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第8章 勇者ミレーヌ

第51話 ルクス侯爵(ようじょ)

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 第51話 ルクス侯爵(ようじょ)
 
 「ボクたちこれからどうなるんだろうね」
 
 城内の応接室でミレーヌが不安そうに僕に話しかける。
 僕は甘い果物ジュースを飲みながらミレーヌに微笑む。
 
 「どうやら敵だとは思われていないから大丈夫だと思うよ」
 
 「それならボク安心したよ」
 
 僕とミレーヌの会話を聞いていたみんなが話しかけてくる。
 
 「どうだかね。お偉いさん達にとってはあたい達なんて信用できない風来坊だからね。今だって軟禁されてるじゃないさ」
 
 世間の辛酸を舐めたセシルさんらしい言い方だ。
 
 「いきなりやってきて信頼しろと言う方が無理だろう」
 
 「それはそうだけどさ。このジュースが毒入りじゃないから大丈夫かな程度だよ」
 
 「なるようになるんじゃないか?いざとなったら金目の物を拝借して空を飛んで逃げるさ」
 
 クヌートはこんな状況でも金銭面を忘れないらしい。
 ルクス侯爵がそれなりの報酬を払ってくれることを切実に願う。
 
 「あの人たちに猜疑心があるのは確かですが敵対するような心の精霊は見えませんでした。すぐに害するなどはないと思います」
 
 クヌートと同じように精霊魔法が使えるフェリシアがそういうなら安心していいのかな。
 
 僕達が一応歓待されていると扉がノックされて先ほど侯爵へ手紙を届けに行ったカチュアさんが応接室へ入ってくる。

 騎士らしく恭しく一礼されると普段そんな経験のない僕達は戸惑ってしまったが、シグレさんだけ片手を胸にあて完璧な答礼を返す。
 シグレさんから時々育ちの良さを感じさせる。
 
 「ルクス侯爵閣下が特別に感謝の言葉をおかけになります。非公式の会見ですのでこちらに来られました」

 非公式の会見という事は重臣達の目に見えない所で会うという事だろう。
 侯爵家の重臣達の目の前で下賤な冒険者と会う訳にもいかないらしい。
 そう思っていると護衛の騎士たちに守られてドレスを着た少女……幼女?
 騎士に守られた幼女が現れる。
 

 一応この世界に来てから最低限の作法は習った。
 というか自然に身についている。
 日本で言えば大名が参勤交代で通過する時に沿道で行う土下座のようなものだ。
 フレーベル国では両膝を地面につけて胸元に右手を当てて膝まづく。
 
 意外な事にクヌートとフェリシアのハーフエルフ兄妹も同じ礼を取る。
 てっきり人間の作法になど従わないとでも言うのかと思った。
 これもハーフエルフの処世術なのだろう。
 ただ単に礼儀作法を行わない事で相手を怒らせるのも面倒くさいと思っている気がするが。
 
 「役目大義です。私が国王陛下からルクス侯爵領を封じられたルクス侯爵ティニー・ルクス=サザー=カリアです」
 
 相変わらず貴族の名前はよくわからない。
 故郷のリンも貴族としての名前を持っていたが騎士なのでこれほど仰々しくはなかった。
 要約するとサザー家出身でカリアって人が父親のルクス侯爵領の領主ティニーちゃんという事だ。
 
 めんどくさい。
 
 前世でいうと徳川御三家…御三家は将軍家の継承権を持っているから公爵か。
 日本基準だと15万石以上の大名だから前田家とかが侯爵になる。
 要するに有力大名という事か。
 でも女の子、もとい女性が爵位を持つなんて珍しい。
 この国では女侯爵って名乗らず普通に侯爵なんだね。
 
 「5の砦守備隊からの上申書をわざわざ届けてくれた事を感謝いたしますわ」
 
 そう言ってルクス侯爵が年相応の笑みを見せるとカチュアさんが咳ばらいをする。
 下々に親しく笑顔を見せてはいけないのだろうか。
 高貴な身分の人は公式の場は勿論、こんな非公式の場でも素直な顔一つ見せられないのか。
 可愛い子なのに不憫だと思った。
 
 「今回の卿らの働きに閣下から報奨金を下賜される。受け取るがよい」

 カチュアさんがそう言うと騎士が彫刻が施された小さな箱を取り出して、箱の中から金貨の入った革袋を僕に手渡す。
 少なからぬ報酬に後ろにいるクヌートが期待の笑みを浮かべた気がした。
 
 「侯爵閣下にご報告したい事があります」
 
 僕がそう言うとルクス侯爵が大仰に頷いた。
 
 「私たちはホレ村という村でオーガ退治を行いました。オーガが計画的に村人を食料とする計略でしたがオーガのみの計略では無く、何者かが後ろで糸を引いていると思われます」
 
 「つまり今回の城攻めで主力を務めるゴブリンは、計略で陥れたあちこちの村人を食べて数を増したという事ね」
 
 ルクス侯爵ことティニー嬢は理解が早くて助かる。
 
 「それであれだけの大軍が押し寄せたという事ね。城内で発生した同士討ちに呼応してゴブリンは攻めてきました。兵士に化けたオーガが城門を開けゴブリンの大軍が城内に押し入る手引きをしたと?」
 
 「はい。私はそう考えます」
 
 そう言うとルクス侯爵は顎に手を当てて悩んでいる。
 そんな時間が1分くらい続いただろうか。
 
 「ではその手引きをした者を探し、打ち取ればこの戦況も変わるかもしれないのですね」
 
 やはり戦況は悪いようだ。
 僕の見た所7~4の砦までは陥落し、上にいけば強固になるとはいえ残った砦は3と2の砦とこの本城のみ。
 ここが陥落すれば空を飛べない限り逃げ場は無い。
 これが人間相手なら降伏もできるが相手はゴブリンを主力とした妖魔。
 抵抗をやめたら騎士共々レイプされてよくて孕み袋。
 最悪殺されて食べられる。
 
 死ぬまで抵抗するしかない。
 
 そもそも完全な奇襲だった為、逃げる間もなくここに集まっているのだ。
 僕達は最悪の場合クヌートとフェリシアの魔法で燃え落ちる城から脱出できるが、彼女たちを連れて逃げるなんて無理だ。
 でもこの人たちを見捨てる気は無い。
 そんな気持ちだったら最初からここには来ていない。
 
 「私たちにその手引きした相手を探す手伝いをさせて貰えませんか?」
 
 僕がそういうとルクス侯爵とカチュアさんが驚いた顔をして僕を見つめた。
 てっきり報酬目当ての冒険者ですぐ逃げ出すと思われていたのだろう。
 それでも僕たちはここで引く気はない。
 僕の目を真剣な瞳で見つめるルクス侯爵。
 その目は僕達が信頼に値する者か不安がっているのと共に、一縷の望みを託してもいいのかと悩んでいるように見えた。
 僕が引かないと判断したのかルクス侯爵が笑顔で頷く。
 
 「わかりました。それでは貴方たちに頼らせて貰いましょう」
 
 「ありがとうございます!!」
 
 僕は頭を下げると周りのみんなに目配せする。
 みんなが頷いてくれた。
 
 「みんなありがとう」
 
 僕がそういうとミレーヌとフェリシアは嬉しそうに微笑み、シグレさんは僕の事を誇らしげに見ながら微笑み、セシルさんとクヌートは僕の持つ金貨の入った袋の重さに満足げに頷いた。
 
 みんな立場や考えが違うけど僕の決定に従ってくれる。
 僕はその事に感謝してみんなに笑みを浮かべた。
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