34 / 37
34
はじめての怒鳴り声に、マケラ子爵夫人とグレースが、びくりと身体を震わせた。そんなことにかまっていられるかと、マケラ子爵が続けて怒鳴る。
「追試になったばかりか、それを受けずに逃げてきただと? どれだけ私に恥をかかせれば気がすむんだ!!」
「あ、あなた。そんなに怒らなくても……」
マケラ子爵は、マケラ子爵夫人を鋭く睨み付けた。
「お前もお前だ。子爵夫人になって、何年になると思っている。茶会には一度も誘われない。社交界でも誰とも交流を持とうとしない。おかげで我が家の評判は最悪だ。そんな家と、誰が繋がりを持ちたいと思う? そんな家の娘と結婚したいなどと、まともな貴族なら誰も思わないだろうな!」
肩で息をするマケラ子爵を、マケラ子爵夫人とグレースが唖然と見つめる。いつだって優しかったマケラ子爵が怒りをあらわにしたのは、これがはじめてだったから。
「私は、お前たちを愛していた。オリヴィアとナタリアと違ってな。だからどうであれ、耐えた。待った。いつかは、立派な子爵夫人、子爵令嬢になってくれるだろうと。それがこれとは……っっ」
奥歯をぎりっと噛み締めると、マケラ子爵は背を向け、黙って居間を出て行った。
グレースが泣きそうに焦り「お、お母様、追いかけましょう」と、マケラ子爵夫人の腕を引っ張った。
「…………」
マケラ子爵夫人は不服そうにしながらも、グレースに従い、マケラ子爵を追いかけた。
マケラ子爵が二階へと続く階段をのぼる。グレースが駆け、その後を追う。
「お父様、ごめんなさい。あたし、みんなに馬鹿にされたことが哀しくて、悔しくて……」
ぼろぼろと涙を流すグレースの後ろには、マケラ子爵夫人が無言で立っていた。
マケラ子爵が足を止める。許してもらえる、と期待したグレースが手を伸ばす。その手がマケラ子爵の腕に当たる。マケラ子爵は反射的に、それを払いのけた。
その瞬間、マケラ子爵夫人は背を向けた。マケラ子爵が頭を冷やさない限り、いまはなにを話しても無駄だと感じたからだ。
「……あ」
グレースの小さな声が背後で聞こえた。と、思ったときには、すでに遅く。マケラ子爵夫人の背中に、マケラ子爵に手を払われ、身体がぐらついたグレースの体重が乗っかかってきた。
ぐちゃ。
階段の中ほど。顔から落ちたマケラ子爵夫人から、とても嫌な音がした。
マケラ子爵夫人のおかげで落下を免れたグレースと、その上から一部始終を見ていたマケラ子爵は、しばらく時が止まったように、その場から動けなくなった。
「追試になったばかりか、それを受けずに逃げてきただと? どれだけ私に恥をかかせれば気がすむんだ!!」
「あ、あなた。そんなに怒らなくても……」
マケラ子爵は、マケラ子爵夫人を鋭く睨み付けた。
「お前もお前だ。子爵夫人になって、何年になると思っている。茶会には一度も誘われない。社交界でも誰とも交流を持とうとしない。おかげで我が家の評判は最悪だ。そんな家と、誰が繋がりを持ちたいと思う? そんな家の娘と結婚したいなどと、まともな貴族なら誰も思わないだろうな!」
肩で息をするマケラ子爵を、マケラ子爵夫人とグレースが唖然と見つめる。いつだって優しかったマケラ子爵が怒りをあらわにしたのは、これがはじめてだったから。
「私は、お前たちを愛していた。オリヴィアとナタリアと違ってな。だからどうであれ、耐えた。待った。いつかは、立派な子爵夫人、子爵令嬢になってくれるだろうと。それがこれとは……っっ」
奥歯をぎりっと噛み締めると、マケラ子爵は背を向け、黙って居間を出て行った。
グレースが泣きそうに焦り「お、お母様、追いかけましょう」と、マケラ子爵夫人の腕を引っ張った。
「…………」
マケラ子爵夫人は不服そうにしながらも、グレースに従い、マケラ子爵を追いかけた。
マケラ子爵が二階へと続く階段をのぼる。グレースが駆け、その後を追う。
「お父様、ごめんなさい。あたし、みんなに馬鹿にされたことが哀しくて、悔しくて……」
ぼろぼろと涙を流すグレースの後ろには、マケラ子爵夫人が無言で立っていた。
マケラ子爵が足を止める。許してもらえる、と期待したグレースが手を伸ばす。その手がマケラ子爵の腕に当たる。マケラ子爵は反射的に、それを払いのけた。
その瞬間、マケラ子爵夫人は背を向けた。マケラ子爵が頭を冷やさない限り、いまはなにを話しても無駄だと感じたからだ。
「……あ」
グレースの小さな声が背後で聞こえた。と、思ったときには、すでに遅く。マケラ子爵夫人の背中に、マケラ子爵に手を払われ、身体がぐらついたグレースの体重が乗っかかってきた。
ぐちゃ。
階段の中ほど。顔から落ちたマケラ子爵夫人から、とても嫌な音がした。
マケラ子爵夫人のおかげで落下を免れたグレースと、その上から一部始終を見ていたマケラ子爵は、しばらく時が止まったように、その場から動けなくなった。
あなたにおすすめの小説
家族に裏切られて辺境で幸せを掴む?
しゃーりん
恋愛
婚約者を妹に取られる。
そんな小説みたいなことが本当に起こった。
婚約者が姉から妹に代わるだけ?しかし私はそれを許さず、慰謝料を請求した。
婚約破棄と共に跡継ぎでもなくなったから。
仕事だけをさせようと思っていた父に失望し、伯父のいる辺境に行くことにする。
これからは辺境で仕事に生きよう。そう決めて王都を旅立った。
辺境で新たな出会いがあり、付き合い始めたけど?というお話です。
幼馴染の元カノを家族だと言うのなら、私は不要ですよね。
美杉日和。(旧美杉。)
恋愛
実るはずのない初恋は、告白も出来ぬままに終わった。
私リュシカが恋をした相手は、十五歳年上の第一騎士団の団長。彼は亡くなった母の友人であり、母たちと同じ頃に結婚したものの、早くに奥さんを私の母と同じ流行病で亡くしてしまった。
それ以来独身の彼は、ただ亡くなった奥さんを思い生きてきた。そんな一途な姿に、いつしか私は惹かれていく。
しかし歳の差もあり、また友人の子である私を、彼が女性として認めることはなかった。
私は頑なに婚約者を作ることを拒否していたものの、父が縁談を持ってくる。結婚適齢期。その真っただ中にいた私は、もう断ることなど出来なかった。
お相手は私より一つ年上の男爵家の次男。元々爵位を継ぐ予定だった兄が急死してしまったため、婚約者を探していたのだという。
花嫁修業として結婚前から屋敷に入るように言われ赴くと、そこには彼の幼馴染だという平民の女性がいた。なぜか彼女を中心に回っている屋敷。
そのことを指摘すると彼女はなぜか私を、自分を虐げる存在だと言い始め――
王太子に婚約破棄されたけど、私は皇女。幸せになるのは私です。
夢窓(ゆめまど)
恋愛
王太子に婚約破棄された令嬢リリベッタ。
「これで平民に落ちるのかしら?」――そんな周囲の声をよそに、本人は思い出した。
――わたし、皇女なんですけど?
叔父は帝国の皇帝。
昔のクーデターから逃れるため、一時期王国に亡命していた彼女は、
その見返りとして“王太子との婚約”を受け入れていただけだった。
一方的に婚約破棄されたのをきっかけに、
本来の立場――“帝国の皇女”として戻ることに決めました。
さようなら、情けない王太子。
これからは、自由に、愛されて、幸せになりますわ!
「言ってくれれば手伝ったのに」過労で倒れた私に微笑む無神経な夫。~親友を優先させ続けた夫の末路~
水上
恋愛
夫の持病を和らげるため、徹夜で煮詰めた特製コーディアル。
彼はそれを数秒で飲み干し、私の血を吐くような努力を「ただの甘い水だね。もっとパッと作れないの?」と笑った。
彼の健康も商会の名声も、私が裏で支えているとも知らずに。
ある日、過労で倒れた私は、「言ってくれれば手伝ったのに」と無神経な夫に微笑まれた時、心の中で決意した。
地下室にあるコーディアルの瓶は残り15本。
これがすべて空になるまでに彼が変わらなければ、離縁状を叩きつけよう。
私を失い、体調も商会も崩壊して這いつくばる夫をよそに、私は真の評価を得て自分の人生を歩み始める。
これは、透明な存在として扱われ続けた私が、失望のカウントダウンを進めて自立するまでの、そして、すべてを失った夫が惨めに後悔するまでの物語。
〈完結〉八年間、音沙汰のなかった貴方はどちら様ですか?
詩海猫(9/10受賞作発売中!)
恋愛
私の家は子爵家だった。
高位貴族ではなかったけれど、ちゃんと裕福な貴族としての暮らしは約束されていた。
泣き虫だった私に「リーアを守りたいんだ」と婚約してくれた侯爵家の彼は、私に黙って戦争に言ってしまい、いなくなった。
私も泣き虫の子爵令嬢をやめた。
八年後帰国した彼は、もういない私を探してるらしい。
*文字数的に「短編か?」という量になりましたが10万文字以下なので短編です。この後各自のアフターストーリーとか書けたら書きます。そしたら10万文字超えちゃうかもしれないけど短編です。こんなにかかると思わず、「転生王子〜」が大幅に滞ってしまいましたが、次はあちらに集中予定(あくまで予定)です、あちらもよろしくお願いします*
お姉様優先な我が家は、このままでは破産です
編端みどり
恋愛
我が家では、なんでも姉が優先。 経費を全て公開しないといけない国で良かったわ。なんとか体裁を保てる予算をわたくしにも回して貰える。
だけどお姉様、どうしてそんな地雷男を選ぶんですか?! 結婚前から愛人ですって?!
愛人の予算もうちが出すのよ?! わかってる?! このままでは更にわたくしの予算は減ってしまうわ。そもそも愛人5人いる男と同居なんて無理!
姉の結婚までにこの家から逃げたい!
相談した親友にセッティングされた辺境伯とのお見合いは、理想の殿方との出会いだった。
【完結済】婚約者から病弱な妹に腹を貸せと言われました
砂礫レキ
恋愛
2026/03/28誤字脱字修正しました。
エイデン伯爵家の長女イアナには病弱な妹アリーシャと末弟のルアンが居た。
両親は病弱なアリーシャと後継者のルアンにかかりきりでイアナをかえりみない。贈り物さえイアナの分だけ使用人に適当に考えさせていた。
結婚し家を出れば自分も一人の人間として尊重して貰える。
そんなイアナの希望は婚約者クロスによって打ち砕かれる。
彼はイアナの妹アリーシャと恋仲になっていただけでなく、病弱なアリーシャの代わりにイアナに子供を産むようにと言った。
絶望の中イアナは一人の少年を思い出す。
いつのまにか消えてしまった義兄ルーク、彼だけがイアナに優しくしてくれた人だった。
自分が近い内に死ぬ夢を見たイアナは毒家族の元から去る決意をする。
皆さん、覚悟してくださいね?
柚木ゆず
恋愛
わたしをイジメて、泣く姿を愉しんでいた皆さんへ。
さきほど偶然前世の記憶が蘇り、何もできずに怯えているわたしは居なくなったんですよ。
……覚悟してね? これから『あたし』がたっぷり、お礼をさせてもらうから。
※体調不良の影響でお返事ができないため、日曜日ごろ(24日ごろ)まで感想欄を閉じております。