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10 消えた男 〈後編〉
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夏の空、白い砂浜を素足で駆け青い海へと飛び込む。そんな定番行事もここ最近は減少傾向にある。大型のプールが誕生し、人はそこへ流れていた。そこでならクラゲといった危険生物の恐れもない。その分、海はゴミ問題で少しは綺麗になるだろう。皮肉なものだ。そこに人が増えなければゴミ問題は軽減され、自然が保たれる。まるで、人が自然の害であることが証明されてるようだ。
そんな夏の暑い時期、ほとんどの学生やサラリーマンは長期休暇で楽しんでいる頃、ウォルターはようやく男を捕ら取り調べをしていた。
卵型の顔に瞳と髪は同じ色の黒。髪はショートだが、女性でもショートヘアーはいるし、逆に長髪にする男性もいるので髪型だけで男女が判別できる時代ではない。
そんな世の中は今、ジェンダー問題で特にマイノリティーについて社会が追いついていない問題が話題として取り上げるようになり、世間がもっとマイノリティーに慣用になるべきだと訴える一方で、政治家によるステレオタイプ等の発言問題が取り上げられ炎上するなど、大変な時代になっている。
だが、フェミニストの第一波や第二波、それ以降の波で、男女差別問題やその他の様々な問題について実は重要な議論をずっと昔から行い、それが現在でも続いている。
波を読み間違えれば波に飲まれ沈んでしまい兼ねないだけに、この問題は他人事では済まない。
とはいえ、ウォルターは古い方の人間だ。正直、その話題に触れることさえ怖いと感じている。だが、基本的にマイノリティーに慣用な立場であることは一様示しているつもり。
「逮捕後もホルモン投与できる?」
黙秘権と取り調べの証言で不利になる場合があるなど、一通りの説明を(まるで台詞を読むように)伝え終えた後、犯人が第一声で喋った言葉がそれだった。
「お前、自分が何で逮捕されているのか分かっているのか?」
「分かっているけど、それと自分の人としての権利が奪われる理由が結びつかないけれど」
「お前は殺人罪で逮捕されている。その人の権利はどうなんだ」
「罪を償うのとホルモン投与が出来ない理由と何か関係があるわけ?」
「……」
この手の話しは正直ウォルターは苦手だった。その犯人にとってホルモン投与が自分がこれからどうなるかよりも重要なんだろうが、それは身勝手だと感じてしまうのは間違いなのだろうか。それは罪を犯した者の甘えになるのだろうか。
「規則の話しをすると、例え自己負担であっても認められていない。刑事事件における収容の場合、そういった法整備が進んでいない現状がある」
「どうして」
「理由は色々あるだろうが、そもそも法整備の議論が進んでいないのが原因だろう。世間にとっては犯罪を犯した人間に対する権利について法整備の必要性を感じていないから、そこまで報道にもならない」
声をあげていかなければ変われるものも変わらない。それが世の中だ。でなければ社会はむしろ間違った方向へ行きかねない。とある国では中絶を禁止する間違った法律が生まれた。その国では禁酒法が昔に出来たりと、間違った法律が時々生まれる。法律は万全ではない。故に有権者による厳しい監視が必要になる。
この国だって中絶に対して女性負担に傾いており、男性はゴミのように無責任だ。都合が悪ければ女を捨てて逃げる卑劣なクズだ。
犯人は不満をウォルターにぶちまけた。周囲にいた他の刑事は苛立った様子で、直ぐにでも怒鳴り散らす勢いだ。ウォルターはその前に事件の話しに移す。
「銃の扱いはどこで学んだ?」
「黙秘します」
「は?」
「黙秘する権利があるんでしょ。なら、黙秘します」
ウォルターは思わず深いため息を漏らした。腕時計を見て時間を確認する。この様子じゃ、今日はジョンに会えないな。
「それじゃ、被害者とどんな関係だ」
「黙秘します」
犯人はそう言って完黙した。
その頃、闘技場に地下があったという大発見で、その関係で調査が始まり休場になってしまった間、ピーターはチャットGPTで遊んでいた。まだまだ性能としては限界を感じるものの、成長していくのを我が子のように感じ、まるで育てているようだった。
そこへ、珍しくジョンが現れた。
「やぁ、ジョン。久しぶり」
「何してたんだ? 眼鏡なんかかけて」
「噂のチャットGPTを試していたんだ。他にも生成AIでイラストや小説まで出来るようになったんだ。これなら絵心のない俺でも漫画家になれるかもしれないし、小説家だってなれるかもしれないんだ」
「そりゃ凄いな。もう、引退後のことを考えてるのか?」
「いや、そんなんじゃないよ。言ってみただけさ。実際、AIのせいでイラストレーターがいなくなるのは嫌だし、AIが書いた小説をそこまで読みたいとは思わないよ。まぁ、ちょっと興味はあるけど。でも、いずれ見分けもつかなくなっちまうんだろうな」
「実際、既にそうなってるんだろ?」
「まぁな。便利になって良い世の中になったのか、悪い世の中になったのか、俺達にはさっぱりだ」
「そうだな」
「それより用があって来たんだろ?」
「ディーンの事件、裁判が始まるのは知ってるだろ」
「日程が決まったそうだな」
「俺達で、ディーンを殺害した真犯人を探さないか?」
「そりゃ真犯人をこのまま野放しにして今もどこかで自由にやってるのは気にくわんけど、どうやってやる?」
「実はあの事件で銃声があったそうだ。ウォルターからの情報だ」
「銃声……でも、確か」
「そうだ。撃たれたのはディーンじゃない。それに銃声と関係があるかは不明だ。だが、手掛かりになるかもしれない。それに、これは俺の読みだが闘技場に地下があったのを知ってるだろ?」
「あぁ、俺も初めて知ってビックリしたよ」
「警察は当然都内周辺のカメラ映像を確認している。だが、そこに不審人物がヒットしなかったのがずっと引っ掛かっていてな、もしかしたら犯人は都会の真下に地下通路が伸びているのを知っていて利用したんじゃないのか?」
「もしそうだとしたらカメラ映像に犯人が映らない理由も説明はつくな」
「だろ?」
「分かった。俺も協力するぜ。どうせ暇だったからよ」
そんな夏の暑い時期、ほとんどの学生やサラリーマンは長期休暇で楽しんでいる頃、ウォルターはようやく男を捕ら取り調べをしていた。
卵型の顔に瞳と髪は同じ色の黒。髪はショートだが、女性でもショートヘアーはいるし、逆に長髪にする男性もいるので髪型だけで男女が判別できる時代ではない。
そんな世の中は今、ジェンダー問題で特にマイノリティーについて社会が追いついていない問題が話題として取り上げるようになり、世間がもっとマイノリティーに慣用になるべきだと訴える一方で、政治家によるステレオタイプ等の発言問題が取り上げられ炎上するなど、大変な時代になっている。
だが、フェミニストの第一波や第二波、それ以降の波で、男女差別問題やその他の様々な問題について実は重要な議論をずっと昔から行い、それが現在でも続いている。
波を読み間違えれば波に飲まれ沈んでしまい兼ねないだけに、この問題は他人事では済まない。
とはいえ、ウォルターは古い方の人間だ。正直、その話題に触れることさえ怖いと感じている。だが、基本的にマイノリティーに慣用な立場であることは一様示しているつもり。
「逮捕後もホルモン投与できる?」
黙秘権と取り調べの証言で不利になる場合があるなど、一通りの説明を(まるで台詞を読むように)伝え終えた後、犯人が第一声で喋った言葉がそれだった。
「お前、自分が何で逮捕されているのか分かっているのか?」
「分かっているけど、それと自分の人としての権利が奪われる理由が結びつかないけれど」
「お前は殺人罪で逮捕されている。その人の権利はどうなんだ」
「罪を償うのとホルモン投与が出来ない理由と何か関係があるわけ?」
「……」
この手の話しは正直ウォルターは苦手だった。その犯人にとってホルモン投与が自分がこれからどうなるかよりも重要なんだろうが、それは身勝手だと感じてしまうのは間違いなのだろうか。それは罪を犯した者の甘えになるのだろうか。
「規則の話しをすると、例え自己負担であっても認められていない。刑事事件における収容の場合、そういった法整備が進んでいない現状がある」
「どうして」
「理由は色々あるだろうが、そもそも法整備の議論が進んでいないのが原因だろう。世間にとっては犯罪を犯した人間に対する権利について法整備の必要性を感じていないから、そこまで報道にもならない」
声をあげていかなければ変われるものも変わらない。それが世の中だ。でなければ社会はむしろ間違った方向へ行きかねない。とある国では中絶を禁止する間違った法律が生まれた。その国では禁酒法が昔に出来たりと、間違った法律が時々生まれる。法律は万全ではない。故に有権者による厳しい監視が必要になる。
この国だって中絶に対して女性負担に傾いており、男性はゴミのように無責任だ。都合が悪ければ女を捨てて逃げる卑劣なクズだ。
犯人は不満をウォルターにぶちまけた。周囲にいた他の刑事は苛立った様子で、直ぐにでも怒鳴り散らす勢いだ。ウォルターはその前に事件の話しに移す。
「銃の扱いはどこで学んだ?」
「黙秘します」
「は?」
「黙秘する権利があるんでしょ。なら、黙秘します」
ウォルターは思わず深いため息を漏らした。腕時計を見て時間を確認する。この様子じゃ、今日はジョンに会えないな。
「それじゃ、被害者とどんな関係だ」
「黙秘します」
犯人はそう言って完黙した。
その頃、闘技場に地下があったという大発見で、その関係で調査が始まり休場になってしまった間、ピーターはチャットGPTで遊んでいた。まだまだ性能としては限界を感じるものの、成長していくのを我が子のように感じ、まるで育てているようだった。
そこへ、珍しくジョンが現れた。
「やぁ、ジョン。久しぶり」
「何してたんだ? 眼鏡なんかかけて」
「噂のチャットGPTを試していたんだ。他にも生成AIでイラストや小説まで出来るようになったんだ。これなら絵心のない俺でも漫画家になれるかもしれないし、小説家だってなれるかもしれないんだ」
「そりゃ凄いな。もう、引退後のことを考えてるのか?」
「いや、そんなんじゃないよ。言ってみただけさ。実際、AIのせいでイラストレーターがいなくなるのは嫌だし、AIが書いた小説をそこまで読みたいとは思わないよ。まぁ、ちょっと興味はあるけど。でも、いずれ見分けもつかなくなっちまうんだろうな」
「実際、既にそうなってるんだろ?」
「まぁな。便利になって良い世の中になったのか、悪い世の中になったのか、俺達にはさっぱりだ」
「そうだな」
「それより用があって来たんだろ?」
「ディーンの事件、裁判が始まるのは知ってるだろ」
「日程が決まったそうだな」
「俺達で、ディーンを殺害した真犯人を探さないか?」
「そりゃ真犯人をこのまま野放しにして今もどこかで自由にやってるのは気にくわんけど、どうやってやる?」
「実はあの事件で銃声があったそうだ。ウォルターからの情報だ」
「銃声……でも、確か」
「そうだ。撃たれたのはディーンじゃない。それに銃声と関係があるかは不明だ。だが、手掛かりになるかもしれない。それに、これは俺の読みだが闘技場に地下があったのを知ってるだろ?」
「あぁ、俺も初めて知ってビックリしたよ」
「警察は当然都内周辺のカメラ映像を確認している。だが、そこに不審人物がヒットしなかったのがずっと引っ掛かっていてな、もしかしたら犯人は都会の真下に地下通路が伸びているのを知っていて利用したんじゃないのか?」
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