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後期の展示会も終わると、アカデミー生の一部は一旦実家に帰る為、寮に残るアカデミー生は半分以下となる。ルームメイトのアンジェも一旦家に帰った。
この時期のカロンの冬は、乾燥しており風も刺さるように痛い。エマは寒いのが苦手で外に出るのは嫌いだった。
そもそも外に出なくても部屋で作品を作り続けていればいいのだ。
来年は前期の展示会が行われるし、次は評論家を気絶させないようにしなくちゃ。
因みに、評論家からは「狂気だ」と言われてしまった。
最近ではそれもあってか色んなアカデミー生に声をかけられるようになっていた。
(きっかけが情けなく不本意だけど)
だが、皆アンジェが言っていたように歴史や宗教を絵にする人が多く、マーサのような身近な現実をありのままに描写する人は少なかった。だが、自分はわりとマーサのそういう絵が好きだった。
やはり、この国の歴史や宗教に興味が持てなかった。
(アンジェには教えてもらっておきながら悪いとは思うけど)
彼は私の国に行けば、同じように描写するのだろうか?
その絵をなんとなく頭の中で想像した。
そのイメージがわいたのだ。
その光景には、母と一緒に落穂拾いしている光景が…… 。
ふと、気づけば目に涙が溜まっていた。
袖でそれを拭うと、キャンバスの目の前に立った。
(私の描きたい絵……)
それは歴史や宗教ではないのだろう。むしろ、マーサのような日常だろうか。
エマは考え込んだ。その間、暫くはキャンバスは真っ白なままだった。
数日が経過し、エマは寮にいたアカデミー生の絵を見せてもらったり会話をしながらも、自分の道を探り続けていた。
そんなある日。女子寮の食堂で朝のパンをかじっていると、同じ女子寮の子から「エマは日の出を見に行くの?」と聞かれた。
「日の出?」
「新年のよ。港からなら見れるわよ。凄く綺麗なんだから」
「そうなんだ……でも、寒いの苦手だし」
「そうやって冬はずっとこもってるつもり? 外に出なきゃだめよ。寒いけどさ、夏には見れない冬の景色も悪くないんじゃない?」
そう言われると気になってしまうエマはその子と新年の日の出を見る約束をした。
それから当日。
まだ暗く外灯が必要な時間帯に女子寮からアカデミー生の何人かが出て、港へと歩いた。
エマは眠いのと寒いのと両方に襲われていた。
「やっぱりベッドに戻る」
「あ! こらこら戻らない! 冬眠する熊じゃないんだから」
腕を引っ張られながら港に向かうと、既にアカデミー生の男達も日の出を見に集まっていた。そこには眠そうにするマーサの姿もあった。
マーサはエマの目線に気づき、二人はそこで目が合った。
「エマ、そろそろだよ」
隣にいた女子に言われエマは港の方を見た。
まだ暗闇の海はどこか怖く感じ、遠くの先がまるで深い深い闇のように見えた。そこに光が闇の奥で光る。それは横に徐々に広がり、日の出はのぼり始め、暗闇だった海から太陽がそれを照らした。それがエマには神秘的に感じた。
エマにとって、日の出は人生で初めての体験だった。
そして、ずっと悩んでいたものがまるで晴れたような気がした。
(そうだ、これを描こう)
◇◆◇◆◇
数ヶ月後。
アカデミー主催前期の展示会が行われた。
朝、展示会の入口が開かれ、お客さんの足が運ばれていく中、評論家達はまだ入口の手前にいた。その表情は明るくはなかった。
「またとんでもないものを見せられるんじゃなかろうね」
評論家の老人はそう言った。頭の天辺が禿げかかっており、眼鏡をかけていた。評論家の中では一番背が低い。
評論家達の後ろにつくのは記者達だ。今回の優秀作品はどれに選ばれたのか、それを記事に載せる為だ。
「そろそろ時間だ」
もう一人の評論家が言うと、全員は会場入りした。
評論家達の姿が見えると、いつものようにアカデミー生の緊張が走る。
作品を順に見ていく評論家達の評価は相変わらず厳しかった。
特にマーサの作品は評論家の中でも最低の評価がくだされた。
マーサの描いた絵はスラムに住む貧しい子ども達の絵だった。忠実に描かれたそれは、都会とはまるで違った世界観。しかし、このスラムは都会から距離が離れた場所にあるわけではなく、これは近くにある場所だ。普段なら近づこうともしない治安もとても悪い場所にマーサは命がけでこの絵を描いたのだ。
痩せ細った躰の身長がバラバラな3人の子どもは顔がげっそりしていて、瞳の色が暗い。3人は正面を向いており、それはまるで見ている人と目が合うかのように描かれている。マーサはわざと目が合うように描いたのではとエマは思った。
だが、評論家達は彼の絵を評価しなかった。それは歴史や宗教の絵ではなかったからではない。ただそれだけが理由ではなく、単にこの絵が好まれないからだった。
例えば金持ちがこの絵を好んで買ってくれるだろうか? まるで金持ちに当てつけるような絵を見ていい気分にはならないだろう。
でも、マーサはこの絵を描いた。評価をまるで気にせず思いきってこの出展に望んだのは紛れもない彼の決意だ。
この時期のカロンの冬は、乾燥しており風も刺さるように痛い。エマは寒いのが苦手で外に出るのは嫌いだった。
そもそも外に出なくても部屋で作品を作り続けていればいいのだ。
来年は前期の展示会が行われるし、次は評論家を気絶させないようにしなくちゃ。
因みに、評論家からは「狂気だ」と言われてしまった。
最近ではそれもあってか色んなアカデミー生に声をかけられるようになっていた。
(きっかけが情けなく不本意だけど)
だが、皆アンジェが言っていたように歴史や宗教を絵にする人が多く、マーサのような身近な現実をありのままに描写する人は少なかった。だが、自分はわりとマーサのそういう絵が好きだった。
やはり、この国の歴史や宗教に興味が持てなかった。
(アンジェには教えてもらっておきながら悪いとは思うけど)
彼は私の国に行けば、同じように描写するのだろうか?
その絵をなんとなく頭の中で想像した。
そのイメージがわいたのだ。
その光景には、母と一緒に落穂拾いしている光景が…… 。
ふと、気づけば目に涙が溜まっていた。
袖でそれを拭うと、キャンバスの目の前に立った。
(私の描きたい絵……)
それは歴史や宗教ではないのだろう。むしろ、マーサのような日常だろうか。
エマは考え込んだ。その間、暫くはキャンバスは真っ白なままだった。
数日が経過し、エマは寮にいたアカデミー生の絵を見せてもらったり会話をしながらも、自分の道を探り続けていた。
そんなある日。女子寮の食堂で朝のパンをかじっていると、同じ女子寮の子から「エマは日の出を見に行くの?」と聞かれた。
「日の出?」
「新年のよ。港からなら見れるわよ。凄く綺麗なんだから」
「そうなんだ……でも、寒いの苦手だし」
「そうやって冬はずっとこもってるつもり? 外に出なきゃだめよ。寒いけどさ、夏には見れない冬の景色も悪くないんじゃない?」
そう言われると気になってしまうエマはその子と新年の日の出を見る約束をした。
それから当日。
まだ暗く外灯が必要な時間帯に女子寮からアカデミー生の何人かが出て、港へと歩いた。
エマは眠いのと寒いのと両方に襲われていた。
「やっぱりベッドに戻る」
「あ! こらこら戻らない! 冬眠する熊じゃないんだから」
腕を引っ張られながら港に向かうと、既にアカデミー生の男達も日の出を見に集まっていた。そこには眠そうにするマーサの姿もあった。
マーサはエマの目線に気づき、二人はそこで目が合った。
「エマ、そろそろだよ」
隣にいた女子に言われエマは港の方を見た。
まだ暗闇の海はどこか怖く感じ、遠くの先がまるで深い深い闇のように見えた。そこに光が闇の奥で光る。それは横に徐々に広がり、日の出はのぼり始め、暗闇だった海から太陽がそれを照らした。それがエマには神秘的に感じた。
エマにとって、日の出は人生で初めての体験だった。
そして、ずっと悩んでいたものがまるで晴れたような気がした。
(そうだ、これを描こう)
◇◆◇◆◇
数ヶ月後。
アカデミー主催前期の展示会が行われた。
朝、展示会の入口が開かれ、お客さんの足が運ばれていく中、評論家達はまだ入口の手前にいた。その表情は明るくはなかった。
「またとんでもないものを見せられるんじゃなかろうね」
評論家の老人はそう言った。頭の天辺が禿げかかっており、眼鏡をかけていた。評論家の中では一番背が低い。
評論家達の後ろにつくのは記者達だ。今回の優秀作品はどれに選ばれたのか、それを記事に載せる為だ。
「そろそろ時間だ」
もう一人の評論家が言うと、全員は会場入りした。
評論家達の姿が見えると、いつものようにアカデミー生の緊張が走る。
作品を順に見ていく評論家達の評価は相変わらず厳しかった。
特にマーサの作品は評論家の中でも最低の評価がくだされた。
マーサの描いた絵はスラムに住む貧しい子ども達の絵だった。忠実に描かれたそれは、都会とはまるで違った世界観。しかし、このスラムは都会から距離が離れた場所にあるわけではなく、これは近くにある場所だ。普段なら近づこうともしない治安もとても悪い場所にマーサは命がけでこの絵を描いたのだ。
痩せ細った躰の身長がバラバラな3人の子どもは顔がげっそりしていて、瞳の色が暗い。3人は正面を向いており、それはまるで見ている人と目が合うかのように描かれている。マーサはわざと目が合うように描いたのではとエマは思った。
だが、評論家達は彼の絵を評価しなかった。それは歴史や宗教の絵ではなかったからではない。ただそれだけが理由ではなく、単にこの絵が好まれないからだった。
例えば金持ちがこの絵を好んで買ってくれるだろうか? まるで金持ちに当てつけるような絵を見ていい気分にはならないだろう。
でも、マーサはこの絵を描いた。評価をまるで気にせず思いきってこの出展に望んだのは紛れもない彼の決意だ。
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