【BL】魔王様の部下なんだけどそろそろ辞めたい

のらねことすていぬ

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6.辞める?*

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私の言葉は、突拍子もなかったせいもあってか、広い魔王様の部屋で白々しく響いた。
大声を出したつもりはないけれど確かに私の声は魔王様の耳に届いたようで、彼は赤い瞳を何度か瞬きさせると、確かめるように繰り返した。



「辞める……?」

「はい、名前を思い出しました。この城にいるのは、私が名前を思い出すまで。そう仰っていたでしょう?」


名前を。
最初に、魔王様が私の名前を聞いてきたのが始まりだった。
恐怖のせいか言葉にできなかった私を、その腕に抱え上げてくれたのが、すべての始まりだったのだ。
そしてその時にいっていたじゃないか。


『では思い出すまで、我が城にいるといい』


思い出すまで。
そう確かに言っていた。
べつに、ずっと傍に居ろと言われたわけじゃない。
本当ならば名前を思い出すまでの、ほんの短い時間のはずだったんだ。
だから私が自分の名前を思い出したと言えば、それでお仕舞だ。
もう私は大人になったのだと、魔王様の近くで庇護される必要はないのだと、その証になるだろう。


「私の名前はアルファルドと申します。……長いこと、大変お世話になりました」



その場に両膝をつき、深く頭を下げる。
久しぶりに言葉に出した自分の名前は喉に酷く引っ掛かったけれど、何とか吐き出す。

魔王様には感謝しても返しきれないほどの恩がある。
だけどもうそばに居られない。
これで終わりだ。


「私の後任は、魔王様の側近の方と話して……」


私一人がいなくなったところで、大勢の優秀な部下を抱える魔王様に不便はないだろう。
そう思って言葉を重ねていると。

不意に足元から無数の触手が湧いた。


「…………っ、な!」


驚きに床から飛び上がるが、ざわざわと音を立てながら蠢くそれは、恐ろしいほどの速さで私の手足に絡みつく。
きつく皮膚に食い込むそれに驚き言葉を失っていると、ベッドに腰掛けていた魔王様からゆらりと不穏な空気が溢れた。


「ここから逃げようというのか」


ゾッとするような低い声。
肌を刺す殺気に近い気配。
絡みついてくる触手はぞわぞわと私の体を這いずり回り、気持ち悪さに振り払おうとすると余計にきつく纏わりついてくる。
触手の重みに負けてその場に膝をつく。


「ま、……まお、さ、ま」


何が起こっているんだ。
私の何が、魔王様の不興を買ってしまった?

まさか小姓を辞めるということが?
いや、だってそんな筈はない。
だって私は替えの利く存在で、こんな弱い悪魔が一匹いなくなったところで、魔王様には何の不自由もないはず。

じゃあ一体何で……?

私が目を白黒させていると、魔王様は小さく指先を揺らす。
それに従うように触手がざわめき、私の体は寝台の上に引きずり上げられた。


「どうなんだ、レヴィス……いや、アルファルドと呼ぶべきか?」


アルファルド、そう呼ばれた瞬間、体が、魂がぞわりと震えるような気がした。
とてつもなく恐ろしいものに心臓を握られ、柔らかく弄ばれているような。
触手だけでなく四肢に、そして魂にすら縄をかけて縛られたような。
全身の力が抜けそうな恐ろしい気配が、魔王様が私の名前を口にした途端に襲ってきた。

恐怖にまともに息をすることもできずに、ただ体が強張る。
そんな私の様子を気にする風でもなく、魔王様の指先が私の顎を掴んだ。


「まぁどちらでも良いか。今さら昔の話を引っ張り出してきて去ろうとするなんてな。舐められたものだ」

「魔王、様……?」

「離れるなんて許すはずがない」



指先で顎を持ち上げられて視線を上げさせられる。
私の顔は恐怖に蒼褪めてさぞ醜いものだっただろう。

小刻みに震える唇で縋るように魔王様と繰り返すと。
魔王様の紅い瞳の奥が、一瞬激しく燃え盛った気がした。












くち、という粘着質な音が部屋に響いた。
それが今は、触手が分泌する粘液なのか。それとも自分がたらたらと零してしまっている蜜なのかすら分からない。


「やっ、ぁあ、ああ!」


あお向けに転がされ脚を大きく開いて拘束された下肢には、グロテスクな触手が絡みついていた。
浅黒い色をしたそれはずりずりと陰茎に纏わりつき、扱き、今まで誰にも触れられたことのない陰茎を苛んでくる。

とっくに服は破り去られ白く肉のない体が晒されているが、恥ずかしいと感じる間もない程に与えられる刺激に翻弄される。
口から漏れる情けない声。
それに羞恥心が湧き起こるが、声を抑えることもできない。
ぬるつく触手の体液は、媚薬を含んでいるんだろうか。
いつからか思考が定まらなくなって、ただただ熱い体に振り回されている。


「ひっ、あ、あ」


何でこんなことに。
ふっと意識が飛びそうになる程の快感の合間に、辛うじて残っている理性が、このあり得ないことに頭を疑問符で埋める。
だがまるで私が他のことを考えているのを察知したかのように、触手たちがぞろりと一層激しくあちこちを刺激してきた。

乳頭をさっきから舐めるように擦り、胸の尖りを柔らかく刺激していた触手は、押しつぶすように。
そして下肢を苛んでいた触手の先端がぱかりと口を開いたかと思ったら、陰茎の先端にかぶりついてきた。


「ぁあっ、ああ、あ゛あ゛あ゛!!」


ぬめりを帯びた触手の捕食口のような内部に咥え込まれる。
中はぬるぬると熱く湿っていて無数の突起が擦れ、強弱をつけて揉みしだかれる。
腰が蕩けそうなほどの刺激に、喉を逸らして叫ぶ。

今までまっさらだった身が、突如として暴力的なまでの快感を与えられて正気でいれらるわけがない。
跳ねる腰をベッドから浮かせ、狂ったように頭を振って快楽から逃げようとするけれど、触手はそれをものともせずにじゅぼじゅぼと水音を立てて陰茎に吸い付いている。


「だめ……、も……、イ、イく、ぅ……、っあああ、あ゛!」


獣のような声を上げて、極まった体が派手に跳ねる。
触手に咥えられたままの先端から白濁を吹き上げ、びくびくと体を痙攣させた。

言葉にならない嬌声を上げ、長い射精を終えて体を弛緩させかけて、それでも動きを止めない触手に慌てたように身悶えした。


「やっ……、も、やめ……っ!」


とっくに絶頂に達したというのに、しかもその白濁を吸い込んだのであろう触手は、動きを止めないどころか、一層激しく体を這いまわっている。

陰茎に吸い付いた触手は、先端から根本までぴっちりと飲み込むと、撫でるような蠕動を繰り返す。
尻のあわいを這っていた触手は……その奥の蕾を柔らかく撫でたかと思ったら、つぷりと内側に入り込んできた。

指ほどの太さで粘液を纏った触手は難なく体の内側に入り込み、ぐちゅ、と音を立てて内壁を舐めるように蠢く。
そんなところを暴かれたのは初めてだというのに、探るように浅く深く出し入れされ、じわりと背筋が痺れる。


「ひっ!ぃ、!い、や!」

「嫌?気持ちよくないか?」


休む間もなく全身に与えられる快楽が辛くて涙を零すと、繰り広げられる私の痴態をただ眺めていた魔王様が、その指先を私の頬に滑らせて、零れた涙を掬いあげた。

その優し気な指先は私の頬を滑り、首筋を辿り、戯れのように胸を撫でる。
いつもは冷たい魔王様の瞳は、今は爛々と欲に濡れた色を宿していて、それが背筋を震わせた。


「魔王、様、……なん、で、」

「そんなこと分かっているだろう。お前が逃げようとするからだよ」


分からない。
私が逃げようとしたからって、でも、なんでこんなことを。
魔王様は人間にしか情けを与えないんじゃなかったのか。
ずっとそばに居た私には見向きもしなかったじゃないのか。

快感で蕩けさせられた頭の中はぐちゃぐちゃで、訳が分からなくて私は首を横に振る。
ただ彼から獣欲とともに苛立ったような気配を感じて、私は何が彼の気に障ったのか分からないまま許しを請う。


「ご、ごめんな、さ、い……」

「謝ってもダメだ。さぁ、『アルファルド』、脚を開け」


魔王様がそう呟くと、体がまるで操られるように勝手に動いてはしたなく全てをさらけ出すような恰好になる。
後孔を弄んでいた触手がずるりと抜け落ち、ひくつく蕾が彼の目に晒される。


「ああ、もうそろそろ我慢の限界だな……お前を200年待ったんだ。たっぷり楽しませてくれ」


そう言って唇を舐めた魔王様の屹立は、恐ろしいほど隆起していて。
無駄だと分かっていても私は叫ぶのを止められなかった。








---





薄暗い廊下に立って、ゼーは頭痛を庇うかのように額に手を当てた。
鈍すぎる小悪魔が心配でこの200年程見守っていたが、どうも上手い具合にはいかなかったようだ。


「だから、一人で考えずに言えって言ったのにな。……上手く立ち回れば、監禁なんてされなかっただろうに」


閉じた扉の奥からは悲鳴のような嬌声がひっきりなしに響いてくる。
不慣れな体には酷だけれど、彼が己でまいた種だ。
どうあがいても今更逃げられないし誰にも助けられない。
もちろん逃げられないのは彼が魔王に目を付けられた時から分かっていたけれど、もう少し穏やかな着地点があっただろう。




魔王がレヴィスを拾ったのは、側近たちにとっては青天の霹靂だった。
それまではどれほど強い魔族でも、魅力的な淫魔でも真剣に相手になんてしたことがなかったのに、薄汚れた孤児を懐に入れ、しかも育つまで待つだなんて。
正直ゼー自身も、100年近くは信じられなかった程だ。

レヴィスの小さく細すぎる体は、当初は魔王の精を浴びたら一気に灰になってしまうほど弱かった。
だから徐々に体力と魔力を付けさせ、傍に置き、魔王の強すぎる魔力に体が慣れるまで待って、本当に少しづつ闇に堕としていっていたのだ。
あの飽き性で冷酷な魔王が、根気強く。


「それなのにバカだなぁ。魔王様が今まで手を出さずに我慢していたっていうのに、自分から煽るなんて」


レヴィスが名前を告げることができなかったのは、彼の本能が『名を明け渡したら魂まで囚われる』と分かっていたからだろう。
だというのに今になって名を告げ、しかも逃げ出そうとするなんて。
最悪な火のつけ方だ。
愚かとしか言いようがない。

イレスも言っていたように、今まで連れてこられた人間は全て少し精を吸われるだけで『何もされていない』。
レヴィスだってよく考えれば分かっただろう。
魔力の塊のような魔王に性交を強いられたら、ただの人間が一瞬すらも持つはずがない。

この200年、レヴィスのことだけを想って欲を溜め込んだ魔王。
その欲を堰き止めていたものが決壊したのなら、きっと泣き喚く程度では手加減すらしてもらえない。

しばらくはベッドから降りることすら叶わないであろう憐れな悪魔を思って、ゼーは小さくため息をついた。








◇◇◇◇◇
本編終了です。
次回から攻め視点が続きます。

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