幸せのかたち

春廼舎 明

文字の大きさ
17 / 20

17

しおりを挟む
 シーツや布団カバーなどは大きくて、一度に一枚ずつしか干せないのでコインランドリーの乾燥機を使うことにした。乾くまでの間、大樹さんのお店のお気に入り料理の話と家庭で簡単に作れるレシピを教わる。
 大樹さんの一時帰宅は、夏物と冬物の衣類の交換しに帰ってきていた。インナーはともかくコートは一冬だけのつもりで購入するには少々値が張る。なにせマイナス20度だ。地元民は慣れているからそれほどぶくぶくに着膨れしない。むくむくに厚着してるのはむしろ旅行者の証、と笑われる。

 北海道から採れたての玉ねぎとジャガイモが大量に届いた。大樹さんがカーテンまで洗濯してくれてありがとうと感激され、そのお礼だ。玉ねぎの産地が近いらしく秋の玉ねぎは春先の平たいのとまた違い、美味しくて大量のチポラータを作った。もちろん作り方は大樹さん直伝だ。ホワイトソースの残りでレシピをあさってから料理をすることが増え、作り置きの惣菜のレパートリーが増えた。お昼はもう小島さんと佐藤さんと一緒に過ごすことはなくなった。

「最近、ちょっと料理作りに目覚めちゃって。ごめんね、飽きたらまた一緒してもいい?」
「花嫁修行?」
「いいよー。なっちゃんの代わりにイケメンおいて行ってくれれば。」
「だって。中村くん、よかったね、イケメン扱いしてもらいなよ。サト子さん小島さんお願いしますね。」
「任せてー。」
「……一人でメシ食えねえ子供か、俺。」

 堂々と、面と向かって三人で昼休憩を過ごしてと言えば、嫌だとは言えず、もう私について来ることはなくなった。
 当然、業務時間中はそれぞれ作業に追われているし、子供じゃあるまいし、ちょっかいをかけることもかけられることもない。

「あれ、原さん?」

 この夏入った庶務の女の子が昼休憩のリフレッシュスペース入口でまごついている。事務所内引っ越しで、中で食べる人が増えた。今日は天気も悪く中で食べる人が特に多いのだろう。
 打ち合わせスペースは大抵中田さんがランチで予約をしてあるので、一緒にどうかと声をかける。案の定、中田さんは予約をしてあり、彼女は打ち合わせスペースをランチタイムに使えると知らなかった。

「ありがとうございます。自分の席で食べるしかないと思っていたので助かりました……」
「ん~、どうしてここってランチとる人少ないんでしょうね?」
「リフレッシュスペースみたいに騒げないしな。」
「なるほど。確かに。あ、これくらいの声で静かに会話するくらいは平気だよ。」
「それもありますけど、情シスのエリア抜けて来るのハードル高いですよー。」
「なんで?」
「なんか、怖そう? シンとして、みんな難しい顔してる。」
「そう? 難しい顔してるのは否定しないけど、シンとはしてないよ。」
「してないな。」
「そうなんですか?」
「そう、みんな「独り言が多い。」」

 思わずハモって答えると、吹き出された。
 違う三人組でランチをとることが日常になる。

 切り身の鮭でちゃんちゃん焼き風の包み焼きを作った。お取り寄せグルメの写真を見て思いつき、作ってみた。作ってみたものの、鮭=北海道=大樹さん、と連想ゲームをしてしまい、またほろりと泣いた。

「わあ、今日の菜津さんのランチ、美味しそうですね。ちゃんちゃん焼きですか?」
「なんちゃって焼き。」
「なんだそれ? なっちゃん焼き?」
「ふふ、ぴったり。」
「っ……『ちゃんちゃん焼き風』です。材料を包んでオーブンに放り込んだだけ。」

 私がランチに持って来るのは、女の子が綺麗に可愛らしくカラフルに詰め込んだお弁当ではない。作り置き惣菜1つ、塩握り。作ってあるときはスープジャーにスープ、なければカップスープか即席味噌汁。そんなおしゃなもんじゃない。ただ、赤色のものを使うと美味しそうに見えると気がついて以来、赤いものを入れるようにした。

「最近、カルガモの子は巣立ったの?」
「……押し付けました。」

 一瞬なんのことかわからなかったけれど、思い当たり、答える。原さんは、なになに? と聞いてきたりせず静かに食事を進めている。ふと何かを思いついたようだけど、何も言わずにいた。

 後日、中村くんがやけに時計を気にしていて、今日は金曜日だと気がついた。定時ちょっと過ぎに上がった私は、駅へ仲よさそうに連れ立って歩く二人を見つけた。
 年末休みの近づいたある日、経理にレスキューに呼ばれフロアが分かれた執務スペースに行った。帰り際、小島さんに結婚を報告された。やっぱりお相手はあの日の編集のマネージャだった。散々男性脳と言われ、自覚もしていて人の恋バナにとんと疎い私がわかるとは何かあるのではないだろうか。雪が降る? いや、雪も降る季節だ。

「なっちゃん? もしかしてサト子と中村くんのこと誤解してない?」
「え? ……もしかして、二人くっついたんじゃなかったの?」
「違うわよ。私の結婚祝いのプレゼント選んでくれたのよ。」
「なんだ、やっぱり私はそう言う勘というか、見る目がないなあ。」
「どうしてよ、ちゃんと続いてるんでしょ?」

 小島さんに言われて、ぞわぞわと寒気が走った。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

さようならの定型文~身勝手なあなたへ

宵森みなと
恋愛
「好きな女がいる。君とは“白い結婚”を——」 ――それは、夢にまで見た結婚式の初夜。 額に誓いのキスを受けた“その夜”、彼はそう言った。 涙すら出なかった。 なぜなら私は、その直前に“前世の記憶”を思い出したから。 ……よりによって、元・男の人生を。 夫には白い結婚宣言、恋も砕け、初夜で絶望と救済で、目覚めたのは皮肉にも、“現実”と“前世”の自分だった。 「さようなら」 だって、もう誰かに振り回されるなんて嫌。 慰謝料もらって悠々自適なシングルライフ。 別居、自立して、左団扇の人生送ってみせますわ。 だけど元・夫も、従兄も、世間も――私を放ってはくれないみたい? 「……何それ、私の人生、まだ波乱あるの?」 はい、あります。盛りだくさんで。 元・男、今・女。 “白い結婚からの離縁”から始まる、人生劇場ここに開幕。 -----『白い結婚の行方』シリーズ ----- 『白い結婚の行方』の物語が始まる、前のお話です。

【完結】ジュリアはバツイチ人生を謳歌する

ariya
恋愛
エレン王国の名門貴族・アグリア伯爵家に嫁いだジュリア・アグリア(旧姓ベルティー)。 夫のアベル・アグリア伯爵は、騎士として王妃の護衛任務に没頭し、結婚翌日からほぼ別居状態。 社交界のパーティーでは妻のエスコートを代理人に任せ、父の葬儀にも顔を出さず、事務的な会話と手紙のやり取りだけの日々が続く。 ジュリアは8年間の冷遇に耐え抜いたが、ある朝の食事中、静かに切り出す。 「私たち、離婚しましょう」 アベルは絶句するが、ジュリアは淡々と不満を告げる。 どれも自分のしでかしたことにアベルは頭を抱える。 彼女はすでに離婚届と慰謝料の用意を済ませ、夫の仕事に理解を示さなかった「有責妻」として後腐れなく別れるつもりだった。 アベルは内心で反発しつつも、ジュリアの決意の固さに渋々サイン。 こうしてジュリア・アグリアは、伯爵夫人としての全てを置き去りにし、バツイチ人生を開始する。

行かないで、と言ったでしょう?

松本雀
恋愛
誰よりも愛した婚約者アルノーは、華やかな令嬢エリザベートばかりを大切にした。 病に臥せったアリシアの「行かないで」――必死に願ったその声すら、届かなかった。 壊れた心を抱え、療養の為訪れた辺境の地。そこで待っていたのは、氷のように冷たい辺境伯エーヴェルト。 人を信じることをやめた令嬢アリシアと愛を知らず、誰にも心を許さなかったエーヴェルト。 スノードロップの咲く庭で、静かに寄り添い、ふたりは少しずつ、互いの孤独を溶かしあっていく。 これは、春を信じられなかったふたりが、 長い冬を越えた果てに見つけた、たったひとつの物語。

【完結】身代わりとなります

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
レイチェルは素行不良の令嬢として悪名を轟かせている。しかし、それはレイチェルが無知ゆえにいつも失態をしていたためで本人には悪意はなかった。 レイチェルは家族に顧みられず誰からも貴族のルールを教えてもらわずに育ったのだ。 そんなレイチェルに婚約者ができた。 侯爵令息のダニエルだ。 彼は誠実でレイチェルの置かれている状況を知り、マナー講師を招いたり、ドレスを作ってくれたりした。 はじめは貴族然としている婚約者に反発していたレイチェルだったがいつのまにか彼の優しさに惹かれるようになった。 彼のレイチェルへの想いが同情であっても。 彼がレイチェルではない人を愛していても。 そんな時、彼の想い人である隣国の伯爵令嬢フィオラの国で革命が起き、彼女は隣国の貴族として処刑されることが決まった。 そして、さまざまな思惑が交錯する中、レイチェルは一つの決断を下し・・・ *過去と未来が行ったり来たりしながら進行する書き方にチャレンジしてみました。 読みにくいかもしれませんがご了承ください。

復讐のための五つの方法

炭田おと
恋愛
 皇后として皇帝カエキリウスのもとに嫁いだイネスは、カエキリウスに愛人ルジェナがいることを知った。皇宮ではルジェナが権威を誇示していて、イネスは肩身が狭い思いをすることになる。  それでも耐えていたイネスだったが、父親に反逆の罪を着せられ、家族も、彼女自身も、処断されることが決まった。  グレゴリウス卿の手を借りて、一人生き残ったイネスは復讐を誓う。  72話で完結です。

貴方の側にずっと

麻実
恋愛
夫の不倫をきっかけに、妻は自分の気持ちと向き合うことになる。 本当に好きな人に逢えた時・・・

10年前に戻れたら…

かのん
恋愛
10年前にあなたから大切な人を奪った

なくなって気付く愛

戒月冷音
恋愛
生まれて死ぬまで…意味があるのかしら?

処理中です...