ハロウィントリップ!〜異世界で獣人騎士に溺愛された話〜

のらねことすていぬ

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2 ニンゲン?

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「大丈夫? 落ち着いた?」
「……はい。すみません」


 大通りに出た途端に座り込んでパニックを起こしてしまった。そんな俺をフードの男は軽々と抱き上げ、また裏路地まで連れ戻してくれる。そのまま少し歩いて、薄暗くてお世辞にも綺麗とは言えない建物の中に入ると、足音を立てずにその中の一室に滑り込んだ。
 ここはどこだろうか。部屋の中は狭くて、ベッドが一つかろうじて入っているだけ。窓の光が差し込んでいるから明るいけれど、少しだけカビの匂いがする。誰かが生活しているようだけどどうにも狭いし壁や床も年季が入りすぎている。
 しばらくベッドを占領した俺がようやく呼吸を取り戻して体を起こすと、彼も俺の横に腰掛けた。


「本当にどうしたの? なにか病気でもあるの?」
「いや、違うんです……。その、さっきの道って、なんかイベントか何かやってるんですか……? みんな動物の耳付けて、すっごい背の高い人ばっかりだったんですけど」
「何言ってるの? 耳はみんな付いてるし、特に大きい人もいなかったと思うけど」
「いや! 耳も変だし、背の高いあんたより大きい人いっぱいいたじゃないですか!」
「落ち着いてよ。俺より大きいって、それは俺まだ15歳だもん。あと3年もしたら伸びるよ」
「はぁ!? 15歳……!? 嘘だろ……?」

 俺はへろへろとまたベッドに逆戻りする。もし、もし彼の行っていることがドッキリでも冗談なんでもなくて本当なら、俺はとんでもないことになっているのかもしれない。みんな姿かたちはおかしいし、建物も道も全く見覚えのないものだし。頭の中に疑問符が無数に湧いてきて思考が定まらない。

「あー……ねぇ、俺レオンって言うんだ。君は?」

 ああ、そう言えばこんなに世話になってるのに名乗りもしていなかった。混乱してたとはいえ、自分よりもずっと若い、まだ子供である彼に気を遣ってもらって若干バツが悪い。

「佐田、佐田洋司」
「サータヨージ? 変わった名前だね。」
「……さた、ようじ」
「サタ?」

 いきなり呼び捨てか。そう思ったけどムキになるのも大人げないので、こくりと頷く。彼が子供でフレンドリーなら、こちらも気を張る必要はないだろう。

「サタ! なんか可愛い名前だね! ぴったりだよ!」
「可愛いって、俺いい年なんだけど……それよりレオン、色々と聞きたいんだけど、いい?」
「もちろん! こんな獣性の薄い子に聞かれたら、なんでも答えちゃうよ!」

 レオンがふにゃりと目じりを下げる。だが俺はさっきからレオンが繰り返し言っている「獣性」に気を取られていた。

「レオン……獣性が薄いってどういうこと? 俺、何が薄いの?」
「え? サタは爪とか牙とか、俺たちが四足の獣だった頃の名残がほとんどないでしょ? 獣性が濃く強く残っているほうが力も強いし高い地位につきやすい。けど獣性が薄いとその分……その、守らなきゃって気分にさせられるんだ。ニンゲンがいたころの本能って言われてるよ。聞いたことない?」
「……ない」

 俺は力なく首を振る。やっぱり『ここ』は俺の知っている世界と違う。獣。獣だった頃の名残。そんな話は聞いたことない。かといってレオンが嘘をついているとは思えなかった。その証拠のようにピコピコと揺れるレオンの尻尾を見ながら思う。

「な、なぁ。人間がいた……ってどいういことだ? 今はいないのか?」
「ニンゲンは絶滅したって言われてるよ。でも噂では王城で生き残りが何匹か飼われてるみたい。俺たち獣人と交わっちゃうと子供に獣性がでちゃうから、隔離しているんだって。一生部屋から出さないとか、可哀そうだよなー。まぁ本当のところは分からないけどね」

「飼われて……。じゃあ、ニンゲンだってばれたら、俺も……?」
「サタ? なに言ってるの、サタにはちゃんと猫族の耳がついてるじゃん……って、ええ!」

 笑いながらレオンがすっと手を伸ばして、俺の猫耳を撫でて……そして絶叫した。それはそうだろう。俺の頭についた猫耳はちゃちなオモチャで、引っ張ったらすぐ取れる。


「サタって……もしかしてニンゲンなの?」


 手の中の猫耳カチューシャを持って茫然とするレオンに、俺はこくりと頷いた。

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