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09 消えた男 〈前編〉

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 都会の空は誰のものでもない。テロ対策として都会上空を飛行する場合は事前の許可が必要だ。それも決められた飛行ルートを通る必要がある。もし、謎の飛行物体が都会上空へ近づいたら戦闘機が直ちに出動し、必要とあれば撃墜することとなる。それも安全保障上必要であると誰もが理解している。
 一方で巨大な飛行物体ではない、そう、例えば人間の場合やドローンは規制の対象にはならない。人間というのはジェットスーツのことだが、荷物の配達など最近では都会の大渋滞を気にせず時間通りにかつ短時間で作業が済む利便性で増加傾向にある。ドローンも似たような理由だが、それらだってテロの利用は可能である。そういった安全面での議論や、それ以外の理由で景観の問題で多少の反対意見はあるものの、多くは利便性を優先し慣用であった。
 そんな昨今、都内で狙撃事件が起きる。
 全国で〈パノプティコン〉の運用の準備が着実に進むにあたり、都会だけであったショットスポッターを治安の悪い地方から優先的に同時に導入へ進む動きがあり〈パノプティコン〉同様事件捜査を円滑にかつテロ対策として期待されているそのショットスポッターは銃声を探知するシステムであり、その都内のショットスポッターが銃声を探知した。
 狙撃されたのは宅配業者でジェットスーツで都内の空を飛行中に狙撃されたと思われる。
 銃声から軍が使用する狙撃銃と一致されたが、それは当然一般人が手に入れられる代物ではない。
 ともあれ、システムの探知によりパトカーが出動。同時に警察のヘリが飛んだ。直ぐに狙撃ポイントへ向かったが、その時点で上空から犯人は確認されず。既に撤退された模様で地上の警官達は周辺を捜索。犯人はヘリを懸念して地下へ逃げた恐れもあることから地下鉄へも警察は捜索したが、犯人の姿は見当たらず。捜索範囲を広げると同時に都内にあるカメラを全てチェックしていく。都内のカメラ映像は全て警察のコンピューターで閲覧可能だ。都内の〈パノプティコン〉システムも活用し、黒の上下にツバ付きの帽子を被った低身長の太った人物がゴルフバッグのようなものを持ち地下鉄へ向かうところを確認。その人物は男子トイレへと向かい、それから出てくる気配はなかった。近くにいた警官が素早くそのトイレへ駆けつけ確認すると、奥の用具入れのところにそのゴルフバッグと服の上下、靴、帽子が捨てられてあった。ゴルフバッグの中身はショットスポッターのシステムで判明した狙撃銃と一致する。無線にて報告を受けた本部は、もう一度トイレ近くのカメラ映像を確認させた。だが、何故かトイレに入っていった同じ身長の男が出てくることはなかった。
「何故だ! あのトイレには窓がない。なら、男はどこへ消えた!?」
 捜査員は完全に犯人の行方を見失った。
 この事態に都知事は激昂し、警察の怠慢を批難した。だが、警察は怠慢だったわけではない。その批判は当てはまらない。何故なら、犯人は本当に消えたのだから。





「それで、トイレから出てきた人間全員を手当たり次第に調べたわけか」
「〈パノプティコン〉ならそれも可能だ。あのシステムがなければ時間はかかっただろう」
「だが、あの事件は確か捜査局が捜査しているんだろ。署のあんたが何故その事件の捜査をしている?」
「署もあの事件の捜査に加わっている。他の署からも総動員で捜査している」
「そうなると他の事件捜査が遅れそうだな」
「事態が事態だ。これは警察の威信に関わる」
 ジョンはグラスに残っていた酒を飲み干した。それから同じものを注文しているとウォルターはその間に携帯を確認していた。
「泊まり込みの捜査じゃなかったのか? いいのか、こんなところで俺と飲んでて」
「俺の心配か……俺より自分の心配をしたらどうだ? 最近、チンピラが襲われる事件が今月で2件起こった。連中は単なるチンピラじゃない。警察も頭を悩ましているギャングさ。規模もそれなりで抗争が起きたかと思ったらそうじゃなかった。連中は誰一人被害届を出さなかったが、あれはお前なんだろ?」
「さぁ……なんのことか」
「まぁ、いいさ。だが、これだけは言わしてくれ。ギャングの連中がコテンパンにされるのは気分が良いが、いくら俺でも庇いきれるとは限らない。努力はするがな。だからもうよせ」
「それで、何故俺に事件の話しをした」
「犯人は〈パノプティコン〉を恐れて顔をずっと隠していた。だから、顔認証が出来なかったんだ。それに犯人は手袋をしていたから指紋も残っちゃいない」
「帽子を捨てたのなら、毛一本ぐらい痕跡はあっただろ?」
「それもなかった」
「念入りだな。それで?」
「出てきた人物全員の顔認証をした。身元も判明した。だが、問題は」
「体型が合致しなかったんだろ? だが、警官がトイレに到着するまでの間にトイレから出てきた誰かが犯人なのは間違いない」
「変装出来るのはせいぜい性別か服装くらいだろ。いくらなんでも体型を変えるのは……」
「例えばだが、風船を入れて太ったようにみせトイレから出る時に空気を抜いて出れば体型が違うように見せられるだろう。そもそも、犯人はカメラを気にして顔を見せなかったんだろ? なら、犯人は当然カメラの位置を把握していて用意周到に計画した筈だ。逆にカメラを利用して捜査の目をくらませた可能性もある」
「身長はどう誤魔化す?」
「底上げの靴でも使用したんだろ。そういう男物もあるからな」
「成る程な……もう一度その線で調べてみよう」
「だがな、犯人は警察がいずれそれも突き止めるだろうと見込んで既に逃亡の用意をしているかもしれん。犯人にとって逃亡の時間さえ稼げれば目的が達成するなら、この計画も成立するだろ」
「そうはさせないさ」




 ウォルターは一度決めたら意地でもやり遂げようとするだろう。実際、その翌々日にはウォルターは犯人を途中まで追い詰めていた。
「逃げても無駄だ! 観念しろ」
 その場所はホテルだった。その近くには港があり、犯人は船から渡航しようとしていた。その船のチケットを既に購入しており、犯人はホテルのロビーでチェックアウトを済ませようというところで警察と鉢合わせた。犯人は私服警官にいち早く気づき逃亡し上の階へと逃げ込む。それをウォルター達は追いかけていた。
 犯人はそこでトイレへと逃げ込む。
 ウォルターは犯人の行動に不可解に感じていた。何故、犯人は2階へ逃げたのか? 何故窓のないトイレへ逃げたのか? それは犯人を見失ったあれを彷彿させる。ゾッと嫌な予感が漂う。
 トイレへウォルター達が駆け込むと、そこには誰もいなかった。誰一人。個室は全て開いている。
「またか! だが、どうやって……」
 ウォルターは天井を見た。あるのは換気扇だけで通気口はない。
「流石に映画のように抜け出したわけじゃないだろうが」
 結局、今回も犯人を目前で逃してしまった。




 その残念な報告をジョンは電話で聞いていた。
「どうして犯人は消えた?」
「そのホテルの構造が分からないな」
「犯人は突き当りの角へ曲がった。そこには男子トイレと女子トイレしかなく、逃げ場なんてなかった。そこですれ違いもなかったんだ。なのに、犯人はいなかった」
「簡単な話しだウォルター。犯人は男だった。だから、当然あんた達は犯人を追って男子トイレへ駆け込む。だが、犯人の逃げた先は女子トイレだった。ウォルター達が男子トイレに入っている間にその犯人は女子トイレから抜け出し逃亡したわけだ」
「だが、もしトイレに人がいたらどうする? 悲鳴をあげるだろ?」
「犯人は元は女性だったんじゃないのか? 確かに〈パノプティコン〉には性別を特定出来る。だが、それは現在の情報で性別が変わっていたらどうだ?」
「そういうことか……」
「底上げの靴もそうだが、普通の男でもそれを利用しようと思いつくのは少数だろう。だが、元が女だったらその発想も思いつくんだろう。女だった故に」
「また、トイレで逃すとは……」
「もし、犯人を捕まえても簡単にトイレへは連れていかない方がいいかもな」
 ジョンは冗談でそう言ったが、ウォルターは犯人を目前で逃した手前、笑えない冗談だった。
「トイレという言葉も聞きたくない」
「俺は学生の頃、学校が嫌でよ。よく抜け出したものさ。その時、教職員に見つからないよう一時トイレに隠れ込んだんだが、そこにたまたまそこにはいじめられっ子がトイレの個室で泣いていてな。トイレってのは避難所なんだ。だから、その犯人にとってもそうだったんじゃないのか?」
「何言ってるんだジョン? お前酔ってるのか?」
「そんなことはない」
「俺はお前が心配だよ。あの病院での一件以来だ。あの病院で何かあったならちゃんと俺にも教えろ」
「何もないさ。それにお前に言われた通り俺は何もしていない」
「それは朗報だな。だが、何かあったらちゃんと教えろ」
「お前も俺に教えるべきことを教えろよ」
「何の話しだ」
「とぼけるな。俺がお前とこうして話すようになったのも元はディーン殺人事件の真犯人を捕らえることだ。忘れたとは言わせないぞ」
「忘れるわけない」
「なら、その裁判の公判前整理手続が行われたのを知っているな」
「知ってるさ。この件が片付いたら後で話す。真犯人が見つかりそうだ」
「何?」
「ショットスポッターさ。実はあのディーンが殺害された死亡推定時刻の間、1キロ圏内で銃声があった。俺はディーン事件の捜査でそのことをすっかり忘れていた。知っての通り、ディーンには撃たれたあとがない。だから、事件とは無関係だと思っていたんだ。だが、よく考えてみたらおかしな話しだ。その銃声の犯人も事件も見つかっていない。ただ、これだけは言える。その銃声はシステムによると警官の使う銃と一致する」
「それはどういうことだ」
「悪い、時間だ。あとは直接話す。また、かけ直す」
「おい、ウォルター」
 だが、電話はそれで切れた。
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