死にたがり令嬢が笑う日まで。

ふまさ

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 その日は、突然、訪れた。

「だ、旦那様。ニア様とアラスター様と、オ、オールディス伯爵が訪ねて来られました!」

 王都。フラトン子爵家の食堂にて。家族で夕食をとっていると、使用人が慌てたように入ってきて、捲し立てるように告げた。フラトン子爵は口に入れようとしていた肉を、皿に置いた。

「あなた。確か、婚約者として相応しいかどうか見極める期間は、三ヶ月だったはずでは」

 フラトン子爵夫人が不安げに問うと、ニアの義姉は、やっぱりねえ、と嘲笑った。

「追い返されたのね。まあ、ふた月も経ってないけど、よく持った方じゃない?」

 フラトン子爵が「くそ!」と、舌打ちする。

「……オールディス伯爵まで来るとは。なにかやらかしたんじゃないだろうな」

「そんなことより、あなた。伯爵をお待たせしては」

「わかってる! おい、オールディス伯爵たちを応接室に通せ。急いで茶菓子を用意しろ!」

「お父様。あたくしも同席していい? ニアの代わりにあたくしが嫁ぐと申し出たら、相手の機嫌も変わるかもしれませんよ?」

 フラトン子爵は数秒迷ったが、いまは考える時間も惜しいとばかりに、好きにしなさいと言い捨て、食堂を出た。私室に行き、伯爵を出迎えるに相応しい服に着替える。

 その間も、ニアへの怒りで腸が煮えくりかえっていた。

「くそっ。やはりあんな娘、引き受けるのではなかったっ」

 鏡の前で髪を整え、足早に応接室に向かい、扉を開ける。ちょうど、メイドが全員分のお茶を配り終えたタイミングだった。

「……っ」

 そこには、四人いた。ニアとアラスター、オールディス伯爵。そして、もう一人。五十代後半と見られる男性が、ニアの隣に腰掛けていた。

「はじめまして。貴殿がフラトン子爵かな?」

「は、はい」

 オールディス伯爵がまとう雰囲気に圧倒されたように、フラトン子爵は我に返ったように返事をした。

「私はアラスターの父、オールディス伯爵だ。約束もなく、突然訪ねてきたこと、謝罪する」

「い、いえ。そんな……」

 フラトン子爵はオールディス伯爵と会話をしながらも、横目でちらちらと、五十代後半の男に視線を向ける。

「彼が気になるか」

 低音で問われたフラトン子爵は、小さく身体を震わせた。その様子に、オールディス伯爵は。

「覚えてはいたようだな」

 と、言った。

 ニアの隣に座る男性は、もうこれ以上は我慢できないとばかりに、声を張り上げた。

「あんたはニアを──娘の子を、わしの孫を、妻に先立たれ子育てに不安を感じていたわしに、貴族の令嬢として大切に育てると約束してくれた! だから金も渡した! 平民のわしとの繋がりはたった方がいい。それがこの子の将来のためだとあんたに言われ、それを信じた! なのに……っっ」

 ニアの祖父は音を立ててフラトン子爵に近付くと、拳でフラトン子爵の頬を殴りつけた。

 ガッ!!
 鈍い音が響き、フラトン子爵は床に倒れた。

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