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翌朝

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目が覚めたらなんと翌日だった。
そしてさらに驚いたことに、アスファーはまだ俺のベッドサイドに座っていた。


「えっ、なんで……?って、ごめん!」


一晩付きっ切りでいるなんて、家族の看病だって辛い。
なのに全くの他人の俺のために起きてるなんて。
『そばに居る』と言ってくれたのは優しい方便みたいなものだと思っていた。
だってまさか本当に起きるまでいるなんて思わないだろう。


「ちょっと寝ないくらい、別に大したことない。」


首を横に振ってそう言ってはいるが、アスファーはどこか疲れたような……いや、苦しそうな顔だ。
俺がのそのそ起きだすと、そっと手助けしてくれるけど、どうにも弱ったような顔が痛々しい。


「疲れただろ?ほんとごめん。ちょっと電話だけ貸してくれたら、あとは何とかするから寝ててよ」


そう言ってやんわりと手を押し戻そうとするけど、予想以上に力強い手に逆に捕まえられた。
熱い手のひらに、不謹慎だけどどきりと心臓が高鳴る。


「弱っているお前を一人にしろと言うのか?」


いや、べつに一人になっても大丈夫でしょ。
打ったはずの頭も今はもう別に痛くないし。
なぜか全身が怠いけど、それだって寝たきりになるほどじゃない。
一人じゃ眠れないような歳でもない。

だが彼からはまるで信じられないとでも言いたげな雰囲気が漂っていて、恩人と口論になるのは嫌だな、と思っていると。
コンコン、と軽やかにノックが響いた。



「風竜アスファー様ならびにその番様、国王のワハシュでございます。恐れながら入室の許可を頂きたく」


厳かな声が扉の外から聞こえてくる。

その声に俺は半分寝てたような脳みそが一気に目覚めるのを感じた。

……今、なんていった?
国王?え、聞き間違い?

混乱する俺をよそに、アスファーは不機嫌そうな声で応える。


「ならん。まだウィチは起きたばかりだ」

「大変失礼いたしました。では、また改めて」


扉の外の「国王」はあっさりと諦めていなくなろうとする。
それに俺は慌てて声を上げた。


「や、いやいやいやいや! 俺のタイミングとか全然大丈夫です! どうぞ、お入りください!」


嫌な予感しかしないけど、昨日から感じている妙な違和感。
いやに広くて豪華な部屋。
日本とどこか違う雰囲気のする空気。
そして、どこか話の通じない目の前の美形。

それが、この「国王」とかに会えば解消される気がする。

そう思って慌てて引き留めた。
そんな俺に、アスファーは大きなため息をついた。

そして俺を扉から隠すように、俺を背後にベッドの上に横向きに腰掛けた。


「ウィチがそう言うなら許す、入ってこい。だが目線は上げないように」


尊大にも聞こえる言葉に俺は目を剥く。
アスファーとこの国王との力関係ってどうなってるんだ。
そう思ってる間に大きな扉が開かれて、俺の親父より年上だろう男が入ってきた。

真っ白い髪に同じ色の髭、そして豪華なマント。
少し太って体格がいい。
顔は伏せられて造作は見えないけど、おそらくアスファーと同じ外国人の彫の深さのある顔。

その後ろにずらりと控えるやっぱり壮年の男性たち。

その姿に俺は顔が引きつるのを感じる。
……これは、聞き間違えじゃなく国王っぽい。
そして昨日からずっと感じ続けてる違和感が、じわじわと俺の頭の中でリアルになってくる。

死んだかもと思った後なのに全然違う場所で起きたこと。
明らかに外国人顔で日本語ペラペラの男たち。
見たこともない服装。

そして国王という言葉。
これはもしかして、……もしかするんじゃないのか。


「アスファー様、ついに番様を得られたとのことお慶び申し上げます」

「ああ。番の体調が整い次第、巣を作る。その間、彼を煩わせないように」

「もちろんでございます」


部屋に入った国王は、視線を下げたまま口上を述べる。
それに鷹揚に頷いたアスファーは、俺には意味の分からないことを言うが、国王はそれに深く頷いた。

しばらく会話が続くかな、と思って観察していたら、アスファーはくるりと此方を向いた。


「ウィチ。ほんの暫くの間、ここで暮らして欲しいんだが……いいか?」


ここ。
ここって、このやたらとデカい部屋か。庶民の俺に、ここで暮らさせてもらえと言うのか。
部屋代いくらになるんだよ。
俺は別にそんなに重病人じゃないし、すぐにだって出ていける。
だけど今ここで放り出されたら……そう考えると彼の提案を無下にするのも戸惑われる。
分かったと応えるわけにはいかなくてどう応えるか考えあぐねていると、アスファーはきゅっと眉を寄せた。


「部屋が気に入らないなら、別の場所を用意する。もしこの国が嫌なら、別の国にしよう」

「いや、いいって言うか、気に入らないとかじゃないよ、別に」

「正直に言ってくれ。お前がここが嫌ならどこへでも行こう」

「本当に嫌じゃないって」


アスファーの別の国って言葉に、おじさんたちの緊張が高まったのか小さなざわめきが聞こえた。
俺はアスファーから視線を外して、まだベッドから遠くで顔を俯けている国王へと向き直る。


「あの、……すみません」


俺の声におじさんたちの意識が一気に俺に集まる。
一回り以上年上のおじさんたちの視線が殺気立っていて怖い。
それに俺がおじさんたちに声を掛けたことに、アスファーもなんだか驚いたように固まって……それから不機嫌そうに眉を吊り上げる。
明らかに歓迎されていない行為っぽいけど、ここで流されるととんでもないことになりそうだと、俺は意を決して口を開いた。


「なんか、俺、この国の……いや、この世界の人間じゃないっぽいんですけど、そこらへん大丈夫ですか?」






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