幸せのかたち

春廼舎 明

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「菜津、一緒に住まない?」
「んー、場所と間取り、家賃による。」
「……なんか、俺って家具みたいな扱いになってない?」
「家具は部屋によって要る要らないがあったり、置ける置けないがあったりするから、家具とは違うでしょ?」
「そっか。……ん? 住まいによって一緒に住むかどうかって考えるなら家具と同じ?」
「そう言う言い方するなら、そうだね。」
「ヤベェ!!自分から聞いておきながらショックだ!」

 職場まで何分以内、駅から何分以内、家賃はいくらまで……
 鉄筋鉄骨の建物で2階以上できれば3階以上がいい。室内洗濯機置き場があって、広さはどれくらい…
 自分だけの引越しの条件を挙げるなら、こんなもんでいい。
 でも、二人で住むとなると、バストイレ別は必須で、料理もするようになるだろうからキッチンは給湯台みたいな簡易キッチンではダメで、喧嘩した時や一人になりたい時用に間取りも考えなくちゃならない。何より二人入居可かファミリー用の物件でなくてはならない。

「物件見つけて選ぶだけでも大変なのになあ…、生活習慣とかこだわりとか何かある?」
「ん? 朝は和食派とかみたいなの?」
「そう。」
「俺、朝はご飯と味噌汁と納豆があればいい。」
「純和食派だね。ちなみに私は朝は固形物食べない派。」
「いつも食べないな、とは思ってたけど、起きるの遅くてすぐ昼だからだと思ってた。平日も?」
「うん、寝起きで物食べられない。もし固形物食べるなら、起きて2~3時間くらいして体が完全に起きてないと胃腸が働かない。食べ終わってから1時間くらいはゆっくりしたいから、そうすると、たった数口の朝食のために4時間も睡眠時間削るのは馬鹿馬鹿しい。」
「腹減らないの?」
「水分はたっぷり摂るよ? 寝起きに1杯の水、野菜と果物とヨーグルトのジュース、それからカフェオレかソイラテ。大きめのコップでこんだけ飲めばおなかパンパン。さらに職場でコーヒー淹れるし。」
「あー、どっかのモデルとかアスリートがやってる、朝はデトックスタイムに当てるって健康法か……」
「最近話題にされるようになったけど、特別な健康法ってわけじゃないと思うよ? お粥、オートミール粥ポリッジ、朝は流動食って国は少なくないんじゃない? 多分。」
「子供の頃、朝飯食わねえと親とか学校とかうるさくなかった?」
「これは子供の頃からの習慣。ご飯食べられないから、旬の野菜と果物を牛乳かプレーンヨーグルトでスムージーに、糖質・タンパク質・ビタミン・食物繊維が一挙に取れておすすめだよ。」
「それって、スムージー作れるブレンダーとかミキサーがあるからだろ?」
「そう、炊飯器よりミキサーが必須家電。なければヨーグルトと野菜ジュースか、青汁と牛乳をシェーカーでミックス。」
「そこは譲らねえんだ?」
「だって、具合悪くなるんだもん。別に大樹さん朝食食べたいなら作ればいいじゃない。匂いが~とか言わないから。」

 結局、同棲の話は延期になった。もう少しお互いの部屋を行き来して、泊まって生活習慣を垣間見てそれから考えようと言う話になった。
 私は今の部屋を気に入っていたので、少しホッとした。


「鈴木さん、安藤さんの送別会出る?」
「え? 安藤さん辞めちゃうの?」
「寿退社。」
「結婚するとは聞いてたけど、辞めるとは。何? 旦那さんの都合?」
「そうらしいよ。北陸行くんだって。」
「へえ。北陸って、北陸のどこ?」
「金沢らしいよ。で、なっちゃん行ける?」
「いつ? 佐藤さんと小島さんは?」
「来週水曜。コジは幹事だから出る。私は同期だしねー、出ないわけには…あー、一人取り残された~」
「一人残されたって、サト子の同期3人しかいないじゃん。」
「サト子言わないで! サト子言われるたび、頭にリボンつけた象を思い出して…」
「だから結婚したいの?」
「まさか、それだけじゃないけどさ。そうじゃなくて、結婚したいじゃん。」
「……ふーん。」
「ふーんって、菜津って彼氏いるでしょ? 結構付き合って期間経ってるなら結婚の話とか出ないの?」
「考えたことない。」

 先日、一緒に住まないかと言う話になった。でも、それは別に結婚しようとか、結婚を見据えてとか、そう言うのじゃないと思う。
 多分。

「そろそろ3年? 一度もそんな話出てないの?」
「そうだねー。別に結婚したくないと思ってるわけでもなくて、ただ単純に考えたことがないだけ。」
「それって、やっぱり相手が菜津の事待っててくれるってわかってる故の余裕じゃない?」
「そうかな~?」
「だって、一人は寂しいじゃん。」
「いや、別に? 先月先々月って仕事忙しくて会ってなかったけど、寂しくなかったし、彼に知り合う前もそう思ったことない。」
「でもやっぱり、一人で生活してると男手欲しい時あるじゃん? 電球取り替えたり、高いところの物取ったり…」
「佐藤さんはいちいちやってもらうの? 電球取り替えたり、高いところの物取ったり…踏み台登ってサクッと自分でやればいいじゃない、やってもらう相手探してる間に完了するよ。」


 大樹さんが苦笑する。

「そういうことじゃないんだよ。」
「どうして男の大樹さんが、女の佐藤さんの気持ちわかるのよ。」
「前々から思ってたけど、菜津は地図を見るとき、進行方向を上に向けなくても読めるだろ?」
「男性脳って言いたいの? それならそうだよ。診断サイトとかでいくつかやってみたけど毎回立派な男性脳って診断される。」
「菜津のさ、自分でできることは自分で解決しようっていう、そういうところ俺、嫌いじゃないよ。でもたまには頼って欲しいんだよ。」
「そんなこと言われてもなあ。頼りたいと思うことがないから。だってちょっと高い所の物を取るだけの為に、わざわざ男手を探し出して呼びつけて、来るのを待って、説明して、やってもらって、終わるの待って礼を言って……3分で片付けられることを3時間だか3日だかかけるってバカバカしい。」
「いや、ちょっとくらいなら自分でやるんじゃね? 高いところ登るの危ないじゃん。」
「高いところが危ないんじゃなくて、不注意で迂闊なのが危ないんだよ。」
「床より足場が不安定で、やっぱり危ないじゃん。」
「えー? そう思うなら、なんで危ないことを大事な人にやらせようとするの?」
「まあ、力仕事ってこともあるしな。菜津、それ彼にやってもらうっていう女の前では言わない方が良いよ。」
「なんでよ? 蛍光灯変えるの別に力は要らないよ?」
「彼って優しい♥って自慢したいんだよ。」
「だいたいさ、蛍光灯なんてそうしょっ中切れるモンでもないんだから、年末大掃除時期に変えてってくれればいいじゃん。恩着せがましく電球切れたら俺を呼べとか、バカじゃない?」
「悪かったな。今度の年末は問答無用で俺が変えてってやる。」
「残念だけど、3~4年はもつLED、高い蛍光灯使ってるから今年は間に合ってます。それにさ、高いところのものが取れないって、じゃあ誰がそこにどうやって入れたんだよ、自分で入れたんだろ、なら出せるだろって思う。そもそも使うものをそんな場所に入れるのが間違い。相当考えなしなバカ。」
「そうなんだけどー。蛍光灯にこだわりすぎー」

 また大樹さんに苦笑された。

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