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3.謝罪と強奪
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風がうねり竜巻となり木々を揺らす。
領地に侵入してくる黒竜に、憐れな小鳥たちが口やかましく騒ぎながら逃げていった。
だがそんなことを気にする余裕すらない俺はアイレが住む領地のはずれの小さな小さな巣の前に降り立った。
俺が地に足を着けた衝撃で彼の巣が揺れ、アイレが何事かと飛び出して来た。
「アルディート!? 一体どうしたんだ!?」
「アイレ! アイレ、すまなかった!知らなかったと言って許されるとは思っていない。俺、お前に酷いことをしていた! 有翼族は番がいないと死んでしまうなんて……!」
人型に変わると、彼の巣に押し入ってその細い体を抱きしめる。
アイレの体は折れそうなほど細かった。
「ごめん、ごめん! 俺、知らなかったんだ」
叫ぶようにして謝ると、アイレはほぼ錯乱しているような俺に苦笑して落ち着いた声で『そのことか』と呟いた。
「いいんだよアルディート。俺は番はつくらない。もう諦めた」
彼はそっと俺の腕の中から逃れると、小さく首を横に振る。
その言葉に俺は愕然と目を見開いた。
番をつくらないなんて。
そんなことしたら、彼はもうすぐ死んでしまう。
恋しい寂しいと鳴きながら。
そんなことあってはならない。
「何言ってるんだ……アイレは綺麗だ、誰よりも。どんな雌だってきっと好きになる。今からでも求愛に行こう」
強く腕を掴んで外へ引きずり出そうとするけど、彼は苦しそうな顔をするばかりだ。
なぜ、と繰り返すと彼は顔を俯けて細い声で呟いた。
「……好きな相手にはもう求愛しただろ。でもダメだった」
好きな相手に、求愛した。
彼の言葉が頭の中で響く。
アイレはもう求愛していたのか。
俺の知らないところで。
それで振られて……もうこれ以上生きるのを諦めたというのか。
呆然とその顔を見る俺に、彼は困ったように笑った。
「しょうがないよ。この地味な顔と羽じゃあ相手にされなかったってだけだ。お前のせいじゃない」
彼が羽を広げて、フワフワと何度か羽ばたかせる。
その柔らかそうな羽に俺はそっと指を伸ばした。
「慰めてくれるのか?気にしなくていい。お前も言っただろう、綿埃って。俺だって本当にその通りだと思うよ。自分でもこんな羽、地味で嫌になる」
悲し気に瞳を歪めて、でも口の端は無理やり笑みの形に釣り上げてアイレが吐き捨てる。
「アイレ、お前は美しいよ。頼む、もう一度……」
「お前は本当に見た目によらず優しいな。顔は怖いくせに。……でもいいんだよ、そんな嘘」
彼が羽を折りたたみ俺に背を向けた。
「何度も求愛して、何度も断られて……これ以上辛い思いをするなら、もういなくなっちゃいたいんだ」
震える声に揺れる細い肩。
すべてを諦めたように俺を拒絶する背中。
それを見た瞬間、俺はアイレを床に引き倒していた。
「……なっ!」
うつ伏せに床に倒れた彼は驚いたのか体を強張らせて、起き上がろうともがく。
だけど暴れる小鳥を捕らえるなんて造作ないことだ。
傷つけないように注意しながら、だが決して逃れられない強さで彼を押さえつける。
羽越しに俺を見ようと首をひねるアイレの羽の付け根に、俺はそっと牙を立てた。
「有翼族の求愛方法は、羽を広げて踊って相手に選ばれるのを待つんだよな?」
できるだけ穏やかな声を意識して尋ねると『そうだ』とこんな格好にされても律儀に返事が返ってきた。
じゃあ、と声を低くして密やかに彼の耳元に口を寄せる。
「じゃあ、竜族の番の娶り方を知っているか?」
吐息が耳をくすぐるのが嫌なのか、彼は体を小さく跳ねさせた。
彼の返事を待たずに、細い体を指先でそっと撫ぜながら囁く。
「俺たちは相手に選んでもらうなんて悠長な真似はしない。番にすると決めたら、他の奴に奪われる前に巣に連れ帰って犯すんだ」
「相手の、意思は、」
至極まっとうなことを言うアイレに苦笑を漏らす。
彼は今、自分がどれだけ危険な状況にいるのか分かっているんだろうか。
黒い靄のような狂暴な気持ちが俺の心を満たしていく。
「相手の意思なんて関係ない。だから昔、言っただろう? 竜族は番を作らない方がいいって。俺たちは隠してはいるが狂暴だし、一度相手を決めたら執念深い。首に食らいついてでも、離さない」
「でも……そんなの酷いだろ」
かすれ声でアイレが呟く。
その言葉に俺は、やっぱり彼は理解していないと嗤った。
もう酷いと言われようが嫌だと泣かれようが、選択肢なんて彼には与えられていないのに。
この忌まわしい愛が彼の身に振りかかっているということに気が付いていないんだろうか。
「そうだな酷いな。でも俺は優しいから、お前に選ばせてあげる。なぁアイレ、俺の巣に連れ帰って犯されるのと、ここで犯されるの。どっちがいい?」
そう言いながら、俺はアイレの翼を撫で上げた。
柔らかな手触りは俺の手に馴染んで温かい。
そのままシャツ越しに素肌に手を滑らせると、アイレは焦ったようにもがき始めた。
「は……? おいアルディート、なに言ってるんだ」
「お前を番にはしたくなかったよ。泣くところは見たくなかったから、だから本当は番にしないと決めてた。でも、お前がお前をいらないっていうなら……だったら俺がもらってもいいよな」
ちゅ、と音を立てて首筋に吸い付く。
柔らかな肌はしっとりと暖かく、早く牙を立てたくてぞくぞくする。
「アイレ、返事がないからここで犯すぞ」
「やめ、ふざ……けんな!」
「ふざけてない。抵抗するなよ、黒竜に敵わないのは分かるよな?」
言いながら片手で押さえつけて、もう片手でシャツを破り去る。
やや性急にズボンにも爪を立てると薄い布地は紙のように破れて、彼の薄い体が俺の眼下に晒された。
「なんでこんなことするんだ!」
「だから言ってるだろ。お前を竜族の、……俺の番にするんだ。嫌でも」
ひ弱な抵抗を繰り返すアイレに苛々して、白い肩に噛みついた。
竜族は番を決めたら攫って閉じ込めて絶対に逃がさない。
初めてアイレに会った時に芽吹いた感情。
あれはたしかに恋で、彼を番にしてしまいたいと思った。
だけどアイレが友人になりたいと言うから必死に抑えていたのに。
自由を愛する彼が生きるためなら、俺は狂ってでもこの気持ちを抑えて鳥族と番わせてやろうと思ったのに。
それなのにアイレは恋に破れて勝手に死のうとしている。
……そんな要らない命なら、俺がもらってもいいだろう。
俺は醜悪な笑みを浮かべると、彼の下肢に手を伸ばした。
風がうねり竜巻となり木々を揺らす。
領地に侵入してくる黒竜に、憐れな小鳥たちが口やかましく騒ぎながら逃げていった。
だがそんなことを気にする余裕すらない俺はアイレが住む領地のはずれの小さな小さな巣の前に降り立った。
俺が地に足を着けた衝撃で彼の巣が揺れ、アイレが何事かと飛び出して来た。
「アルディート!? 一体どうしたんだ!?」
「アイレ! アイレ、すまなかった!知らなかったと言って許されるとは思っていない。俺、お前に酷いことをしていた! 有翼族は番がいないと死んでしまうなんて……!」
人型に変わると、彼の巣に押し入ってその細い体を抱きしめる。
アイレの体は折れそうなほど細かった。
「ごめん、ごめん! 俺、知らなかったんだ」
叫ぶようにして謝ると、アイレはほぼ錯乱しているような俺に苦笑して落ち着いた声で『そのことか』と呟いた。
「いいんだよアルディート。俺は番はつくらない。もう諦めた」
彼はそっと俺の腕の中から逃れると、小さく首を横に振る。
その言葉に俺は愕然と目を見開いた。
番をつくらないなんて。
そんなことしたら、彼はもうすぐ死んでしまう。
恋しい寂しいと鳴きながら。
そんなことあってはならない。
「何言ってるんだ……アイレは綺麗だ、誰よりも。どんな雌だってきっと好きになる。今からでも求愛に行こう」
強く腕を掴んで外へ引きずり出そうとするけど、彼は苦しそうな顔をするばかりだ。
なぜ、と繰り返すと彼は顔を俯けて細い声で呟いた。
「……好きな相手にはもう求愛しただろ。でもダメだった」
好きな相手に、求愛した。
彼の言葉が頭の中で響く。
アイレはもう求愛していたのか。
俺の知らないところで。
それで振られて……もうこれ以上生きるのを諦めたというのか。
呆然とその顔を見る俺に、彼は困ったように笑った。
「しょうがないよ。この地味な顔と羽じゃあ相手にされなかったってだけだ。お前のせいじゃない」
彼が羽を広げて、フワフワと何度か羽ばたかせる。
その柔らかそうな羽に俺はそっと指を伸ばした。
「慰めてくれるのか?気にしなくていい。お前も言っただろう、綿埃って。俺だって本当にその通りだと思うよ。自分でもこんな羽、地味で嫌になる」
悲し気に瞳を歪めて、でも口の端は無理やり笑みの形に釣り上げてアイレが吐き捨てる。
「アイレ、お前は美しいよ。頼む、もう一度……」
「お前は本当に見た目によらず優しいな。顔は怖いくせに。……でもいいんだよ、そんな嘘」
彼が羽を折りたたみ俺に背を向けた。
「何度も求愛して、何度も断られて……これ以上辛い思いをするなら、もういなくなっちゃいたいんだ」
震える声に揺れる細い肩。
すべてを諦めたように俺を拒絶する背中。
それを見た瞬間、俺はアイレを床に引き倒していた。
「……なっ!」
うつ伏せに床に倒れた彼は驚いたのか体を強張らせて、起き上がろうともがく。
だけど暴れる小鳥を捕らえるなんて造作ないことだ。
傷つけないように注意しながら、だが決して逃れられない強さで彼を押さえつける。
羽越しに俺を見ようと首をひねるアイレの羽の付け根に、俺はそっと牙を立てた。
「有翼族の求愛方法は、羽を広げて踊って相手に選ばれるのを待つんだよな?」
できるだけ穏やかな声を意識して尋ねると『そうだ』とこんな格好にされても律儀に返事が返ってきた。
じゃあ、と声を低くして密やかに彼の耳元に口を寄せる。
「じゃあ、竜族の番の娶り方を知っているか?」
吐息が耳をくすぐるのが嫌なのか、彼は体を小さく跳ねさせた。
彼の返事を待たずに、細い体を指先でそっと撫ぜながら囁く。
「俺たちは相手に選んでもらうなんて悠長な真似はしない。番にすると決めたら、他の奴に奪われる前に巣に連れ帰って犯すんだ」
「相手の、意思は、」
至極まっとうなことを言うアイレに苦笑を漏らす。
彼は今、自分がどれだけ危険な状況にいるのか分かっているんだろうか。
黒い靄のような狂暴な気持ちが俺の心を満たしていく。
「相手の意思なんて関係ない。だから昔、言っただろう? 竜族は番を作らない方がいいって。俺たちは隠してはいるが狂暴だし、一度相手を決めたら執念深い。首に食らいついてでも、離さない」
「でも……そんなの酷いだろ」
かすれ声でアイレが呟く。
その言葉に俺は、やっぱり彼は理解していないと嗤った。
もう酷いと言われようが嫌だと泣かれようが、選択肢なんて彼には与えられていないのに。
この忌まわしい愛が彼の身に振りかかっているということに気が付いていないんだろうか。
「そうだな酷いな。でも俺は優しいから、お前に選ばせてあげる。なぁアイレ、俺の巣に連れ帰って犯されるのと、ここで犯されるの。どっちがいい?」
そう言いながら、俺はアイレの翼を撫で上げた。
柔らかな手触りは俺の手に馴染んで温かい。
そのままシャツ越しに素肌に手を滑らせると、アイレは焦ったようにもがき始めた。
「は……? おいアルディート、なに言ってるんだ」
「お前を番にはしたくなかったよ。泣くところは見たくなかったから、だから本当は番にしないと決めてた。でも、お前がお前をいらないっていうなら……だったら俺がもらってもいいよな」
ちゅ、と音を立てて首筋に吸い付く。
柔らかな肌はしっとりと暖かく、早く牙を立てたくてぞくぞくする。
「アイレ、返事がないからここで犯すぞ」
「やめ、ふざ……けんな!」
「ふざけてない。抵抗するなよ、黒竜に敵わないのは分かるよな?」
言いながら片手で押さえつけて、もう片手でシャツを破り去る。
やや性急にズボンにも爪を立てると薄い布地は紙のように破れて、彼の薄い体が俺の眼下に晒された。
「なんでこんなことするんだ!」
「だから言ってるだろ。お前を竜族の、……俺の番にするんだ。嫌でも」
ひ弱な抵抗を繰り返すアイレに苛々して、白い肩に噛みついた。
竜族は番を決めたら攫って閉じ込めて絶対に逃がさない。
初めてアイレに会った時に芽吹いた感情。
あれはたしかに恋で、彼を番にしてしまいたいと思った。
だけどアイレが友人になりたいと言うから必死に抑えていたのに。
自由を愛する彼が生きるためなら、俺は狂ってでもこの気持ちを抑えて鳥族と番わせてやろうと思ったのに。
それなのにアイレは恋に破れて勝手に死のうとしている。
……そんな要らない命なら、俺がもらってもいいだろう。
俺は醜悪な笑みを浮かべると、彼の下肢に手を伸ばした。
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