芸術で稼ぐ異世界

アズ

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 2年後。
 エマは10歳になっていた。
 母の墓参りを済ませると、エマは肩掛けの鞄一つでこの村を出た。
 おばさんには母が亡くなったあと、世話になったが、これ以上世話になるわけにもいかなかった。
 行く宛はもう既に決まっていた。
 実は村に馬車が街から定期的に必要品を運んで来るのだが、エマはその馬車に乗り込み、街へ行こうとしていた。目的地がその街というわけではないが、この田舎村から出るにはまず、その馬車の荷車に忍び込む他、出る手段はなかった。
 生まれ育ったこの村から離れることになるが、未練は1ミリも感じなかった。むしろ、この村から早く出たかった。この村に居続けるから、お母さんも、お父さんも助からなかったんだ。だから、生きる為にも、私は村を出るしかなかった。多分、母は心配しつつも反対はしないだろう。
 いつも通り昼前に馬車が到着すると、男達はその荷車から次々と木箱を降ろしていく。
 そして、空っぽの木箱を今度は乗せ始めた。
 それから村の男達は木箱を開けて、中身の検品を始めた。
 その間に、エマは荷車に乗り込み、空っぽの木箱の蓋を開けて、その中に入ると、再び蓋を閉じて隠れた。
 あとはじっと動くのを待つだけだった。
 男達は木箱の中身の確認が終わると、街から来た男は再び馬車に乗り、馬車はエマを乗せたまま動き出した。
 方向転換する為に馬車は向きを変えるように広場でUターンし、街へと向かった。
 乗り心地はやや馬車が揺れる程度で問題はなかった。
 少し木箱の蓋を開け隙間から遠ざかっていく村を見た。



◇◆◇◆◇



 街の建物が見えてきたのは昼過ぎから夕方の間だった。
 それまでの景色は緑が多く、田舎風景が続いていた。
 街が近づいたと分かったのは、徐々に家が増えていき人通りが出てきた辺りからだった。
 寒い季節になれば彼らは外套がいとうを身に着けるだろうが、今はそんな季節ではなかった。
 それから更に進んでいけば、外灯が現れだした。田舎のあの村には外灯はなく、夜になれば暗闇だった。
 馬車は街の中を通る道をどんどん進んでいく。
 途中、教会らしい建物が現れた。
 村にも教会はあったが、街のはもっと大きかった。
 村のは窓が小さく、村の人の結婚式や葬儀に教会は村にとっても重要な存在だった。
 だが、外から見ても街の教会は単に大きいってだけではなかった。大きな窓には綺麗なステンドグラスがあった。
 その教会には沢山の人が出入りしている。
 その教会も通り過ぎ、色んな店も通り過ぎていき、馬車はようやく止まった。
 エマはそのタイミングで木箱から出て馬車を降りると、この街にあるとされる港を探し回った。実は、馬車に乗っている途中、仄かにだが海の香りがしたのだ。
 エマは話しかけやすそうだった妊婦さんに声をかけた。
「あの、すいません」
「あら、迷子?」
「港へはどこへ行ったらいいですか?」
「それなら、ここから真っ直ぐ行って交差点を左へ真っ直ぐ行けば港へ行けるわよ」
「ありがとうございます」
 エマは言われ通りの道を走った。
 交差点はさっきの教会のある場所の近くだった。
 そこを左に曲がり、真っ直ぐ進んでいくと、本当にそこに港はあった。
 港にはカロンに向かう大きな帆船があり、男達が積荷を降ろしていた。
 腕をまくり、肉体労働をする彼らはカロンの労働者ではなく、この国の労働者だった。それは彼らの瞳の色で分かる。
 カロン人の瞳の色はグリーンがほとんどで、対して積荷を降ろしている彼らの瞳の色は茶色だった。
 今、優雅に労働者を眺める貴族の女性の姿が船の上から見えた。
 つばの広い白い帽子からは金髪が見え、まさにグリーンの瞳をしていた。
 シップと呼ばれるその船は白く立派な船だった。
 エマは隙を見計らいシップへ乗り込んだ。
「積荷は全て降ろし終えた」
 補給も済ませてあるシップは、カロンに帰国する為、出港の準備に取り掛かった。
 その頃エマは気づかれないよう隠れる場所を探して船内を歩き回っていた。
 人生初めて船に乗ったエマは、船がこんなに揺れるのを知らなかった。
 なんだかワクワクしてきたエマは階段を降りて、下の階の様子を見た。通路があり、各部屋のドアが全て閉められてある。
 更に下へ続く階段があるのだが、その下からは男達の会話が微かに聞こえる。
(下は駄目だ。行けない)
 船員達はさっき甲板で仕事をしていたので多分誰もいないだろうと、とりあえず通路を歩いた。
 多分、客室と思われる。それか、船員の部屋なのか?
 さっきの女性の人がどこかの部屋を使っているかもしれない。
(駄目だ。隠れる場所がない)
 階段へ一旦戻ろうかとしていた時、自分から一番近い部屋の扉が開いた。
 出てきたのはさっき見たカロン人の女性だった。
 カロン人の女性はエマに気づき「あなたは」と言った。
 見つかった。エマはこれまでかと思った。
 そこに下から男達の声が近づいてくる。
 すると、カロン人の女はエマの腕を掴むと、出てきた部屋の中に入れ、扉を閉めた。
 部屋の中はベッドと、彼女の物らしき荷物、鞄が置かれてあった。その部屋に窓はなかった。
「あの……」
「あなた、勝手に乗り込んだのね」
 赤いドレスの彼女はそう言った。
「はい……あの、私はどうなるんでしょうか?」
「あなた、幾つ?」
「え? 10歳ですけど」
「10歳!? ご両親はどうしたの」
「両親はいません」
「その歳で!? そう……大変なのね。私、クレアよ。年齢はもう成人を過ぎているわ」
「え? あ、私はエマ」
「エマね。それで、どうしてこの船に乗ったりしたの?」
「ごめんなさい。私、カロンに行きたくて」
「カロンに?」
「私の国では私みたいなのは働くことが出来ないから」
 クレアはエマに両親がいなかったことを思い出して、納得したが、残念そうな顔をした。
「カロンに行っても、あなたを雇ってくれるところは残念だけどないわ」
「そうですか……」
「ねぇ、どうして働こうと思ったわけ? 頼れる人とかいないの?」
 エマは首を横に振った。
「自分のことは自分でなんとかしなきゃ」
 それを聞いたクレアはエマの年齢を疑った。勿論、彼女が嘘をついていないことは分かっている。分かっているけど、10歳にしてはしっかりした子だった。
 なんだか可愛そうに感じたクレアだったが、かと言って自分がなんとかしてあげれるわけではなかった。
「これからどうするつもりなの? ネレイド人だって分かれば、あなたの居場所があるとは思えないわ。それよりかは、自分の国に戻って大人達に頼ってまずは学校へ通うべきじゃないかしら」
 クレアは自分の頭で出来るだけ現実的なアドバイスをエマに送ったつもりだった。だが、エマは「学校に行くお金がない」と落ち込みながら答えた。
(そうなのか……この子のように学校に普通に行けない子もいるのか……)
 クレアは自分の未熟さに恥ずかしさと、自分自身に対する怒りを感じた。
 クレアは優しくエマの頭を撫でた。
 学校に行けば、女性が働ける場所を見つけられるかもしれない。
 だが、この子にはそれすら出来ないでいる。
 生まれた場所が違うだけで、人生が大きく変わる。
 貴族としての私、支配する側と、支配される側の孤独でちっぽけなエマ。
 そして、エマのような子供は他にもいるだろう。
 そうしているのは自分達の国なのか…… 。
「エマ……私はあなたを助けてはあげられないわ。でも、私の国ならアカデミーに入れるかも」
「アカデミー?」
「厳しいことには変わりはないんだけど、美術系のアカデミーよ」
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