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シーツや布団カバーなどは大きくて、一度に一枚ずつしか干せないのでコインランドリーの乾燥機を使うことにした。乾くまでの間、大樹さんのお店のお気に入り料理の話と家庭で簡単に作れるレシピを教わる。
大樹さんの一時帰宅は、夏物と冬物の衣類の交換しに帰ってきていた。インナーはともかくコートは一冬だけのつもりで購入するには少々値が張る。なにせマイナス20度だ。地元民は慣れているからそれほどぶくぶくに着膨れしない。むくむくに厚着してるのはむしろ旅行者の証、と笑われる。
北海道から採れたての玉ねぎとジャガイモが大量に届いた。大樹さんがカーテンまで洗濯してくれてありがとうと感激され、そのお礼だ。玉ねぎの産地が近いらしく秋の玉ねぎは春先の平たいのとまた違い、美味しくて大量のチポラータを作った。もちろん作り方は大樹さん直伝だ。ホワイトソースの残りでレシピをあさってから料理をすることが増え、作り置きの惣菜のレパートリーが増えた。お昼はもう小島さんと佐藤さんと一緒に過ごすことはなくなった。
「最近、ちょっと料理作りに目覚めちゃって。ごめんね、飽きたらまた一緒してもいい?」
「花嫁修行?」
「いいよー。なっちゃんの代わりにイケメンおいて行ってくれれば。」
「だって。中村くん、よかったね、イケメン扱いしてもらいなよ。サト子さん小島さんお願いしますね。」
「任せてー。」
「……一人でメシ食えねえ子供か、俺。」
堂々と、面と向かって三人で昼休憩を過ごしてと言えば、嫌だとは言えず、もう私について来ることはなくなった。
当然、業務時間中はそれぞれ作業に追われているし、子供じゃあるまいし、ちょっかいをかけることもかけられることもない。
「あれ、原さん?」
この夏入った庶務の女の子が昼休憩のリフレッシュスペース入口でまごついている。事務所内引っ越しで、中で食べる人が増えた。今日は天気も悪く中で食べる人が特に多いのだろう。
打ち合わせスペースは大抵中田さんがランチで予約をしてあるので、一緒にどうかと声をかける。案の定、中田さんは予約をしてあり、彼女は打ち合わせスペースをランチタイムに使えると知らなかった。
「ありがとうございます。自分の席で食べるしかないと思っていたので助かりました……」
「ん~、どうしてここってランチとる人少ないんでしょうね?」
「リフレッシュスペースみたいに騒げないしな。」
「なるほど。確かに。あ、これくらいの声で静かに会話するくらいは平気だよ。」
「それもありますけど、情シスのエリア抜けて来るのハードル高いですよー。」
「なんで?」
「なんか、怖そう? シンとして、みんな難しい顔してる。」
「そう? 難しい顔してるのは否定しないけど、シンとはしてないよ。」
「してないな。」
「そうなんですか?」
「そう、みんな「独り言が多い。」」
思わずハモって答えると、吹き出された。
違う三人組でランチをとることが日常になる。
切り身の鮭でちゃんちゃん焼き風の包み焼きを作った。お取り寄せグルメの写真を見て思いつき、作ってみた。作ってみたものの、鮭=北海道=大樹さん、と連想ゲームをしてしまい、またほろりと泣いた。
「わあ、今日の菜津さんのランチ、美味しそうですね。ちゃんちゃん焼きですか?」
「なんちゃって焼き。」
「なんだそれ? なっちゃん焼き?」
「ふふ、ぴったり。」
「っ……『ちゃんちゃん焼き風』です。材料を包んでオーブンに放り込んだだけ。」
私がランチに持って来るのは、女の子が綺麗に可愛らしくカラフルに詰め込んだお弁当ではない。作り置き惣菜1つ、塩握り。作ってあるときはスープジャーにスープ、なければカップスープか即席味噌汁。そんなおしゃなもんじゃない。ただ、赤色のものを使うと美味しそうに見えると気がついて以来、赤いものを入れるようにした。
「最近、カルガモの子は巣立ったの?」
「……押し付けました。」
一瞬なんのことかわからなかったけれど、思い当たり、答える。原さんは、なになに? と聞いてきたりせず静かに食事を進めている。ふと何かを思いついたようだけど、何も言わずにいた。
後日、中村くんがやけに時計を気にしていて、今日は金曜日だと気がついた。定時ちょっと過ぎに上がった私は、駅へ仲よさそうに連れ立って歩く二人を見つけた。
年末休みの近づいたある日、経理にレスキューに呼ばれフロアが分かれた執務スペースに行った。帰り際、小島さんに結婚を報告された。やっぱりお相手はあの日の編集のマネージャだった。散々男性脳と言われ、自覚もしていて人の恋バナにとんと疎い私がわかるとは何かあるのではないだろうか。雪が降る? いや、雪も降る季節だ。
「なっちゃん? もしかしてサト子と中村くんのこと誤解してない?」
「え? ……もしかして、二人くっついたんじゃなかったの?」
「違うわよ。私の結婚祝いのプレゼント選んでくれたのよ。」
「なんだ、やっぱり私はそう言う勘というか、見る目がないなあ。」
「どうしてよ、ちゃんと続いてるんでしょ?」
小島さんに言われて、ぞわぞわと寒気が走った。
大樹さんの一時帰宅は、夏物と冬物の衣類の交換しに帰ってきていた。インナーはともかくコートは一冬だけのつもりで購入するには少々値が張る。なにせマイナス20度だ。地元民は慣れているからそれほどぶくぶくに着膨れしない。むくむくに厚着してるのはむしろ旅行者の証、と笑われる。
北海道から採れたての玉ねぎとジャガイモが大量に届いた。大樹さんがカーテンまで洗濯してくれてありがとうと感激され、そのお礼だ。玉ねぎの産地が近いらしく秋の玉ねぎは春先の平たいのとまた違い、美味しくて大量のチポラータを作った。もちろん作り方は大樹さん直伝だ。ホワイトソースの残りでレシピをあさってから料理をすることが増え、作り置きの惣菜のレパートリーが増えた。お昼はもう小島さんと佐藤さんと一緒に過ごすことはなくなった。
「最近、ちょっと料理作りに目覚めちゃって。ごめんね、飽きたらまた一緒してもいい?」
「花嫁修行?」
「いいよー。なっちゃんの代わりにイケメンおいて行ってくれれば。」
「だって。中村くん、よかったね、イケメン扱いしてもらいなよ。サト子さん小島さんお願いしますね。」
「任せてー。」
「……一人でメシ食えねえ子供か、俺。」
堂々と、面と向かって三人で昼休憩を過ごしてと言えば、嫌だとは言えず、もう私について来ることはなくなった。
当然、業務時間中はそれぞれ作業に追われているし、子供じゃあるまいし、ちょっかいをかけることもかけられることもない。
「あれ、原さん?」
この夏入った庶務の女の子が昼休憩のリフレッシュスペース入口でまごついている。事務所内引っ越しで、中で食べる人が増えた。今日は天気も悪く中で食べる人が特に多いのだろう。
打ち合わせスペースは大抵中田さんがランチで予約をしてあるので、一緒にどうかと声をかける。案の定、中田さんは予約をしてあり、彼女は打ち合わせスペースをランチタイムに使えると知らなかった。
「ありがとうございます。自分の席で食べるしかないと思っていたので助かりました……」
「ん~、どうしてここってランチとる人少ないんでしょうね?」
「リフレッシュスペースみたいに騒げないしな。」
「なるほど。確かに。あ、これくらいの声で静かに会話するくらいは平気だよ。」
「それもありますけど、情シスのエリア抜けて来るのハードル高いですよー。」
「なんで?」
「なんか、怖そう? シンとして、みんな難しい顔してる。」
「そう? 難しい顔してるのは否定しないけど、シンとはしてないよ。」
「してないな。」
「そうなんですか?」
「そう、みんな「独り言が多い。」」
思わずハモって答えると、吹き出された。
違う三人組でランチをとることが日常になる。
切り身の鮭でちゃんちゃん焼き風の包み焼きを作った。お取り寄せグルメの写真を見て思いつき、作ってみた。作ってみたものの、鮭=北海道=大樹さん、と連想ゲームをしてしまい、またほろりと泣いた。
「わあ、今日の菜津さんのランチ、美味しそうですね。ちゃんちゃん焼きですか?」
「なんちゃって焼き。」
「なんだそれ? なっちゃん焼き?」
「ふふ、ぴったり。」
「っ……『ちゃんちゃん焼き風』です。材料を包んでオーブンに放り込んだだけ。」
私がランチに持って来るのは、女の子が綺麗に可愛らしくカラフルに詰め込んだお弁当ではない。作り置き惣菜1つ、塩握り。作ってあるときはスープジャーにスープ、なければカップスープか即席味噌汁。そんなおしゃなもんじゃない。ただ、赤色のものを使うと美味しそうに見えると気がついて以来、赤いものを入れるようにした。
「最近、カルガモの子は巣立ったの?」
「……押し付けました。」
一瞬なんのことかわからなかったけれど、思い当たり、答える。原さんは、なになに? と聞いてきたりせず静かに食事を進めている。ふと何かを思いついたようだけど、何も言わずにいた。
後日、中村くんがやけに時計を気にしていて、今日は金曜日だと気がついた。定時ちょっと過ぎに上がった私は、駅へ仲よさそうに連れ立って歩く二人を見つけた。
年末休みの近づいたある日、経理にレスキューに呼ばれフロアが分かれた執務スペースに行った。帰り際、小島さんに結婚を報告された。やっぱりお相手はあの日の編集のマネージャだった。散々男性脳と言われ、自覚もしていて人の恋バナにとんと疎い私がわかるとは何かあるのではないだろうか。雪が降る? いや、雪も降る季節だ。
「なっちゃん? もしかしてサト子と中村くんのこと誤解してない?」
「え? ……もしかして、二人くっついたんじゃなかったの?」
「違うわよ。私の結婚祝いのプレゼント選んでくれたのよ。」
「なんだ、やっぱり私はそう言う勘というか、見る目がないなあ。」
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小島さんに言われて、ぞわぞわと寒気が走った。
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