Hand in Hand - 二人で進むフィギュアスケート青春小説

宮 都

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第三部

76.二人の関係 2

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 十月に入ってすぐ、秋晴れの土曜日。近畿大会の日が来た。
 僕と陽向さんは久しぶりに大阪のクラブのメンバーと誘い合って、会場に応援に行った。この大会には、クラブの数人の女の子と平野と上本、そして果歩が出ることになっていた。

 久しぶりにみんなに会うと、なぜか当たり前のように僕と陽向さんは隣り合う席に座らされた。以前だったら男子三人がひっついて座って、陽向さんはきょうちゃん先輩の隣に座るのが定番だったのに。僕たち二人は今は大阪の仲間ではないという扱いなのかもしれないけれど、こういう扱いを受けると木野の妄想を妙に意識してしまう自分がいた。
「私、嫉妬深いから」
 アメリカで聞いた陽向さんのセリフが木野とのやり取りと共に頭の中をちらついて、落ち着かない。おかげで僕は果歩と一緒にここまで来ることもできず、応援にも堂々と行けずにいた。

 男子ジュニアから競技が始まった。
 30×60メートルのリンクを、観客席から見下ろす。
 上本の番が回って来ると、僕は大人しく座席に座っていられず、前のめりになっていた。僕たちはエレメンツの度に一緒になって何度も声を上げていた。

 上本のジャンプがふらついた。
「がんばれー!」
 僕は上本に何度目か分からない声援を送った。
 上本から平野の話を聞いて以来、僕は上本が気がかりでどうしているかと気になっていたんだけれど、上本はちゃんとその後こうして六級を取って近畿に出るところまできていた。
 声を張り上げていると、「随分上本君に入れ込んでいるのね」と陽向さんに言われてしまった。

「え? そ、そうかな? そんなことないですよ? 次は平野かー。よーし、応援するぞー!」
 誤魔化すように僕はテンションを上げて、平野を応援した。

 一日目ショートプログラム。男子ジュニア。
 上本は無事、平野に勝った。

 女子ジュニアが始まると、きょうちゃん先輩が腰を上げた。
「私、そろそろ行くね」
「そこまでついて行くわ」
 陽向さんが見送りに立ち上がった。二人が観客席から姿を消すと僕はスマホを取り出し、果歩に居場所を聞いた。
「今? 正面玄関を出た所でアップしてるよ」

 玄関の大きなガラス扉のすぐ外に、小さなマットを広げて柔軟をしている果歩が見えた。

「どう? 調子は?」
 近寄ってそう声をかけると、果歩はがばっと立ち上がった。
「どうじゃないよ! 来るの遅いよ!」
「ちょっと待て。なんでそんなに怒られなきゃなんないんだよ」
 僕がさっさと来るの、当然だと思ってるみたいな言い方して……

 果歩にとっての僕って、いったい何なんだろう。

「なんでって、ここ、神戸だよ? 知らない場所だよ? 知らない人ばっかりだし、緊張するじゃんか! パパも本番までには来るって言ってたのに、ちっとも姿見えないし」
「お前のパパについては、パパに文句を言ってくれ」

 果歩は僕としゃべりながらも、アップを続けた。少し離れた所にも、果歩と同じようなことをしている女の子たちが何人かいた。
 ふと、去年の初試合前の緊張を思い出した。果歩は僕とは違い、先生も仲間もパートナーもいない中、一人で初舞台に挑むのだ。

 僕が応援してやらないと。

「あ、でも知ってる顔見たら、なんか急に落ち着いてきた」
 果歩は、体をゆっくりと伸ばしながら、ほっとしたような息をついた。
「ふーん。よかったね」
「うん、よかった」
 そう言うと果歩は僕を見て、顔をほころばせた。
「来てくれてありがとね。今日は頑張るよ」

 びっくりした。
 なんて顔をするんだよ。
「……頑張れ」

 席に戻ると、すでにそこには陽向さんが戻っていた。
「あら? どこに行っていたの?」
「えーっと、ちょっと……。あ、次、始まりますよ」
 僕は、知らない選手に拍手を送りながら席についた。隣で派手に声援を送る陽向さん。この人のきらきらした眼差しはいつもスケートに向けられている。
 陽向さんにとっての僕は、きっと彼女のスケートの一部なんだろう。
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