芸術で稼ぐ異世界

アズ

文字の大きさ
3 / 30

03

しおりを挟む
 カロンの大都市は夜でも賑やかな場所で、電気が発明されたことにより、夜の時間でも明るい場所になっていた。そこでは、仕事を終えた労働者がお酒を飲みながらお喋りしたり、たまにトランプを使った賭け事をして楽しんだりしていた。
 一方で、大都市から外れた場所には薄暗く治安の悪い場所もあり、そこはとても清潔感ある場所とは言えず、一般人であればまず近づくことさえ控える、そんな場所が存在していた。
 それはスラムと呼ばれた場所で、実際に大都市には沢山の人が押し寄せ、結果溢れた人口の中には働き口を見つけられず、貧しいままそこで暮らしていた。
 そのスラムの反対側に位置する場所は港があり、ネレイドから帆船が帰国してくることになっている。
 その港近くにはアカデミーが幾つもあり、その中に将来画家を目指す若者が入る美術系アカデミーが存在した。
 そこは、学歴よりも単に美術を学びたい人が集まる場所で、そこの出身の有名画家を幾つも排出したことのある歴史ある場所だった。
 そこには有名になった画家がわざわざアカデミーへと作品を贈りつけ、それらは壁に飾られて誰でも自由に閲覧が出来るようになっていた。
 そんなアカデミーに変わった新人が入ったとして話題沸騰中の人物がいた。それがマーサである。
 マーサ……実の名を柏木正樹。皆はマーサと呼ぶので、本人も気にすることなくその名で受け入れていた。
 実は彼は異世界転生者であった。
 黒髪に黒い瞳と、見たことないファッション(サンダルに長袖ジャージと半袖シャツの全身黒一色)に、それだけで皆からの注目を浴びていた。
 彼は転生前の記憶を持っており、自分は一度死に生まれ変わりだと、まるで宗教的発言をたまにするおかしな人でも通っていた。
 だが、それだけではなかった。
 カロンは基本、ロマン主義であり、しかし、マーサの描く絵は簡単に言えば写実主義であった。
 マーサはリアルを求め、更には漫画と呼ばれるものまで作り出したのだ。
 写実主義的な作品についてはまだ人気は出ていないが、彼のリアルを追求する絵は徐々に注目されつつあった。
 ただ、何故か女性ばかりの絵を描き、更にはまた珍しいファッションを絵にしていた。
 ファッション界では、彼の絵の新しいファッションを実際に自分達の会社のブランドに採用しようと、アカデミーに入ってまだ一年のマーサにいきなりオファーが来る程だった。
 新聞の見出しにも『ファッションリーダー現れる!! その名もマーサ!』とあった。
 特に、労働者階級向けの動きやすい服でありながら、お洒落も追求されたファッションにはもう既に人気は出始めていた。
 漫画も子供には人気が出始めていた。
 そんな彼がいる場所に本日、アカデミーへ入った子が凄いのかどうか分からないが騒ぎになっていた。
「なんの騒ぎだ」
 天然パーマの20代マーサは近くにいたアカデミー生に聞いた。
「今日アカデミーに入ってくる子がなんと、10歳の子供らしいんだ」
「10歳?」
「そうらしいぜ。更に、なんとネレイド人らしいんだ」
(また、知らない言葉だ)
「まぁ、ネレイド人がこのアカデミーに入れたのはどっかの貴族が後ろについているって噂らしいが、その噂は信憑性がありそうだよな。ま、とは言え貴族がネレイド人をなんで庇ったのかなんて俺にとっちゃどうでもいいことさ。結局、この世界は実力。そうでなければ世間様は評価してくれないだろ」
「そもそも10歳でもここは入れるのか?」
「そりゃ普通はないよな。ネレイド人ってだけでも無理だろうな」
「いや、ネレイド人かどうかは関係ない」そう間に入って言ったのは高身長のサムだった。恐らくは2メートルはありそうだ。
「芸術に人種は関係ない。そうだろ?」と彼はそう言った。
 非力なマーサはただ頷くだけだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?

木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。 彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。 公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。 しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。 だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。 二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。 彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。 ※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

生きるために逃げだした。幸せになりたい。

白水緑
ファンタジー
屋敷内に軟禁状態だったリリアは、宝物を取り戻したことをきっかけに屋敷から逃げ出した。幸せになるために。体力も力もない。成り行きに身を任せる結果になっても、自分の道は自分で選びたい。 2020/9/19 第一章終了 続きが書け次第また連載再開します。 2021/2/14 第二章開幕 2021/2/28 完結

モブ転生とはこんなもの

詩森さよ(さよ吉)
恋愛
あたしはナナ。貧乏伯爵令嬢で転生者です。 乙女ゲームのプロローグで死んじゃうモブに転生したけど、奇跡的に助かったおかげで現在元気で幸せです。 今ゲームのラスト近くの婚約破棄の現場にいるんだけど、なんだか様子がおかしいの。 いったいどうしたらいいのかしら……。 現在筆者の時間的かつ体力的に感想などを受け付けない設定にしております。 どうぞよろしくお願いいたします。 他サイトでも公開しています。

クラス転移したけど、皆さん勘違いしてません?

青いウーパーと山椒魚
ファンタジー
加藤あいは高校2年生。 最近ネット小説にハマりまくっているごく普通の高校生である。 普通に過ごしていたら異世界転移に巻き込まれた? しかも弱いからと森に捨てられた。 いやちょっとまてよ? 皆さん勘違いしてません? これはあいの不思議な日常を書いた物語である。 本編完結しました! 相変わらず話ごちゃごちゃしていると思いますが、楽しんでいただけると嬉しいです! 1話は1000字くらいなのでササッと読めるはず…

英雄の番が名乗るまで

長野 雪
恋愛
突然発生した魔物の大侵攻。西の果てから始まったそれは、いくつもの集落どころか国すら飲みこみ、世界中の国々が人種・宗教を越えて協力し、とうとう終息を迎えた。魔物の駆逐・殲滅に目覚ましい活躍を見せた5人は吟遊詩人によって「五英傑」と謳われ、これから彼らの活躍は英雄譚として広く知られていくのであろう。 大侵攻の終息を祝う宴の最中、己の番《つがい》の気配を感じた五英傑の一人、竜人フィルは見つけ出した途端、気を失ってしまった彼女に対し、番の誓約を行おうとするが失敗に終わる。番と己の寿命を等しくするため、何より番を手元に置き続けるためにフィルにとっては重要な誓約がどうして失敗したのか分からないものの、とにかく庇護したいフィルと、ぐいぐい溺愛モードに入ろうとする彼に一歩距離を置いてしまう番の女性との一進一退のおはなし。 ※小説家になろうにも投稿

夫と息子に邪険にされたので王太子妃の座を譲ります~死に戻ってから溺愛されても今更遅い

青の雀
恋愛
夫婦喧嘩の末に置き去りにされた妻は、旦那が若い愛人とイチャついている間に盗賊に襲われ、命を落とした。 神様の温情により、10日間だけこの世に戻った妻と護衛の騎士は、その10日間の間に心残りを処分する。それは、娘の行く末と……もし、来世があるならば、今度は政略といえども夫以外の人の妻になるということ。 もう二度と夫と出会いたくない彼女は、彼女を蔑ろにしてきた息子とも縁を切ることを決意する。 生まれかわった妻は、新しい人生を強く生きることを決意。 過去世と同じ轍を踏みたくない……

幽閉王女と指輪の精霊~嫁いだら幽閉された!餓死する前に脱出したい!~

二階堂吉乃
恋愛
 同盟国へ嫁いだヴァイオレット姫。夫である王太子は初夜に現れなかった。たった1人幽閉される姫。やがて貧しい食事すら届かなくなる。長い幽閉の末、死にかけた彼女を救ったのは、家宝の指輪だった。  1年後。同盟国を訪れたヴァイオレットの従兄が彼女を発見する。忘れられた牢獄には姫のミイラがあった。激怒した従兄は同盟を破棄してしまう。  一方、下町に代書業で身を立てる美少女がいた。ヴィーと名を偽ったヴァイオレットは指輪の精霊と助けあいながら暮らしていた。そこへ元夫?である王太子が視察に来る。彼は下町を案内してくれたヴィーに恋をしてしまう…。

処理中です...