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エリノアは、口を閉ざすことを選んだ。下手なことを言って、アントンの怒りを買うことが恐ろしかったから。
何より。あまりにいつも通りの二人に、あの日、耳にしたことは全て夢だったのではないかと無理やり思い込み、自身に暗示をかけるのに、そう時間はかからなかったから。
でも、全てが元通りとはいくわけもなく。
「エリノア。久しぶりに、デートに行かないか?」
教会を訪れたアントンに誘われたエリノアは、いいですね、と笑顔を貼り付けた。
「ちょうど、リビーが甘い物を食べたいと言っていたところなので、とても喜ぶと思います。もうすぐリビーも、清掃が終わるころかと思いますので」
「あ、うん。今回は、二人で行かないか?」
「どうしてですか?」
「最近はずっと、三人で出掛けているし……デートとは、本来、二人でするものだろう?」
三人で出掛けると、いつもリビーと二人で楽しそうにしているくせに、いまさら。と思いながら、きっと誰かに何かを言われたのだろうなと推察した。
「大丈夫です。わたしがわがままを言って、妹を街に連れ出してもらっているんですから。アントン様は何も悪くありません。全ては、わたしのせいです。それにリビーがいたほうが、絶対に楽しいですし」
アントンは、しばらく間を置いてから、思い切るように口を開いた。
「……あの、エリノア」
「はい?」
「きみが妹を大切に思っているのは、とても微笑ましいことだと思う。でも、最近はその……少し度が過ぎているような気がするのだけれど」
「そうでしょうか」
不思議そうに首を傾げてみせるエリノアに、アントンが重ねて問いかけようとしたとき。
「──アントン様!」
アントンに向かって、リビーが駆けてきた。どうしたのですか? とウキウキしながらたずねる。答えたのは、エリノアだった。
「甘い物でも食べに行かないかっていうお誘いよ」
「ええ! 嬉しい! あたしちょうど、美味しいスイーツが食べたいなって思っていたところだったんです」
「良かったわね。リビー」
「い、いや。私は」
戸惑うアントンの腕に、リビーが右手を絡ませた。
「ね、アントン様。どこのお店に行くか、みんなでお話しましょうよ!」
エリノアが「わたし、まだお仕事が残っているから。二人で決めてくれる?」と微笑むと、リビーは、はーい、と左手を上げた。対し、アントンはリビーの手をぱっと振り払い、真剣な双眸をリビーに向けた。
何より。あまりにいつも通りの二人に、あの日、耳にしたことは全て夢だったのではないかと無理やり思い込み、自身に暗示をかけるのに、そう時間はかからなかったから。
でも、全てが元通りとはいくわけもなく。
「エリノア。久しぶりに、デートに行かないか?」
教会を訪れたアントンに誘われたエリノアは、いいですね、と笑顔を貼り付けた。
「ちょうど、リビーが甘い物を食べたいと言っていたところなので、とても喜ぶと思います。もうすぐリビーも、清掃が終わるころかと思いますので」
「あ、うん。今回は、二人で行かないか?」
「どうしてですか?」
「最近はずっと、三人で出掛けているし……デートとは、本来、二人でするものだろう?」
三人で出掛けると、いつもリビーと二人で楽しそうにしているくせに、いまさら。と思いながら、きっと誰かに何かを言われたのだろうなと推察した。
「大丈夫です。わたしがわがままを言って、妹を街に連れ出してもらっているんですから。アントン様は何も悪くありません。全ては、わたしのせいです。それにリビーがいたほうが、絶対に楽しいですし」
アントンは、しばらく間を置いてから、思い切るように口を開いた。
「……あの、エリノア」
「はい?」
「きみが妹を大切に思っているのは、とても微笑ましいことだと思う。でも、最近はその……少し度が過ぎているような気がするのだけれど」
「そうでしょうか」
不思議そうに首を傾げてみせるエリノアに、アントンが重ねて問いかけようとしたとき。
「──アントン様!」
アントンに向かって、リビーが駆けてきた。どうしたのですか? とウキウキしながらたずねる。答えたのは、エリノアだった。
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「ええ! 嬉しい! あたしちょうど、美味しいスイーツが食べたいなって思っていたところだったんです」
「良かったわね。リビー」
「い、いや。私は」
戸惑うアントンの腕に、リビーが右手を絡ませた。
「ね、アントン様。どこのお店に行くか、みんなでお話しましょうよ!」
エリノアが「わたし、まだお仕事が残っているから。二人で決めてくれる?」と微笑むと、リビーは、はーい、と左手を上げた。対し、アントンはリビーの手をぱっと振り払い、真剣な双眸をリビーに向けた。
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