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第6章 ハーフエルフの兄妹

第35話 ハーフエルフの兄妹。

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 第35話 ハーフエルフの兄妹。
 
 喫茶店で談笑したあと、冒険者ギルドへやって来た。
 今日は依頼を受けずに新しいクエストが無いか確認に来たのだ。
 冒険者の生活は安定していない。
 一週間の休憩と言ってもその間に美味しいクエストを逃しては後で後悔する。
 
 そう思って冒険者ギルドに顔を出すと、丁度クエスト情報の更新をしていた。
 受付嬢のマリアさんが掲示板にクエストを貼りだしている。
 

 「マリアさんこんにちは」
 
 「ユキナ君、ミレーヌさんいらっしゃい。熱心なのね。普通は冒険から帰ってきたら二~三日は酒場で飲んだくれるものよ」

 冒険者はいつ死ぬかわからないから刹那的な人が多い。
 大体稼いだ路銀を使い果たして冒険に出かける。
 大金を持つ冒険者の懐を狙うのは酒場だけではなく、娼婦や男娼なども手ぐすね引いて待ち構えている。
 
 大体冒険者になる人は農家の次男三男で、農地に縛り付けられる農民生活が嫌で街へ出て来た人が大半だ。
 運よく生き残り真面目に貯金していたら、その金で店でも開くか技術職へと進む。
 街で定職について市民権を得て定住したい人が大半で、僕やミレーヌのように純粋に冒険に憧れて冒険者になる人の方が少ない。
 
 いやもしかしたら最初は冒険がしたくて冒険者になるのかもしれない。
 でもいつの間にか刹那的な生活を送ってしまう。
 そんな止めて安定した生活をしたくなるものだ。
 僕とミレーヌもそうなるのだろうか?
 その答えはまだ誰も知らない。
 
 「あらユキナ君、ミレーヌさん。手なんか繋いじゃって初々しいわね」
 
 そう言ってマリアさんが冷やかすように笑う。
 僕とミレーヌは自然に手を繋いでいたのだ。
 慌てて手を離して赤面する僕達をマリアさんが面白そうに笑ったあと、一枚の紙を見せてくれる。
 
 「ゴブリンの掃討は終わったけど、まだオークとかが残ってるのよ。情報だとそれ程大きな群れじゃないから青銅級なら大丈夫だと思うけど、シグレさんとセシルさんは一緒じゃないの?」
 
 マリアさんがそう言って僕達と一緒にいたシグレさん達を目で探す。
 今頃二人も休息を楽しんでいるのだろうか。
 
 「実はシグレさんとセシルさんに正式にパーティメンバーにならないかと誘われていて迷っています」
 
 僕が簡単に今の状況を説明する。
 マリアさんが頷いて。
 
 「シグレさんとセシルさんには物足りない依頼だからね。4人で割るとあまり儲からないクエストだし。今回はやめておく?」
 
 「期日には余裕があるんですよね?」

 「ええ。まだ村が襲われたって段階じゃないわ。たまたま森に潜んでいる所を発見されただけ。今日明日ってクエストじゃないわ」
 
 「どうしようかな」
 
 僕がクエストの書かれていた紙を見ていると。
 
 「まだ誰も受けていないなら俺たちに譲ってくれないか?」
 
 背後から知らない人の声が聞こえた。
 後ろを振り返ると見たことがないくらい綺麗な人……ではなく耳が尖っているからエルフの人。
 いや耳の尖りが半分くらいで耳自体が小さい。
 短い金髪の端正な男の人。

 ハーフエルフの冒険者だ。
 
 
 外見年齢は僕より少し上かなという印象のハーフエルフの男性と、金髪をサイドポニーにしているハーフエルフの女性が立っていた。
 二人の外見はそっくりでおそろいの白いローブを身に着けている。
 そっくりな二人は双子なのだろうか。
 美形な二人を思わず見つめてしまう。
 
 「ハーフエルフがそんなに珍しいか?」
 
 ハーフエルフの男性が少し棘のある言い方で僕に話しかける。
 エルフ自体珍しいがハーフエルフとなると希少な存在なので思わず見とれてしまった。
 
 ハーフエルフの男性が庇うようにサイドポニーの女性の前に出る。

 ハーフエルフは人間がエルフを孕ませたという不幸な生い立ちで生まれた人が大半なので、幼少期はエルフの森で仕方なく育てられるが、その後は森を放り出される。
 
 ハーフエルフは魔法使いの適性があるので、街で働いて仕事をして勉強して魔法使いとか役人になる人が多い。
 だが人間からも差別をされるので、能力があっても高位高官になる事は無い。
 
 勉強して役人になれるのは一部の人で、日々の生活の糧を得るために盗みや乞食、果ては身体を売る事で生き延びる人もいるらしい。
 
 だから人間とエルフ両方を憎んでいる事が多い。
 そのような差別を受けるから冒険者になる人もいると聞いたことがある。
 だがハーフエルフには物凄い強みがある。
 
 この世界の魔法は人間が使う通常魔法とエルフなど亜人種が使う精霊魔法、神官が使う神聖魔法がある。
 ハーフエルフは人間とエルフの特性を持つため、通常魔法と精霊魔法両方が使える魔法を極めたウィザードという究極の魔法使いになれる。
 
 この世界の魔法はエナジーという生命力を利用するのでエルフなど長命な種族はエナジーが多く、ハーフエルフはエナジー量も抜群に多い。
 
 二人は身軽なローブを着ているのでウィザードだと思われる。
 ウィザード一人だけでも頼もしいのに二人。
 絶対に仲間に欲しい。
 
 「ううん。ボク達とっても綺麗な人たちだなって思っただけだよ。二人ともどこかのパーティに参加しているの?」
 
 そんな僕の気持ちを察したのか、ミレーヌが二人に尋ねる。
 僕も同じ事を考えていたから、物怖じしないミレーヌの行動力はとても助かった。
 
 「知らないだろうから教えてやる。俺たちハーフエルフは美しいと言われることが嫌いだ。美しいのはエルフの血を引いているだけで自分で望んだ事ではない。ただ質問には答えてやる。俺たちは他のパーティに参加している訳ではない。人間は信用できないからな」
 
 「それじゃボク達とパーティを組まない?ボクはミレーヌ、こちらはユキナ。よろしくね」
 
 そう言ってぐいぐいと押していくミレーヌ。
 ミレーヌの屈託のない笑顔にハーフエルフの男性も驚いたようだ。
 そんな男性にハーフエルフの女性が男性に耳打ちする。
 
 ハーフエルフは耳がいいので人間には聞こえないほど小さな声で話ができる。
 もしかしたら風の精霊を使役した精霊魔法かもしれない。
 
 「いいだろう。ただし報酬はちゃんと頭割りで貰うぞ。俺はクヌート、こちらは妹のフェリシアだ。呼び捨てでいい」
 
 以外にあっさりと承諾されてしまった。
 僕達にとっては有難いけどいいのだろうか?
 
 「あくまでクエスト一回ずつの契約です。パーティを抜けるのも続けるのも私と兄さまの自由に決めさせていただきます」
 
 そう言って綺麗な金髪をサイドポニーにした女性、フェリシアが言う。
 ハーフエルフは人間もエルフも信用していないというのは本当のようだ。
 両方の種族から差別や迫害を受けていて疑心暗鬼になっているのだろう。
 
 あくまで割り切った関係でいたいと思うのは当然だと思った。
 僕はそれでいいと思ったし、ミレーヌも同じ考えのようだ。
 お互いの利害関係が一致しているので、契約としては申し分ないだろう。
 こうして僕達に新たな仲間が加わった。
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