悪夢から目覚めたわたしは、気付かないふりをやめることにしました。

ふまさ

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 はじめての怒鳴り声に、マケラ子爵夫人とグレースが、びくりと身体を震わせた。そんなことにかまっていられるかと、マケラ子爵が続けて怒鳴る。

「追試になったばかりか、それを受けずに逃げてきただと? どれだけ私に恥をかかせれば気がすむんだ!!」

「あ、あなた。そんなに怒らなくても……」

 マケラ子爵は、マケラ子爵夫人を鋭く睨み付けた。

「お前もお前だ。子爵夫人になって、何年になると思っている。茶会には一度も誘われない。社交界でも誰とも交流を持とうとしない。おかげで我が家の評判は最悪だ。そんな家と、誰が繋がりを持ちたいと思う? そんな家の娘と結婚したいなどと、まともな貴族なら誰も思わないだろうな!」

 肩で息をするマケラ子爵を、マケラ子爵夫人とグレースが唖然と見つめる。いつだって優しかったマケラ子爵が怒りをあらわにしたのは、これがはじめてだったから。

「私は、お前たちを愛していた。オリヴィアとナタリアと違ってな。だからどうであれ、耐えた。待った。いつかは、立派な子爵夫人、子爵令嬢になってくれるだろうと。それがこれとは……っっ」

 奥歯をぎりっと噛み締めると、マケラ子爵は背を向け、黙って居間を出て行った。

 グレースが泣きそうに焦り「お、お母様、追いかけましょう」と、マケラ子爵夫人の腕を引っ張った。

「…………」

 マケラ子爵夫人は不服そうにしながらも、グレースに従い、マケラ子爵を追いかけた。

 マケラ子爵が二階へと続く階段をのぼる。グレースが駆け、その後を追う。

「お父様、ごめんなさい。あたし、みんなに馬鹿にされたことが哀しくて、悔しくて……」

 ぼろぼろと涙を流すグレースの後ろには、マケラ子爵夫人が無言で立っていた。

 マケラ子爵が足を止める。許してもらえる、と期待したグレースが手を伸ばす。その手がマケラ子爵の腕に当たる。マケラ子爵は反射的に、それを払いのけた。

 その瞬間、マケラ子爵夫人は背を向けた。マケラ子爵が頭を冷やさない限り、いまはなにを話しても無駄だと感じたからだ。

「……あ」
  
 グレースの小さな声が背後で聞こえた。と、思ったときには、すでに遅く。マケラ子爵夫人の背中に、マケラ子爵に手を払われ、身体がぐらついたグレースの体重が乗っかかってきた。

 ぐちゃ。

 階段の中ほど。顔から落ちたマケラ子爵夫人から、とても嫌な音がした。

 マケラ子爵夫人のおかげで落下を免れたグレースと、その上から一部始終を見ていたマケラ子爵は、しばらく時が止まったように、その場から動けなくなった。

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