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平穏という言葉が相応しく喧騒な大都会とは程遠い田舎の町にサイレンを鳴らした何台ものパトカーが地元の小学校へと入っていった。
何事なの!? という顔をして玄関からサンダルをつっかけて出てきた近所のおばさんは小学校へ入っていくのを見て驚愕する顔を浮かべた。
覆面パトカーから刑事が降りてくると、正面玄関へと入っていった。
サイレンの音を聞きつけた校長が現れ、おどおどした態度を見せた。丸眼鏡に白髪混じりの人だった。
何からどう説明したらいいのか分からず、とにかくこの状況に困惑した感じだ。
「落合です」そう言いながら警察手帳を校長に見せた。後に続き他の警察達も名乗った。
「校長の吉川です」
「通報されたのはどなたですか?」
「私です」
「校長先生?」
「はい」
「それでは校長先生、場所を案内して下さい」
「此方です」
その近くには教職員や事務員達が様子を窺っていた。そちらの対応は他の警察に任せた。
校長と落合達は六年一組の教室へと向かった。
教室にはまだ、首を吊ったままの姿があった。
「まさか、小林先生がこんなことになられるなんて……」
校長は弱々しい声でそう呟いた。
無理もないと落合は思った。
「誰かご遺体に触られた方はいらっしゃいますか」
「いえ、いないと思います。あの、それで宜しかったんですよね? 通報した時、遺体に触っていいのかどうか分からなくて。本当だったらおろしてあげるべきだったのではないかと」
「校長先生、第一発見者はあなたですか?」
「いえ……」
「ではどなたですか?」
「このクラスの男子です」
「具体的にお願いします」
「一番最初に登校した男子がこの教室に入った時に、既にあのように……」
落合の隣の若い刑事はその内容をメモした。
「男子はその後どうされましたか?」
「職員室で先生を呼んだのだと思います。まだ、教職員は全員揃ってはいませんでしたが、既に出勤していた河辺先生と小池先生が向かいました。二人の先生が見た時には手遅れだと分かったようで、下手に触らない方がいいと判断され、河辺先生は教室のある廊下を立ち入り禁止にし、小池先生は私を呼びに来ました。そこで私は初めて知らされました」
「校長先生はその後に教室に向かわれ確認されましたか」
「はい」
「今見て、その前に確認した時と何か変わったことはありますか?」
「いえ……ないと思いますが」
◇◆◇◆◇
現場は鑑識に任せ、落合は教室を借りて、最初に河辺を呼んで話しを聞くことにした。
河辺が教室に入ってくると、向かい合わせにした席の向かいに座るよう落合は案内した。
河辺はスポーツ刈りの体育会系で校長曰くこれでも算数の先生だと言う。体育の先生に間違われてもおかしくない体格に、普段から運動かジムをしていると思われる。
「河辺先生、ご協力感謝します。幾つか先生には質問があります。まず、六年生の男子が先生を呼んだというのは本当でしょうか?」
「はい。確か、先生が首を吊ってる! だったと思います。慌てた様子でしたし、悪戯だとは思いませんでしたが、正直、まだ頭が整理出来ていませんでした。いきなり首を吊っているなんて言われたものですから。ですが、男子が私に、先生早く来て! と言われたので、その場にいた小池先生と一緒にその男子児童と一緒に行きました。そしたら、本当に首を吊っていて……」
「その時には手遅れだったと?」
「はい。そもそも、私と小池先生はほぼ同時に出勤しました。用務員の尾木さんと校長、教頭はいつものように早いのですが、それより早く来ていた先生はいませんでした。その後に小林先生が来たということもありません。職員の玄関から六年の教室へ向かうには校長室と事務室、それから職員室の前を必ず通らなければなりません。気づかれないなんてことはないと思います。第一、事務室は事務員がいる時はドアは開きっぱなしですし、職員室も空気の入れ替えでドアは閉められていないんです。多分、気づくと思います。なのに、小林先生を見た時、先生は何故か内履きでした。ロープで首を吊る為に邪魔になるからなのか、ネクタイは外され誰かの机の上に置かれたままでしたが、そのネクタイは小林先生のものでした。そのネクタイは昨日小林先生が付けていたものでした。赤いネクタイで目立った色でしたから覚えています。つまり、先生は昨日から帰っていなかったんだと思います。後で確認したら、職員室には先生の鞄がありました」
「なる程。そうなると、先生は既に昨日のうちから自殺をしていた可能性があるというわけですね」
河辺はうつ向いた。
「河辺先生は児童の立ち入りを禁止させ、小池先生は校長先生を呼びに向かったそうですが、それは小池先生の指示で?」
「いえ、違います。私が小池先生にお願いをしました」
「そうでしたか。現場保存につとめていただきお礼を申し上げます。因みに、小林先生のことは普段どのような関係なのでしょう?」
「小林先生とは担当する学年が違いますし、それもあってかあまり普段から会話があったということはなかったです」
「そうでしたか。小池先生はどうです?」
「小池先生? 小池先生は学年が同じですのでよく話しもしますよ。クラスも隣ですから」
「参考までにお伺いしても?」
「ええ。私が四年三組、小池先生は四組になります」
「ありがとうございました。また、話しを伺うことになるかと思いますが、またその時は宜しくお願いします」
「はい、協力できることはなんでもします」
何事なの!? という顔をして玄関からサンダルをつっかけて出てきた近所のおばさんは小学校へ入っていくのを見て驚愕する顔を浮かべた。
覆面パトカーから刑事が降りてくると、正面玄関へと入っていった。
サイレンの音を聞きつけた校長が現れ、おどおどした態度を見せた。丸眼鏡に白髪混じりの人だった。
何からどう説明したらいいのか分からず、とにかくこの状況に困惑した感じだ。
「落合です」そう言いながら警察手帳を校長に見せた。後に続き他の警察達も名乗った。
「校長の吉川です」
「通報されたのはどなたですか?」
「私です」
「校長先生?」
「はい」
「それでは校長先生、場所を案内して下さい」
「此方です」
その近くには教職員や事務員達が様子を窺っていた。そちらの対応は他の警察に任せた。
校長と落合達は六年一組の教室へと向かった。
教室にはまだ、首を吊ったままの姿があった。
「まさか、小林先生がこんなことになられるなんて……」
校長は弱々しい声でそう呟いた。
無理もないと落合は思った。
「誰かご遺体に触られた方はいらっしゃいますか」
「いえ、いないと思います。あの、それで宜しかったんですよね? 通報した時、遺体に触っていいのかどうか分からなくて。本当だったらおろしてあげるべきだったのではないかと」
「校長先生、第一発見者はあなたですか?」
「いえ……」
「ではどなたですか?」
「このクラスの男子です」
「具体的にお願いします」
「一番最初に登校した男子がこの教室に入った時に、既にあのように……」
落合の隣の若い刑事はその内容をメモした。
「男子はその後どうされましたか?」
「職員室で先生を呼んだのだと思います。まだ、教職員は全員揃ってはいませんでしたが、既に出勤していた河辺先生と小池先生が向かいました。二人の先生が見た時には手遅れだと分かったようで、下手に触らない方がいいと判断され、河辺先生は教室のある廊下を立ち入り禁止にし、小池先生は私を呼びに来ました。そこで私は初めて知らされました」
「校長先生はその後に教室に向かわれ確認されましたか」
「はい」
「今見て、その前に確認した時と何か変わったことはありますか?」
「いえ……ないと思いますが」
◇◆◇◆◇
現場は鑑識に任せ、落合は教室を借りて、最初に河辺を呼んで話しを聞くことにした。
河辺が教室に入ってくると、向かい合わせにした席の向かいに座るよう落合は案内した。
河辺はスポーツ刈りの体育会系で校長曰くこれでも算数の先生だと言う。体育の先生に間違われてもおかしくない体格に、普段から運動かジムをしていると思われる。
「河辺先生、ご協力感謝します。幾つか先生には質問があります。まず、六年生の男子が先生を呼んだというのは本当でしょうか?」
「はい。確か、先生が首を吊ってる! だったと思います。慌てた様子でしたし、悪戯だとは思いませんでしたが、正直、まだ頭が整理出来ていませんでした。いきなり首を吊っているなんて言われたものですから。ですが、男子が私に、先生早く来て! と言われたので、その場にいた小池先生と一緒にその男子児童と一緒に行きました。そしたら、本当に首を吊っていて……」
「その時には手遅れだったと?」
「はい。そもそも、私と小池先生はほぼ同時に出勤しました。用務員の尾木さんと校長、教頭はいつものように早いのですが、それより早く来ていた先生はいませんでした。その後に小林先生が来たということもありません。職員の玄関から六年の教室へ向かうには校長室と事務室、それから職員室の前を必ず通らなければなりません。気づかれないなんてことはないと思います。第一、事務室は事務員がいる時はドアは開きっぱなしですし、職員室も空気の入れ替えでドアは閉められていないんです。多分、気づくと思います。なのに、小林先生を見た時、先生は何故か内履きでした。ロープで首を吊る為に邪魔になるからなのか、ネクタイは外され誰かの机の上に置かれたままでしたが、そのネクタイは小林先生のものでした。そのネクタイは昨日小林先生が付けていたものでした。赤いネクタイで目立った色でしたから覚えています。つまり、先生は昨日から帰っていなかったんだと思います。後で確認したら、職員室には先生の鞄がありました」
「なる程。そうなると、先生は既に昨日のうちから自殺をしていた可能性があるというわけですね」
河辺はうつ向いた。
「河辺先生は児童の立ち入りを禁止させ、小池先生は校長先生を呼びに向かったそうですが、それは小池先生の指示で?」
「いえ、違います。私が小池先生にお願いをしました」
「そうでしたか。現場保存につとめていただきお礼を申し上げます。因みに、小林先生のことは普段どのような関係なのでしょう?」
「小林先生とは担当する学年が違いますし、それもあってかあまり普段から会話があったということはなかったです」
「そうでしたか。小池先生はどうです?」
「小池先生? 小池先生は学年が同じですのでよく話しもしますよ。クラスも隣ですから」
「参考までにお伺いしても?」
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「ありがとうございました。また、話しを伺うことになるかと思いますが、またその時は宜しくお願いします」
「はい、協力できることはなんでもします」
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