死にたがり令嬢が笑う日まで。

ふまさ

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 叩き起こされるのでもなく、自然に目を覚ましたニアは、ぼーっとしながら、あたりを見回した。屋根裏部屋の四倍はある清潔な部屋に、埃っぽくもぺたんこでもない、寝台。窓からもれる朝日は、眩しくて、とても綺麗で。

「……夢でも見てるみたい」

 時計を見れば、とうに八時は過ぎており、なんとなくニアは焦って着替え、部屋を出た。

「あら、おはよう」

 ちょうど階段を上ってきていたカイラが、笑顔であいさつをしてきた。ニアは、おはようございますと返し、頭を下げた。

「え、どうしたの?」

「アラスター様やカイラ様より遅く起きて、申し訳ございません」

「やだ、そんなこと? 長旅で疲れてるだろうから寝かせてあげておいてくれって、アラスターにも言われてたし、気にすることないわよ」

 それより。カイラが、くすりと笑う。

「いま、あたしのこと、様づけした?」

「はい」

「貴族令嬢なのに? 平民のあたしに?」

「でも、アラスター様の大切な方ですし」

「おかしな人ねえ。まあ、いいわ。朝ご飯できてるから、食堂に来て」

 くるりと背を向け、階段を下りていく。その背に向かって、ニアが話しかける。

「あの、わたしになにか手伝えることはないでしょうか」

「えー? でも、貴族令嬢様ができることって、なに?」

「掃除や洗濯なら、経験があります」

 ふふ、なにそれ。食堂の扉を、カイラが笑いながら開ける。中から、僅かな異臭がした。

「掃除や洗濯、したことあるの? つまんないなあ」

「つまらない、ですか?」

「うん、つまらない。だって、これからみんなでたたき込んであげようと思ってたのに。どんな貴族令嬢よ。ほら、それより。ここに座って」

 手を引っ張られ、座らされた席の前には、皿が一皿。中にはスープがあり、異臭はそこからしていて、ニアはすぐに、ぴんときた。

「ねえ、ほら。あなたのために特別に用意したスープよ。召し上がれ」

 それは、腐った材料で作られたスープだった。

「全部食べないと、アラスターに言いつけるからね。あたしたちが一生懸命作った料理、あなたが食べてくれなかったって」

 ニアが無表情で、カイラを見上げる。カイラが、気持ち悪い、と吐き捨てた。

「昨日から思ってたけど、あんたのその無表情、なんなの? わたしは傷付いてませんって顔をすれば、アラスターにかまってもらえるとでも思ったの? 打算的ね。これだから貴族令嬢は嫌なのよ。言っておくけど、アラスターに告げ口したって無駄よ。アラスターが信じているのはあたしだけ。あんたの言うことなんて、一つも信じやしないわ」

 厨房からこちらを覗く、複数の笑い声が聞こえてきた。そこには、昨日紹介してもらったばかりのシェフ、執事、メイドがいた。

「ね? だから言ったでしょう? みーんな、あたしの友だちだって」

 ──ああ、やっぱり。

 さっきまでの幸せは、わたしには、分不相応だったのね。

 ニアはゆっくりと、スプーンを手に取った。

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