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08 病院 〈後編〉
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ものの数分で決着がついた。結果は言わずともよいだろう。ジョンはウォルターを呼んだ。そもそも依頼したのはウォルターだ。後始末くらいはしてくれるだろう。
ウォルターは自分の中古車でなくパトカーでサイレンを鳴らし最速で到着した。警官も引き連れて。
そこでウォルターが目にしたのは警備員や医者がぐったりと床に倒れ込んでいるという光景だった。
「なにもそこまでやれとは頼んだ覚えはないぞ」
「連中が先に襲ってきたんだ。それに全員気絶させただけだ」
「それで、どうしてこうなったんだ?」
「トイレを探していたらこれを偶然見てね」
ジョンは病室を指差した。
「ちゃんと調べれば分かる筈だ。ここで行われたことが。おそらくグレイソンが掴んだ通り日常的にここでは虐待が行われていたんだろう」
「偶然ね……まぁ、そういうことにしておこう。それで、グレイソンは?」
「病室にいた。拘束された状態で。薬で深く眠りについている。時間がすれば目覚めるだろう。だが、念の為に他の病院で検査した方がいい」
「あぁ、そうしよう」
「連中も俺を捕らえてグレイソンみたいに拘束するつもりだったんだろう」
「お前を捕らえるなんてここにいる連中じゃ無理だろうよ」
「これはこれまでの報いさ」
ジョンはそう言いながら伸びている警備員達を一瞥した。
「なぁ、ウォルター。俺は一瞬だがこいつらを仕留めている時、忘れていた高揚感を思い出したんだ。俺はその時、気づいたんだ。俺は獣のように本当は血に飢えてたんだってことにな」
「ふん、何を言うかと思えば馬鹿なことを言うな。お前は正義を成したんだ。本当なら、もっと早くに気づくべきだったんだ。そうすれば助かった命もあっただろうよ。病院ってのは誰の為にある? ここにいる患者を見れば、まるで人の扱いじゃない。人として見ていないんだ。だがな、いくらそこで憤慨しようと、俺達は本当なら気づけた筈なんだ。気づいていて、見て見ぬふりをしたんだ。それだけで罪なのさ。この事件の本当の犯人は社会で、俺達は共犯者なんだ。だから償いをしなきゃならん。こういう事件を一つずつ暴いて世間へ晒し、解決していく。償いに効率のいいやり方なんざ存在しないのさ」
「そうだな」
だが、ウォルター……お前は俺が血に飢えた獣でないと否定したが、これは否定しようのない事実だ。それは俺が一番よく分かっている。
三日月。雲が時折、夜空の星を隠す。その下の地上では、人通りの少ない高架下でヤンキーどもがたむろし、近くを通りかかった気弱なサラリーマンを見つけると、いち早く取り囲んだ。残業という長時間労働を強いられ、しかし断ればリストラされるかもしれないとビクビク怯えながら生きていかなければならない中年男性にとってこの日は更に最悪な事態といえよう。
「なぁ、分かるよな? 早くとっとと金だせよのろまジジイ!」
「ひぃー!!」
「ひぃーだってよ。マジ笑えんだけどこのオッサン」
そこへ、一人の男が現れた。武器一つ持たず。対して、ヤンキーどもは鉄パイプやナイフが握られていた。
「なんだてめぇ、誰だ?」
フードを被っているせいで、素顔が見えない。だが、あとはそれだけのこと。当然ながら、たかが一人相手に怯える理由もなく。
「正義のつもりか、オイ!」
一人のヤンキーがバットを振りかざす。だが、そのバットを片手で受け止めると、力技でそのヤンキーから強引に奪い取る。
「なっ!?」
ヤンキーは怯んだが、フードの男は奪ったバットを武器に使うかと思えば、それを膝を使って真っ二つにへし折った。
使い物にならなくなったバットを投げ捨てると、呆然と立ち尽くしている目の前のガキに思いっきり自慢の拳を堪能させた。ガキは白目を向き、口から血混じりのよだれをたらし倒れ込んだ。
「まだ、足りんな……あの高揚感には」
ウォルターは自分の中古車でなくパトカーでサイレンを鳴らし最速で到着した。警官も引き連れて。
そこでウォルターが目にしたのは警備員や医者がぐったりと床に倒れ込んでいるという光景だった。
「なにもそこまでやれとは頼んだ覚えはないぞ」
「連中が先に襲ってきたんだ。それに全員気絶させただけだ」
「それで、どうしてこうなったんだ?」
「トイレを探していたらこれを偶然見てね」
ジョンは病室を指差した。
「ちゃんと調べれば分かる筈だ。ここで行われたことが。おそらくグレイソンが掴んだ通り日常的にここでは虐待が行われていたんだろう」
「偶然ね……まぁ、そういうことにしておこう。それで、グレイソンは?」
「病室にいた。拘束された状態で。薬で深く眠りについている。時間がすれば目覚めるだろう。だが、念の為に他の病院で検査した方がいい」
「あぁ、そうしよう」
「連中も俺を捕らえてグレイソンみたいに拘束するつもりだったんだろう」
「お前を捕らえるなんてここにいる連中じゃ無理だろうよ」
「これはこれまでの報いさ」
ジョンはそう言いながら伸びている警備員達を一瞥した。
「なぁ、ウォルター。俺は一瞬だがこいつらを仕留めている時、忘れていた高揚感を思い出したんだ。俺はその時、気づいたんだ。俺は獣のように本当は血に飢えてたんだってことにな」
「ふん、何を言うかと思えば馬鹿なことを言うな。お前は正義を成したんだ。本当なら、もっと早くに気づくべきだったんだ。そうすれば助かった命もあっただろうよ。病院ってのは誰の為にある? ここにいる患者を見れば、まるで人の扱いじゃない。人として見ていないんだ。だがな、いくらそこで憤慨しようと、俺達は本当なら気づけた筈なんだ。気づいていて、見て見ぬふりをしたんだ。それだけで罪なのさ。この事件の本当の犯人は社会で、俺達は共犯者なんだ。だから償いをしなきゃならん。こういう事件を一つずつ暴いて世間へ晒し、解決していく。償いに効率のいいやり方なんざ存在しないのさ」
「そうだな」
だが、ウォルター……お前は俺が血に飢えた獣でないと否定したが、これは否定しようのない事実だ。それは俺が一番よく分かっている。
三日月。雲が時折、夜空の星を隠す。その下の地上では、人通りの少ない高架下でヤンキーどもがたむろし、近くを通りかかった気弱なサラリーマンを見つけると、いち早く取り囲んだ。残業という長時間労働を強いられ、しかし断ればリストラされるかもしれないとビクビク怯えながら生きていかなければならない中年男性にとってこの日は更に最悪な事態といえよう。
「なぁ、分かるよな? 早くとっとと金だせよのろまジジイ!」
「ひぃー!!」
「ひぃーだってよ。マジ笑えんだけどこのオッサン」
そこへ、一人の男が現れた。武器一つ持たず。対して、ヤンキーどもは鉄パイプやナイフが握られていた。
「なんだてめぇ、誰だ?」
フードを被っているせいで、素顔が見えない。だが、あとはそれだけのこと。当然ながら、たかが一人相手に怯える理由もなく。
「正義のつもりか、オイ!」
一人のヤンキーがバットを振りかざす。だが、そのバットを片手で受け止めると、力技でそのヤンキーから強引に奪い取る。
「なっ!?」
ヤンキーは怯んだが、フードの男は奪ったバットを武器に使うかと思えば、それを膝を使って真っ二つにへし折った。
使い物にならなくなったバットを投げ捨てると、呆然と立ち尽くしている目の前のガキに思いっきり自慢の拳を堪能させた。ガキは白目を向き、口から血混じりのよだれをたらし倒れ込んだ。
「まだ、足りんな……あの高揚感には」
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