まいにち、晴れて

満奇

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坂本凪の悪夢3

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恋の苦しみを知りながらも、今思えば幸せすぎた大学生活から一転、俺の毎日は真っ黒になった。大学の講義が無い時間は文高に把握されていて、それに合わせて呼び出しをされる。講義だけは出させてくれと必死に頼んだ結果の譲歩だから、まだましなのかもしれないが。

 文高に呼び出されてしていることと言えば、あいつの皮肉に耐えながら、あいつの家の家事をすること。仕事が終わるまで帰れないから、それまでずっと高校時代みたいに心を抉る言葉たちに晒される。家事自体は家にいたころも文高には一切させないで、俺に振り分けられた仕事だったからこなしていたし、一人暮らしでもしていたから、そこまでつらい作業じゃないけど、まるで奴隷のようで気が塞ぐ。

 それでも逃げ出せない理由が俺にはあった。



「辻さん、兄貴に恋愛感情持たれてるって知ったらどう思うかな」

 文高と大学で会ってしまった日、あいつはそう俺に囁いた。

「辻さんと俺は接点あるわけだし、いつでもバラせる」

 笑ってそういう文高は、本当に辻に俺が隠した恋心を告げてしまいそうだった。そういうことを造作もなくする奴だと、何より俺がよく知っていた。

「それにさ、兄貴の大学とうちの大学近いからさ、こっちにも俺結構知り合いいるんだよね。噂まわったらどうなるだろうね。坂本って辻のこと好きらしいよって」

 顔が青ざめる。俺が家を出て築き上げてきたものすべてが壊れてしまう。辻や野田たちとの友情も、安らげる場所も失ってしまう。

「賢い兄貴ならわかるだろ?どうするのが賢明か」

 文高が出してきた条件は、ただひとつ。

 文高の言いなりになること。

 辻と仲良くするなとは言われなかったが、講義と勉強、それから文高に割いた時間の残りで、なんとかバイトをしているような状況で、辻に限らず同じ学部の友人たちとも、講義のときくらいしか、コンタクトがとれなかった。

 ・・・それに、文高にばれるような恋心を抱いたまま、辻に会うのは怖かった。俺が隠した恋心が滲み出てしまうんじゃないかって。
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