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「さっきも言ったけど、証拠はなにもないから。精神的苦痛による慰謝料は請求しないし、浮気についても責めたりしないから、安心して、二人で幸せになって」

「……そうだ。証拠なんて、ない。きみの聞いたそれは、夢なんじゃないか?」

 セドリックの問いに、アデルは穏やかに答えた。

「わたしも、最初は夢なんじゃないかって疑っていたの。でも、もう大丈夫。確信があるから」

「どこに?!」

 怒鳴る勢いのセドリック。アデルは、大きく息を吐いた。

「わたしにはあなたがわからないわ。なんの障害もなく、愛するダーラと一緒になれるのに、どうしてそんなに否定するの?」

「ぼくが愛しているはきみだ!」

「あのね、セドリック。わたしは本当に、あなたたちをどうこうしようなんて思ってない。証拠に、二人の親の説得にだって協力を惜しまないつもりよ。わたしはね、ただ、正直な想いを口にしてほしいだけ。想ってもいないのに、愛してるとか、心配してるとか、言わないでほしいの。二人だって、嘘をつくのは面倒でしょ?」

 落ち着いた口調にむしろ恐怖を覚えたダーラが「……ア、アデル」と、震える声で名を呼ぶ。

「なに?」

「た、例えばあたしとセドリック様が愛し合っていたとして、あ、あなたは平気、なの?」

 それをあなたが問うか。とも思ったが、もはや心は痛まないし、願いはただ一つだったので、怒りを押さえ、答えた。

「ええ。やはり愛し合う者たちが一緒になることが、一番ですもの」

「お、怒ってないの?」

 あれほど酷いことを吐いておきながらの、この質問。アデルはとことん、呆れた。

「そんなものはね、もう、通り越したの。ダーラ。お願いだから嘘をつかないで。セドリックと一緒になって。そして二度と、わたしの前に姿を現さないで」

 ダーラは肩をぴくんと動かしながらも「……あたしたちをどうこうするつもりはないって」と、安全を確認してくる。

「しないわ。わたしは一刻も早く、あなたたち二人と縁を切りたいだけ。これがわたしの本音よ」

「……そう、なの」

 呟いてから、ダーラはセドリックをそっと見た。

「……セドリック様。あたし」

「──そんな目でぼくを見るな!!」

 椅子を倒しながら立ち上がったセドリックが、目を血走らせ、ダーラを怒鳴る。こんなセドリックを見るのは、はじめてなのか。ダーラが固まる。

「ぼくはお前なんか愛してない! 愛しているのは、アデルだけだ!!」

 声を裏返させて、セドリックが叫ぶ。アデルは、思い切り眉間に皺を寄せた。

 
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