻ると、両親と妹のセシリーは応接間でお茶を楽しんでいた。セシリーが席を立ち「おかえりなさい」と、リアに駆け寄ってきた。リアが愛おしそうにセシリーの頭を撫でる。
「あなたがとてもいい子に育ってくれて、姉様は嬉しいわ」
セシリーが「突然どうされたのですか?」と首をかしげる。両親も不思議そうにリアに目を向けている。
「セシリー。姉様は、お父様とお母様にとても大切なお話しがあるの。お部屋に戻っていてくれる?」
「わたしがいては駄目なのですか?」
「駄目じゃないわ。でもね。楽しいお話しではないから」
「セシリーお嬢様。私からもお願いします」
うしろにひかえていたニールも頭をさげる。セシリーはよほど大切なお話しなのだと思い「わかりました」と、自室へと足を向けた。本当に素直な子だわと、リアが頬を緩める。
「改まってどうしたというのだ」
「大切なお話しとは?」
父親が、母親が、リアに視線をそそぐ。リアは一度、ニールと視線を交差させてから、口火を切った。
「お父様、お母様。どうか、モーガンとの婚約を破棄させてください」
両親は、そろって目を見張った。
「ど、どうして?! あなた、婚約が決まったとき、あんなに嬉しそうにしていたじゃない!」
「そ、そうだ。それに、あいつは見目もよく、性格もよい。いずれ爵位を継承する長男に、これだけの条件がそろっている男などそうそう──」
「わかっています。けれど、わたしはもう、決めたのです。申し訳ありません。お父様。お母様」
リアは父親の言葉をさえぎり、頭をさげた。ニールが言葉をつなぐ。
「旦那様。奥様。どうか、お嬢様の話しを聞いてください。お願いします」
父親は苦虫を噛み潰したかのような顔をし、右手で顔を覆った。
「……わかった。とにかく、理由を話してみなさい」
「──お嬢様?」
呼び掛けに、リアは顔をあげた。そして。
「アビーに花瓶を投げつけられました」
「なっ……」
「けれどアビーは、わたしがアビーに花瓶を投げつけたとモーガンに泣きつきました」
淡々と語るリア。ニールが、奥歯をぎりっと噛み締めた。
「……モーガン様はそれを信じたと?」
「ええ。そして、わたしはモーガンに頬を打たれたわ」
ニールは血がにじむほど、こぶしを強く握りしめながら叫んだ。
「──もう我慢なりません。お嬢様がどれほど止めようと、私はすべてを旦那様に報告します」
「駄目よ。ニール」
「止めても無駄です。お嬢様。たとえあなたの護衛をはずされようとも、私は……っ」
ニールは、はっとした。リアのまとう空気が、双眸が、凍りのように冷たく、まるで刃のように鋭かったからだ。
「──お父様たちには、わたしからお話しします」
「ただいま戻りました」
屋敷に戻ると、両親と妹のセシリーは応接間でお茶を楽しんでいた。セシリーが席を立ち「おかえりなさい」と、リアに駆け寄ってきた。リアが愛おしそうにセシリーの頭を撫でる。
「あなたがとてもいい子に育ってくれて、姉様は嬉しいわ」
セシリーが「突然どうされたのですか?」と首をかしげる。両親も不思議そうにリアに目を向けている。
「セシリー。姉様は、お父様とお母様にとても大切なお話しがあるの。お部屋に戻っていてくれる?」
「わたしがいては駄目なのですか?」
「駄目じゃないわ。でもね。楽しいお話しではないから」
「セシリーお嬢様。私からもお願いします」
うしろにひかえていたニールも頭をさげる。セシリーはよほど大切なお話しなのだと思い「わかりました」と、自室へと足を向けた。本当に素直な子だわと、リアが頬を緩める。
「改まってどうしたというのだ」
「大切なお話しとは?」
父親が、母親が、リアに視線をそそぐ。リアは一度、ニールと視線を交差させてから、口火を切った。
「お父様、お母様。どうか、モーガンとの婚約を破棄させてください」
両親は、そろって目を見張った。
「ど、どうして?! あなた、婚約が決まったとき、あんなに嬉しそうにしていたじゃない!」
「そ、そうだ。それに、あいつは見目もよく、性格もよい。いずれ爵位を継承する長男に、これだけの条件がそろっている男などそうそう──」
「わかっています。けれど、わたしはもう、決めたのです。申し訳ありません。お父様。お母様」
リアは父親の言葉をさえぎり、頭をさげた。ニールが言葉をつなぐ。
「旦那様。奥様。どうか、お嬢様の話しを聞いてください。お願いします」
父親は苦虫を噛み潰したかのような顔をし、右手で顔を覆った。
「……わかった。とにかく、理由を話してみなさい」
感想
あなたにおすすめの小説
【完結】私から全てを奪った妹は、地獄を見るようです。
「サリーエ。すまないが、君との婚約を破棄させてもらう!」
リデイトリア公爵家が開催した、パーティー。
その最中、私の婚約者ガイディアス・リデイトリア様が他の貴族の方々の前でそう宣言した。
当然、注目は私達に向く。
ガイディアス様の隣には、私の実の妹がいた──
「私はシファナと共にありたい。」
「分かりました……どうぞお幸せに。私は先に帰らせていただきますわ。…失礼致します。」
(私からどれだけ奪えば、気が済むのだろう……。)
妹に宝石類を、服を、婚約者を……全てを奪われたサリーエ。
しかし彼女は、妹を最後まで責めなかった。
そんな地獄のような日々を送ってきたサリーエは、とある人との出会いにより、運命が大きく変わっていく。
それとは逆に、妹は──
※全11話構成です。
※作者がシステムに不慣れな時に書いたものなので、ネタバレの嫌な方はコメント欄を見ないようにしていただければと思います……。
婚約者に「リリアを見習え!」とほかの女の名前を出されたので、素直に見習うことにしました
マリアベルは婚約者であるヒューバートの事で悩んでいた。ヒューバートはマリアベルの婚約者のはずなのに、最近平民上がりの男爵令嬢リリアに恋をしているのだ。
一過性のものならば我慢しよう。でもせめてもう少し接し方を考えて欲しいと話し合いをするが、彼からはなんと「お前がいいとこ無しなせいだ!リリアを見習え!」と言われてしまう。色々思うところはあったが、いいとこ無しのままではいけないと思ったマリアベルは、リリアを観察し、見習うことにしたのだが…。
※小説家になろう・カクヨムにも掲載しています。
幼なじみで私の友達だと主張してお茶会やパーティーに紛れ込む令嬢に困っていたら、他にも私を利用する気満々な方々がいたようです
アンリエット・ノアイユは、母親同士が仲良くしていたからという理由で、初めて会った時に友達であり、幼なじみだと言い張るようになったただの顔なじみの侯爵令嬢に困り果てていた。
だが、そんな令嬢だけでなく、アンリエットの周りには厄介な人が他にもいたようで……。
女性として見れない私は、もう不要な様です〜俺の事は忘れて幸せになって欲しい。と言われたのでそうする事にした結果〜
子爵令嬢のプレセアは目の前に広がる光景に静かに涙を零した。
偶然にも居合わせてしまったのだ。
学園の裏庭で、婚約者がプレセアの友人へと告白している場面に。
そして後日、婚約者に呼び出され告げられた。
「君を女性として見ることが出来ない」
幼馴染であり、共に過ごして来た時間はとても長い。
その中でどうやら彼はプレセアを友人以上として見れなくなってしまったらしい。
「俺の事は忘れて幸せになって欲しい。君は幸せになるべき人だから」
大切な二人だからこそ、清く身を引いて、大好きな人と友人の恋を応援したい。
そう思っている筈なのに、恋心がその気持ちを邪魔してきて...。
※
ゆるふわ設定です。
完結しました。
【完結】「妹が欲しがるのだから与えるべきだ」と貴方は言うけれど……
私の婚約者、アシュフォード侯爵家のエヴァンジェリンは、後妻の産んだ義妹ダルシニアを虐げている――そんな噂があった。次期王子妃として、ひいては次期王妃となるに相応しい振る舞いをするよう毎日叱責するが、エヴァンジェリンは聞き入れない。最後の手段として『婚約解消』を仄めかしても動じることなく彼女は私の下を去っていった。
この作品は『小説家になろう』でも公開中です。
──いいえ。わたしがあなたとの婚約を破棄したいのは、あなたに愛する人がいるからではありません。
伯爵令息のパットは、婚約者であるオーレリアからの突然の別れ話に、困惑していた。
「確かにぼくには、きみの他に愛する人がいる。でもその人は平民で、ぼくはその人と結婚はできない。だから、きみと──こんな言い方は卑怯かもしれないが、きみの家にお金を援助することと引き換えに、きみはそれを受け入れたうえで、ぼくと婚約してくれたんじゃなかったのか?!」
正面に座るオーレリアは、膝のうえに置いたこぶしを強く握った。
「……あなたの言う通りです。元より貴族の結婚など、政略的なものの方が多い。そんな中、没落寸前の我がヴェッター伯爵家に援助してくれたうえ、あなたのような優しいお方が我が家に婿養子としてきてくれるなど、まるで夢のようなお話でした」
「──なら、どうして? ぼくがきみを一番に愛せないから? けれどきみは、それでもいいと言ってくれたよね?」
オーレリアは答えないどころか、顔すらあげてくれない。
けれどその場にいる、両家の親たちは、その理由を理解していた。
──そう。
何もわかっていないのは、パットだけだった。
※この作品は、小説家になろう様にも掲載しています。
最愛の人を裏切るつもりなんてなかったんだ……
違うんだ。
俺は、婚約者のオリビアを愛していた。世界で一番、オリビアを愛していたんだ。
あれは、所謂『味変』だったんだ。
甘いものをずっと食べていたら、時々塩気のあるものを食べたくなるだろう? その感覚だったんだ。
だからつい、正反対なラフィリーヌと関係を持ってしまっただけで――
【完結】真実の愛を選ぶなら後継にはなれないけど、どちらを選びますか?
伯爵令嬢のレイラには、王命により十年前から婚約者がいる。
侯爵家嫡男のルシアンだ。
しかし男爵令嬢との真実の愛に目覚めた彼は、レイラとの婚約を破棄を希望する。
真実の愛を高らかに宣言し、男爵令嬢と結婚し未来の公爵夫人に迎えようとする。
しかし十年前の王命には、
『レイラは公爵家の跡取りとの結婚を命じる』と記されていて。。