婚約者に選んでしまってごめんなさい。おかげさまで百年の恋も冷めましたので、お別れしましょう。

ふまさ

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 不快そうに、エリカがその手を振り払う。

「わたしとあなたはもう、他人なのです。気安く話しかけないでもらえませんか?」

 知り合ってから別れるまで、こんなに冷たい態度を取られたことがないバージルが、怖じ気づく。だが、負けじと食い下がる。

「お、お願いだ。一度だけでいい。話しを聞いてくれ。頼む。これで最後にするから」

 エリカは、はあ、と大きくため息をつき、わかりました、と吐き捨てた。

「では、どうぞ。手短にお願いしますね」

「こ、ここではちょっと。どこか、二人になれる場所に……」

「婚約者でもないあなたと二人にはなれません」

「な、なら馬車内はどうだろうか。すぐ外に護衛を待機させてもいい」

「嫌です。ここで話してください」

「……本当に、大事な話しなんだ」

 拳を震わせるバージル。エリカは眉をひそめると、五分で終わらせてください、と校舎の出入り口に足を向けた。



「──それで、大事な話しとはなんですか」

 学園の外で待機していたマリアーノ伯爵家の馬車に乗るなり、エリカは口火を切った。早くすませたい。そんな思いが、ありありと見てとれた。エリカの正面に腰を落としたばかりのバージルが、それに応えるように急いで口を開いた。

「ついさっき、僕は、とある令嬢に告白をされたんだ」

「はあ、よかったですね」

「ちっともよくない。いずれ爵位を継げるというから、その告白を受けた。そのとたん、口付けをされた。そのうえ、無理やり胸を触らされたんだ」

 くわっと目を剥き、バージルが必死に訴える。酷いだろう。下品だろう。そう捲し立てる。

「そこで、僕は気付いた。あの令嬢との口付けは、心底気持ちが悪かった。でも、きみとの口付けは、ちっとも気持ち悪くなかったんだ」

 なにが言いたいのか。段々と察してきたエリカが、それでもまさかという思いから、引き攣った声で問いかける。

「……だから?」

「僕は、僕も自覚しないまま、きみのことを愛していたんだよ。それが、やっとわかった」

 目を輝かせながら、バージルが両手を広げる。まるで、感激したエリカがその胸に飛び込んでくることを予想しているように。


「性的対象として見れないなんて言って、ごめんね。あれは間違いだったよ。自分の気持ちにも気付かないなんて、僕は本当に愚かだった」

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