幸せのかたち

春廼舎 明

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 同窓会の後、中村くんから連絡が来た。私がプログラマーということを同窓会に参加した誰かから聞いたのか、社内のシステムについての相談だった。
 メールじゃ埒があかなく電話に切り替える。内容を聞く限り残念だが、私はシステムエンジニアでもネットワークエンジニアでもないので門外漢だ。主にDBデータベースアプリケーション作成・保守、で専門はSQL、VBAで、私は一商社のシステム部門に在籍しているだけで、私の勤務先はシステム会社じゃない。そのような要件はシステム会社へ発注してくれと伝えた。
 中村くんは道理で話が繋がらないと思った、とつぶやき礼を言うと電話を切った。

「菜津、今の誰? 仕事の人にしては変な会話」
「聞いてたの?」
「ごめん、聞こえちゃったから。」
「この間の同窓会で連絡先交換した人。私がプログラマーと友人に伝えたら、プログラマーとネットワークエンジニアの違いがわからなかったみたいで相談に乗ってもらえば? って言われたみたい。」
「ふーん。俺もよくわからないや。」

「どっちにしても、自分のところのシステム部門に聞けばいいのに。もしシステム部門がなくて外注でその選定に彼が関わっているんだとしたら、だいぶ切羽詰まってるね。」
「なんで?」
「だって、私の会社名知っててそんな相談するんだよ? ちゃんと然るべきところに相談すべきじゃない?」
「そうだな……そいつ、男?」
「そう。中学生時代の私の親友に惚れてた人。」
「それはもう10年以上も前の話だろ? 菜津、そいつからの電話はもう出るなよ。」
「なんでよ。頓珍漢なアドバイス受けちゃって、一応確認で連絡くれただけじゃない。そんなこと言われる筋合いはないでしょう。」
「そもそもなんで連絡先交換してんだよ。」
「連絡先交換しただけじゃない。」
「そこから口説く気満々じゃねえかよ。」
「どうして?」

 彼が眉根を寄せて、はあ~っとため息をつく。
 そういえば、中村くんも私に連絡先を聞いた時、口説かせろと言った。まさかあれは売り言葉に買い言葉みたいな冗談で言ったのであって、本気ではないし、なんで大樹さん知ってるの?
 じっと大樹さんの顔を眺める。あれ? 少し痩せた?

「菜津、自分で『切羽詰まってる』『然るべきところに相談すべき』って言ったろ。つまり、そいつ相談がしたいんじゃなくて、菜津と話をしたかったんだろ。」
「ふーん、なるほど?」
「なんで話したい? 嫌いなやつ、興味もない奴にわざわざ電話かけることはないし連絡先交換なんかしないだろ。」
「そっか、ごめん。でも私はあの人、別になんとも思ってないし、用もないから私から連絡を取ることもないよ。」
「そうして。ちゃんと俺の存在伝えとけよ。」
「言ってあるよ。」
「図々しい奴だな。」
「うん、だからよっぽど切羽詰まってるんだねえ。」

 彼がもう一度、はあ~っとため息をつく。
 私って、そんなに信用されていないのだろうか。

大樹ヒロキさん、私ってそんなに信用ないですか?」
「なんでさ?」
「だって、ため息つくから。」
「信用はしてる、でも頼りないから心配。」
「どう違うんです?」
「菜津は口説かれてんのに、気がつかず流されちゃう。気がついたらやっちゃった後とか、嫌だからな。」
「やっぱり信用されてない。その前にちゃんと気がつくよ。」
「俺が言うのもなんだけど、付き合い始めが酔った勢いだからね。」

 私と彼の出会いは、三年ほど前。私はインディーズバンドのライブを観に行き、お目当のバンドを観終えサクッと切り上げた。近場のファミレスで時間を潰し店を出ると、打ち上げを早く切り上げた彼とバッタリと会った。彼はバンドマンだった。駅まで、と話しながら歩くうち盛り上がり、駅に着けば線まで同じで、電車の中でクスクス笑い合えば最寄駅が1駅違いと知る。彼と最寄り駅の飲み屋で飲み直した。
 ご機嫌に酔っ払い、私は彼をかっこいいと思っていたので、あっさり誘いに乗りお持ち帰りされた。
 翌朝、そこそこ顔立ちの整ったバンドマンってこうやって女の子を食っていくんだ、と妙に感心した。
 彼は、そのままバンドを抜けた。ファンを食ったから? と自分の軽率な行動に責任を感じたが、単純にメジャーデビューを目指す他のメンバーと、のんびり趣味で続けていければいいと考えるスタンスの違いだった。
 なのに、世の中は不条理なもので大樹さんが脱退後、ソロで作った曲がTVで使われることになる。インディーズのまま販売していたため、横から抜かれることがなく、臨時収入♪赤字清算と、彼はホクホクしていた。
 それでも、彼は天狗になることなく、やはり音楽は趣味で本業の料理人の道を進んでいた。

「元々お互いを良いと思っていた下地があるじゃない。私、中村くんはどうでも良いもん。」
「中村って言うんだ、へえ。」
「……大樹さんって、そんなに束縛する人でしたっけ? 嫉妬深い人でしたっけ?」
「最近、菜津に構ってもらってないから。今日泊まっていくだろ?」
「…うん」
「じゃあ、菜津…」

 抱きしめられ、キスと同時にぽいぽいと服を剥ぎ取られた。今日は前開きのブラウスを着ていたからとはいえ、いつも思う、なんて手際の良さ……

「大樹さんって、絶対職業間違えてますよ。介護職があってます。」
「何? どう言うこと?」
「服脱がすの、手際良すぎ。」
「ぶ…そこだけじゃん。菜津…」
「ん…」

 服を脱ぎ、裸になればキスが降りてくる。そして私が彼の服に手をかける。
 馴れきった、いつもの手順。
 シャツの裾から手を入れて彼の胸と背中を撫で、シャツを上にあげていく。
 キスを中断して彼がTシャツを脱ぎ捨てる。
 熱い肌に自らの体を押し付けて、キスを続ける。
 背中に回した手を体に沿わせ、Gパンのホックに手をかける。
 けど、私はここまで。いつもこのホックを外せない。キスをしながらじゃ、手元が見えない。不器用すぎて、彼が待ちきれず私をベッドに運んで自分で脱ぐ。
 なのに、今日はなぜかいつも外れないホックがするっと外れた。
 思わず嬉しくてニコッと笑う。

「ぷ…何、どや顔してんの?」
「私、ちょっと成長したのかも。」
「うん、そうだね、ここなんか特に。」

 口づけで私の口を塞ぎヤワヤワと胸を揉みしだく。息継ぎに顔をそらし会話を続ける。

「もう、気にしてるんだから。言わないでよ。」
「なんで? 大きい方がいいじゃん。」
「胸って、脂肪の塊なの。胸が大きくなるって、つまり他にも脂肪が付くってことなの。」
「ああ、そう言うこと? 気がつかなかったけど。なら、俺は逆」
「え?」
「菜津に会えない間、なんか飯がまずくて腹回りの肉が落ちた。」
「大げさな。痩せたコックは信用するなっていうから、ちゃんと食べて。」
「ビール腹がスマートになったくらいだから、丁度いいの。ちゃんと鍛えるよ。」
「いいね、細マッチョ…ってだから今日、外れたのかな……」
「ん、そうかもな。」

 彼が自分の腹回りを撫で、Gパンを脱ぐ。
 いやでも目に入るそれを見て、思わず顔を赤らめ視線をそらす。

「良い加減、見慣れろよ」
「無理! 馴れるわけないでしょ」
「ここ以外も、成長してよ……」
「ひどーい、成長したの肉だけってこと?」
「さあね? もう黙って……」

 いつもはしない会話、いつもより長いキス。
 結局ベッドに運ばれ、彼は下着を自分で脱ぎ、私に覆いかぶさる。
 いつもとはちょっとだけ違う、変化が起きた夜の始まり。



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