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「愛人……?」
目の前の男は、何を堂々と言っているのだろうか。エセルは自分の耳を疑ったが、デレクは繰り返した。
「うん、そう。誤解はしないでほしいんだけど、きみに対する愛情が薄れたわけじゃないよ。ただ、きみと同じぐらいにルイザのことも愛してしまっただけなんだ」
エセルは絶句した。婚約者以外の女を愛していると。隠そうともせずに告白する男が、信じられなかった。
「貴族たるもの、愛人の一人や二人、いないとね」
「……は?」
「父上が言っていたんだ。実際、ぼくが知っているだけでも父上には愛人が二人いる。むろん、母上も承知しているよ」
エセルは、ぽかんとした。貴族だとて、浮気が原因で婚約破棄もするし、離縁もする。もちろん、エセルの父親は不倫などしていないし、もし万が一していたとしても、絶対に公言などしないだろう。
(……まさか、デレクの御両親がそんな方たちだったなんて)
王立学園でエセルとデレクは出会い、デレクからの告白によって、二人は付き合いをはじめた。
エセルの父、ホラーク伯爵と、デレクの父であるストイチコフ伯爵は、王立学園に通っていたころのクラスメイトだった。何年かぶりの再会を喜びあった父親たちは二人の交際をすぐに認め、やがて二人は婚約した。
ストイチコフ伯爵とストイチコフ伯爵夫人には何度か会ったことがあったが、少なくとも仲が悪いようには見えなかった。例え政略結婚だったとしても、愛人がいることを家族に公言しているなんて、エセルからしてみれば、異常なことだった。
エセルは、膝の上に置かれた自身のこぶしを強く握った。
「……彼女を、愛人として屋敷に迎え入れたいとのことですが」
「うん」
「好きにすればよいと思います」
デレクは「ほんとかい?!」と、ぱっと顔を輝かせた。
「ありがとう。とても嬉しいよ。優しいきみならきっと受け入れてくれると思っていたけど、やはり少し不安だったから、本当にホッとしたよ」
デレクがふう、と息を吐く。エセルは、ただし、と小さく口を開いた。
「わたしはそれを受け入れられませんので、彼女を愛人として屋敷に迎え入れてもよいとおっしゃる令嬢を、これから見つけることですね」
目の前の男は、何を堂々と言っているのだろうか。エセルは自分の耳を疑ったが、デレクは繰り返した。
「うん、そう。誤解はしないでほしいんだけど、きみに対する愛情が薄れたわけじゃないよ。ただ、きみと同じぐらいにルイザのことも愛してしまっただけなんだ」
エセルは絶句した。婚約者以外の女を愛していると。隠そうともせずに告白する男が、信じられなかった。
「貴族たるもの、愛人の一人や二人、いないとね」
「……は?」
「父上が言っていたんだ。実際、ぼくが知っているだけでも父上には愛人が二人いる。むろん、母上も承知しているよ」
エセルは、ぽかんとした。貴族だとて、浮気が原因で婚約破棄もするし、離縁もする。もちろん、エセルの父親は不倫などしていないし、もし万が一していたとしても、絶対に公言などしないだろう。
(……まさか、デレクの御両親がそんな方たちだったなんて)
王立学園でエセルとデレクは出会い、デレクからの告白によって、二人は付き合いをはじめた。
エセルの父、ホラーク伯爵と、デレクの父であるストイチコフ伯爵は、王立学園に通っていたころのクラスメイトだった。何年かぶりの再会を喜びあった父親たちは二人の交際をすぐに認め、やがて二人は婚約した。
ストイチコフ伯爵とストイチコフ伯爵夫人には何度か会ったことがあったが、少なくとも仲が悪いようには見えなかった。例え政略結婚だったとしても、愛人がいることを家族に公言しているなんて、エセルからしてみれば、異常なことだった。
エセルは、膝の上に置かれた自身のこぶしを強く握った。
「……彼女を、愛人として屋敷に迎え入れたいとのことですが」
「うん」
「好きにすればよいと思います」
デレクは「ほんとかい?!」と、ぱっと顔を輝かせた。
「ありがとう。とても嬉しいよ。優しいきみならきっと受け入れてくれると思っていたけど、やはり少し不安だったから、本当にホッとしたよ」
デレクがふう、と息を吐く。エセルは、ただし、と小さく口を開いた。
「わたしはそれを受け入れられませんので、彼女を愛人として屋敷に迎え入れてもよいとおっしゃる令嬢を、これから見つけることですね」
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