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EP1:アルス・エルジール 4
しおりを挟むアルス様から手を離した私が生徒会室から出て行こうとすると、アルス様が私の腕を強く掴んだ。
そして私は、引きずられるようにして生徒会室に連れ戻された。
アルス様が部屋に内鍵をかける音が聞こえる。
「どうしました……?」
「レティ。それはわざとなのか。お前は分かっていて、私をからかって遊んでいるのだな」
冷酷な声だった。
アルス様のアイスブルーの瞳は苛立ちに満ちている。
私はよく分からなくて、本当に意味がよくわからなかったので、首を傾げる。
からかって遊んでなんていない。私は本気なのだ。本気でアルス様を性欲で私を襲う獣にしようとしているのである。
「わかりません。意味が、よく」
「今更無垢なふりをするな。お前には恋人がいるのだろう。それならば想い人のところにいかせてやろうと思ったが、気が変わった」
「殿下、どうして、何をなさいますの……っ」
ここで重要なのは、あくまで私は被害者ぶることである。
私の魔法のせいで性欲が増し増しになっているなんて、絶対に気づかれてはいけない。
気づかれたら最後、私はなんの罪状かは謎だけれど、投獄されてしまう気がする。
別に私は犯罪者になりたいわけじゃない。
私は何も知らない、私は何も知らない。
そう自分に言い聞かせながら、怯えた表情を浮かべて見せる。
アルス様の口元に嗜虐的な笑みが浮かぶ。
ううん。今まで一度も見たことがない顔だわ。
ちょっと怖い。
やめておけばよかったかもしれない。
誰もいない生徒会室は鍵がかけられていて、広い室内に政務机がいくつか置かれている。
その中央にある応接用の赤いソファの上に押し倒された私の黒い髪が、滝のように広がっている。
アルス様は満足げに私の姿を見下ろした。
「今までずっと触れずにいたが、勿体無いことをしたな。レティ、何人の男を咥え込んだかは知らないが、お前の体で私を喜ばせろ」
「くわえ……? どういう意味なのか、わかりません」
「嘘をつくな」
嘘じゃないわよ。
そんな言葉はセディは教えてくれなかったもの。
アルス様は徐に私の片胸を鷲掴んだ。
形を確かめるように制服の上からぐにぐにと揉み始める。
私は驚いて目を見開いた。私の予定では「レティ、抱きたい。どうか、触れさせてくれ」とアルス様が涙ながらに懇願してくるはずだったのに。いきなり胸を揉むとか、アルス様、そんな人だったの?
屈辱に塗れながら懇願してくるアルス様を眺めるはずが、やけに積極的よね。性欲って怖い。
「嫌、やめてください……! 私はもう、婚約者ではありません、殿下には好きな女性がいるではありませんか」
「婚約は義務だと言っただろう。感情などは二の次だ」
どういうことかしら。
つまり、アルス様は私のこともユエルさんのことも別に好きじゃないということかしら。
それって結構酷いわよね。
「でも、こんな……、嫌、やめて……」
アルス様は薄水色の瞳を冷酷にぎらつかせながら、私の制服のスカートをたくし上げる。
うん。これは全部私が悪いんだけど。
いやらしい魔法三種の神器を二乗したものをかけられたアルス様、それでも会話できるとか精神力がすごい。
「嫌? 他の男なら良いのに、私に触れられるのはそんなに嫌か、レティ。お前が馬鹿にしていた男に組み敷かれて、さぞ屈辱的だろう。安心しろ、泣いても喚いても、誰もこの部屋にはこない」
多分今まで隠していた本音が全部出ているのよね、これ。
静かで公平な眼差しの奥に、とんでもない本音を隠していたのね、アルス様。
性欲って怖い。
私は完全に怖気付いた。
私の心の中のレティも、「いやー! けだものー!」と泣き声を上げていた。
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