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第4章 ゴブリン退治

第26話 決意の帰還

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 第26話 決意の帰還
 
 翌朝僕とミレーヌとシグレさんとセシルさんはゴブリンの掃討に向かうために村を出た。
 前回通った森の獣道を通り、その日の昼には前回侵入したゴブリンの洞窟へと到着した。
 
 ゴブリンの洞窟前には矢で貫かれ、魔法で焼かれて死んだゴブリンの死体が散乱していた。
 特に大斧を構えた状態で死んでいるリーダーらしきゴブリンは、魔法の集中攻撃を受けたのだろう。
 
 手足が吹き飛び腹に大穴を開けられて焼け焦げた死体となっており、隣には剣で切り刻まれたゴブリンの幻術使いが内臓をまき散らして息絶えていた。
 
 入れ替わりにやってきたあの油断ならない冒険者達が既に掃討してくれていたのだろう。
 凄惨としか言いようのない現場に僕は顔をしかめた。
 
 「もう終わったあとみたいですね」
 
 「そうだな」
 
 僕の呟きにシグレさんが答える。
 前回別れた冒険者がこの辺りの洞窟をしらみつぶしにしているのは明白だ。
 僕達の依頼は多分終了だろう。
 
 「ボク達これからどうします?」
 
 凄惨な現場から目を逸らした状態で僕達を見ていたミレーヌがシグレさんに聞いた。
 別に殺戮を楽しみにしていた訳ではないので、ミレーヌもゴブリン達の凄惨な死体に、憎しみとも憐憫とも取れる複雑な感情の様子だ。
 
 「念のため他の洞窟を調べてから依頼終了でいいんじゃないの?」
 
 「いやそれは駄目だ」
 
 セシルさんの言葉にシグレさんが首を振って答える。
 
 「この間出会った冒険者達は我々の命を狙っただろう?あいつらに背中を見せる訳にはいかない。あちらは五人でこちらは四人、しかもあちらには魔法使いがいる。まともにやっても勝ち目は無い。ゴブリン退治の勢いに乗って、我々の持っている銀貨や装備を奪う為に殺そうとしても不思議はない。ここはさっさと引き上げたほうが良いと思う」
 
 シグレさんの考えは正しいと僕は思う。
 この間出会った冒険者は村人がいたから僕達に手を出さなかった可能性はある。
 人間同士で争うなんて馬鹿馬鹿しいけど経験豊富なシグレさんが言うなら間違いは無いだろう。
 
 「僕もシグレさんの意見に賛成です。これ以上の殺戮はあの人たちに任せたいです」

 いくら冒険者だからって殺戮がしたい訳じゃない。
 ここは引くべきだろう。
 それに人間を殺すのは出来れば避けたい。
 
 「ボクもそう思います。人間同士で戦いたくはないです」

 僕の意見にミレーヌも賛成してくれる。
 僕と同じくミレーヌも同じ人間を殺すのにはまだ躊躇いがあった。
 
 「あたいも出来れば危険は避けたいね。今のうちにさっさと帰って報酬を貰うのもいいんじゃないか?」
 
 セシルさんも同意見だという事で僕達の方針は決まった。
 あの危険な冒険者達と接するのは危険すぎる。
 そうと決まったらすぐに出発したほうがいい。
 
 山賊もゴブリンも討伐済みなのだ大丈夫だとは思うけど、早く首都フレーベルの冒険者ギルドに戻るべきなので、洞窟から街道へ出てすぐにカク村に戻った。
 
 「ゴブリンの掃討はほぼ終わったからもう山に入っても大丈夫だと思うが、念のため一週間くらいは森に入るのは控えたほうがいい」
 
 シグレさんが村長に言付けをしている。
 この辺りの村は自給自足が基本だから森で薪などを集める必要があるので一週間が限界だろう。
 
 ◆◆◆
 
 「ありがとうございました。何もありませんが帰りの足しにでもしてくだされ」
 
 そう言って村長さんが貴重な食料を分けてくれた。
 丁度ゴブリンに攫われた女性たちが荷馬車でフレーベルにある修道院へ向かうそうなので、僕達も荷馬車に便乗させてもらう。
 これから修道院へ送られる人たちの顔はみんな暗い。
 
 殆どの人は自給自足の村の中で生きてきて外の世界に出るのは初めてで不安に思っている。
 それだけで心細くなるのに自分が性暴力されて心に深く傷を負った事を考えると、彼女たちの身柄は修道院の治療に委ねるしかないだろう。
 
 「お姉ちゃん。わたしまたカク村に戻れるよね?」
 
 荷馬車に乗る僕達より幼い少女がミレーヌに語り掛ける。
 ミレーヌがその子を優しく抱きしめると女の子は泣きだした。
 
 それにつられて他の女性たちもすすり泣きをする。
 ミレーヌが女性たち一人ひとりを抱きしめると彼女たちの虚ろな瞳に光が戻ってきた。
 彼女たちの心の最後のひとかけらが癒されたのかもしれない。
 
 彼女たちが修道院で身も心も癒されてカク村に戻れるまで何年かかるだろう。
 もしかしたら二度とカク村に戻れないかもしれない。
 ゴブリン退治には付き物の光景。
 
 荷馬車から外を見ると、そろそろ収穫期を迎える麦のような植物が畑を埋め尽くすように植えられている。
 もうすぐ祝いの秋がくる。
 風に乗って鳥が楽し気に鳴き、子供たちが元気に遊んでいる。
 
 こんなに世界は明るくて美しいのに、それを見つめる彼女たちの瞳に光は無い。
 もうすぐ収穫祭だというのに。
 今頃カク村では祭りの準備に忙しく、彼女たちも笑顔で働いていたはずなのに。
 
 (許せない。絶対許せない)
 
 僕は荷馬車に揺られながら腕を痛いくらい握りしめていた。
 もっと早ければこんな結末は避けられたかもしれない。
 
 自分なら未来を変えられたと思うのは傲慢だ。
 そんなのわかっている。
 わかっていても尚そう思わずにいられない。
 
 山賊やゴブリンのような魔物の被害者は跡を絶たない。
 僕がいくら強くなっても全てを滅する事など不可能だ。
 だけど何もしないより良い。
 昨夜ミレーヌに吐いた弱音を僕は思い出し恥じる。
 
 (僕は冒険者を続けられるのか不安になってきた)
 
 何を馬鹿な事を言ってしまったんだろう。
 僕はこんな人たちを一人でも助けたい。
 誰かを救う存在になりたい。
 
 だから強くなろう。
 
 そう強く思った。
 暗い雰囲気の荷馬車の中で僕はそう誓う。
 三日間の馬車旅を経たあと僕達はフレーベル王国の首都フレーベルに戻った。
 
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