死にたがり令嬢が笑う日まで。

ふまさ

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 食堂では、合計六人の人たちが集まり、長テーブルに並べられた料理を囲っていた。

「この屋敷のシェフに、執事。そしてメイド。使用人ではあるけど、みんな、あたしとアラスターの知り合いで、友だちなの。だから食事は、みんなでとるようにしててね」

 自己紹介された者たちが、ニアに向かって、ぺこりと頭を下げる。ニアもそれに習い、頭を下げた。

 アラスターとカイラは、ともに十八歳。前に三人並ぶ使用人たちも、それと似たような年に見えた。

 カチャ。
 室内を見渡せる席、ニアから見て右斜め前に座るアラスターは皿にナイフとフォークを置き、ニアをじっと見た。

「きみの前に、わたしに二人の婚約者候補がいたことは知っているかな」

「はい」

「彼女たちは、わたしの知らないところで、カイラに嫌がらせをしていたんだ」

「ちょ、ちょっとアラスター。こんな、来てすぐに言わなくても」

「いいや、早い方がいい。本性など、見た目ではわからないのだから」

「……そうだけど」

 すぐ傍に座るカイラと会話したあと、アラスターは口調を強めた。

「聞いた通り、屋敷の使用人はみな、わたしとカイラの友だ。きみがもし、わたしのあずかり知らぬところでカイラになにかしようとも、複数の目がきみを見張っている」

「なるほど。わかりました」

 動揺もなく、心得たとばかりに頷くニアに、アラスターは、ため息をついた。

「……ここは、気分を害したと怒っていいところだ。わたしはきみを疑っているんだぞ」

「そのような過去があれば、当然のことだと思います。それに、わたしたちは会って間もないですから。疑って当然です」

 アラスターがぐっと唇を引き結んだあと、再び、口を開いた。

「わたしは平日、オールディス伯爵が住む屋敷に赴き、仕事の補佐をしながら、領主としての仕事を学んでいる。朝の八時から夕方五時までは、向こうで過ごすことが多い。明日は平日だから、さっそく屋敷をあける。もし困ったことや入り用のものがあれば、カイラたちに言ってくれ。いまは基本、なにもしなくていい。自由に過ごしてくれ」

 ニアは、目をぱちくりさせた。

「婚約者に相応しいかどうか、見極めるための試験とかはないのですか?」

 ない。言いながら、アラスターはニアの手元を横目で見た。

「どちらかといえば、正式に婚約者と決まったとき、学んでもらいたいことはおそらく、たくさんある。それからは忙しい日々になるだろうが──まずは、カイラたちと仲良くとまではいかないにしても、見下さず、普通に接してもらいたい。前の婚約者候補たちは、それができなかったんだ」

「……貴族の令嬢様が、平民を見下すのは、仕方のないことだわ」

 ぽつりと吐露するカイラの手を、アラスターが握った。

「見下しただけじゃない。あいつらは、カイラに暴言を吐いたあげく、怪我まで負わせたんだぞ」

「……うん。でもそのせいで、彼女たちはあなたから去っていき、あなたの評判は下がってしまった。だからこの街からはもう、婚約者候補を探せなくなってしまって、王都まで行くしかなくなって」

 まるでいつか読んだ、恋愛小説のよう。二人を見ながら、ニアは思った。文字を書くのは苦手だが、読むのだけは、時間はかかるもののなんとかできるニアが読書した、数少ない小説。

(わたしは完全なるお邪魔虫だな)

 別にそれはかまわないが、少しの居心地の悪さを感じていると、前に座るメイドの女の人と目が合った。苦笑しながら肩を竦めていたので、きっと二人の世界に入るのはいつものことなんだなあと、ぼんやり思った。


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