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その日の夕刻。
学園から戻り、自室で本を読んでいたアリシアの元に、ベティがやってきた。
「アリシア。見て。庭にとても綺麗なお花が咲いていたのよ」
アリシアは「ありがとうございます」と、差し出された花を受け取り、ふと首をかしげた。
「お姉様。今日はレックス様とデートのはずではなかったですか?」
するとベティの顔が、わかりやすく一気に曇った。
「実はそうなの。どうしてもはずせない用事ができたとかで……残念だけど、仕方ないわよね。レックス様は、いずれ公爵の位を継承するお方ですもの」
「……でも、寂しいですね」
「ふふ。大丈夫よ、ありがとう。それよりアリシアは、マイク様とどうなの? 仲良くしている?」
無邪気に訊ねられ、アリシアは一瞬言葉を詰まらせながらも「はい」と答えた。
「そう。良かったわ。あ、お父様が帰ってくる前に、もういくわ──ごめんなさいね」
つらそうに顔を歪めるベティに、いいえ、とアリシアは慣れない笑みを浮かべてみせた。
それからもベティは、学園が終わればすぐに帰ってきていたし、休日には家にいた。いつもなら、週に何度かは必ずレックスとデートしていたのに。あからさまに落ち込むベティに、アリシアはどう声をかけていいのかわからなかった。けれどレックスとベティが言うように、本当に何かしらの用事があるのだろう。その用事とやらが終わればきっと元に戻るはず。
そう、アリシアは思っていた。
──それより半月後。
夕飯を抜かれたアリシアの元に、いつものように食糧を持ってきてくれたベティが、嬉しそうにこう報告してきた。
「明日の休日、我が家にレックス様がきてくれることになったの」
「そうなのですか?」
「ええ。なんでも、お父様にお話ししたいことがあるとか。なにかしらね」
うきうきとする姉に、なんだかアリシアまで嬉しくなってきた。
「将来のこととか?」
「ふふ。どうかしら」
いずれにせよ、わたしには関係のないことだ。そう思っていたのだが──。
当日の、昼前。
自室の扉をノックされ、今日は朝食だけでなく昼食まであるのかと驚いたアリシアは、扉を開けた。そこには、姉のベティとレックスが立っていた。ベティは困惑の表情だったが、レックスは柔らかい笑みをたたえていた。
「こんにちは、アリシア」
「……こんにちは」
今まで何度か屋敷を訪れたことのあるレックスだったが、アリシアの部屋にまでわざわざ挨拶をしにきたことは一度もない。
「……あの、なにか」
「土産にうまいお菓子を持ってきたんだ。下で、みんなで食べよう。ね?」
みんな、とは父親も含まれているはず。姉とレックスだけならともかく、それはあり得ない。
「……申し訳ありません。わたし、気分がすぐれないので」
「ほら、レックス様。私の言った通りでしょう? 早く応接室に行きましょう。お父様がお待ちです」
ベティが急かすようにレックスの腕を掴む。だが続けてレックスから紡ぎ出された言葉に、二人は同時にかたまった。
「──また、食事を抜かれてしまったの?」
学園から戻り、自室で本を読んでいたアリシアの元に、ベティがやってきた。
「アリシア。見て。庭にとても綺麗なお花が咲いていたのよ」
アリシアは「ありがとうございます」と、差し出された花を受け取り、ふと首をかしげた。
「お姉様。今日はレックス様とデートのはずではなかったですか?」
するとベティの顔が、わかりやすく一気に曇った。
「実はそうなの。どうしてもはずせない用事ができたとかで……残念だけど、仕方ないわよね。レックス様は、いずれ公爵の位を継承するお方ですもの」
「……でも、寂しいですね」
「ふふ。大丈夫よ、ありがとう。それよりアリシアは、マイク様とどうなの? 仲良くしている?」
無邪気に訊ねられ、アリシアは一瞬言葉を詰まらせながらも「はい」と答えた。
「そう。良かったわ。あ、お父様が帰ってくる前に、もういくわ──ごめんなさいね」
つらそうに顔を歪めるベティに、いいえ、とアリシアは慣れない笑みを浮かべてみせた。
それからもベティは、学園が終わればすぐに帰ってきていたし、休日には家にいた。いつもなら、週に何度かは必ずレックスとデートしていたのに。あからさまに落ち込むベティに、アリシアはどう声をかけていいのかわからなかった。けれどレックスとベティが言うように、本当に何かしらの用事があるのだろう。その用事とやらが終わればきっと元に戻るはず。
そう、アリシアは思っていた。
──それより半月後。
夕飯を抜かれたアリシアの元に、いつものように食糧を持ってきてくれたベティが、嬉しそうにこう報告してきた。
「明日の休日、我が家にレックス様がきてくれることになったの」
「そうなのですか?」
「ええ。なんでも、お父様にお話ししたいことがあるとか。なにかしらね」
うきうきとする姉に、なんだかアリシアまで嬉しくなってきた。
「将来のこととか?」
「ふふ。どうかしら」
いずれにせよ、わたしには関係のないことだ。そう思っていたのだが──。
当日の、昼前。
自室の扉をノックされ、今日は朝食だけでなく昼食まであるのかと驚いたアリシアは、扉を開けた。そこには、姉のベティとレックスが立っていた。ベティは困惑の表情だったが、レックスは柔らかい笑みをたたえていた。
「こんにちは、アリシア」
「……こんにちは」
今まで何度か屋敷を訪れたことのあるレックスだったが、アリシアの部屋にまでわざわざ挨拶をしにきたことは一度もない。
「……あの、なにか」
「土産にうまいお菓子を持ってきたんだ。下で、みんなで食べよう。ね?」
みんな、とは父親も含まれているはず。姉とレックスだけならともかく、それはあり得ない。
「……申し訳ありません。わたし、気分がすぐれないので」
「ほら、レックス様。私の言った通りでしょう? 早く応接室に行きましょう。お父様がお待ちです」
ベティが急かすようにレックスの腕を掴む。だが続けてレックスから紡ぎ出された言葉に、二人は同時にかたまった。
「──また、食事を抜かれてしまったの?」
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