大好きだったあなたはもう、嫌悪と恐怖の対象でしかありません。

ふまさ

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「ルイス。嫌なら嫌と言っていいんだ。いくら公爵と言えど、これは許されることではない」

 父親であるシュルツ伯爵の問いかけに、ルイスは顔をあげた。繋がるマリーの手を、きつく握りながら。

「……ランゲ公爵様とマリー様は、ぼくの言うことを信じてくださいました。けれどお父様はきっと、ぼくではなく、ジャスパーお兄様のことを信じるでしょう……?」

「──いったい何の話しだ?」

「お父様はいつだって、ジャスパーお兄様の言うことしか信じません。誉めるのだって、ジャスパーお兄様だけです。ぼくはいつも、怒られてばかりでした」

 ランゲ公爵とマリーの冷たい視線に、シュルツ伯爵は一つ、咳払いをした。

「い、今はそんなこと関係ないだろ!」

「いいえ、あります。このままこのお屋敷にいれば、ぼくはジャスパーお兄様に何をされるかわかりません……っ」

「……どういう意味だ。ジャスパーが何をすると──」

「──なるほど。そういうことか」

 シュルツ伯爵の言葉に被さるように、ジャスパーが口を開いた。みなの視線がジャスパーに集まる。ジャスパーは苦笑した。

「ランゲ公爵、マリー、父上。安心してください。すべてルイスの虚言ですよ」

 マリーが「……虚言?」と片眉をあげた。

「そうだよ、マリー。ルイスはね。みんなに構ってほしかっただけなんだ。寂しかったんだね。気がつかなくてごめんね、ルイス」

 ジャスパーがゆっくりと近付いてくる。ルイスはマリーの背に隠れた。マリーはルイスを守るように両手を広げ、ジャスパーを睨み付けた。

「それ以上ルイスに近付かないで。それに、嘘をついているのはあなたでしょ?」

 ジャスパーはポカンとしてから、哀しそうに眉をさげた。

「……マリー。ルイスに何を吹き込まれたんだ。どうしてぼくではなく、ルイスを信じるの? きみに嫌われたら、ぼくは生きていけないよ」

「そうよね。貴族の婿養子になれないと、次男のあなたはとても困るものね」

「……それは違うよ。ぼくはきみを愛しているから、きみと一緒になりたいだけだ。例えばぼくが嫡男だとしても、きみを選んでいたよ?」

 息をするように、嘘を吐く。どんな甘い科白も、マリーにとっては虫酸が走るだけだ。

「……マリー様」

 ルイスが不安そうに、マリーの服を握る。マリーはうってかわって、優しく微笑んだ。

「大丈夫よ。約束したでしょ? あなたのことは、わたしが守るわ」

 あからさまな態度の違いに、ジャスパーの頭に血がのぼっていく。みんなが認めるのはぼく。みんなが信じるのも、好意を抱くのもぼく。その思いが人一倍強いジャスパーは、無意識のうちに、マリーに向かって手を振り上げていた。
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