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全ては夢か幻か
しおりを挟む唇が合わさり、軽く触れては離れていく。
啄むような口付けは甘くて、体がふわふわするぐらいに、心地良い。
私の両足を抱え上げて、アルス様はゆったりと腰を揺らした。
「あ、あっ、んぅ、あ、あぅ……っ」
「レティ、愛らしいな、レティ。お前は、どこに触れても砂糖菓子のように甘い。好きだ、レティ」
何度も唇が触れ合う合間に、吐息まじりに掠れた声でアルス様が私を呼んだ。
好き。
アルス様は、私のことが好き。
――好きになる要素、どこかにあったかしら。
純粋な疑問が、熱に茹だる頭をよぎる。
(でも、良いかしら、だって、気持ち良いもの……)
私の体はすっかりアルス様を覚えてしまっていて、深く埋められたアルス様が奥に届くたびに、歓喜に震えた。
「っ、は、ぁう……っ、ん、あっ、……ある、っさまぁ……っ」
「お嬢様、もっと気持ち良くなりましょうね」
耳元で、セディの声が聞こえる。
返事をする前に、苛立ったようにアルス様が先ほどの甘さとは真逆の激しさで私と唇を合わせた。
噛み付くように口付けられて、ざらりと舌を舐られる。
絡みつく舌が、深く合わさった唇が、体の境目がわからなくなるようで、粘膜が溶けあって一つになってしまったみたい。
境界を見失うと、全身どろりとした粘着質の液体の中につけられているように、気持ち良い。
自分の体がどこにあるのかさえ忘れてしまうみたいに、触れられている場所と快楽のことしか考えられない。
腰を支えていたセディの手が、ゆっくりと脇腹を撫でて、さらに下へと伸びる。
(それ、だめ……、だめ……っ)
否定の言葉は、声にならない。
唾液をすすられ、混ぜ合わされて、飲み込みきれない液体が口角を伝い落ちる。
引き抜かれた昂りが、絡みつく柔らかい襞を味わうようにして、ゆっくりと奥を穿つ。
それだけでも体が変になるぐらいに気持ち良いのに。
「は、ぅ、ぅん、ん……っ」
セディのしなやかな指先が、私の花芯を優しく撫でる。
アルス様の手が、胸に触れる。指の腹で胸の突起を押しつぶすようにされて、私は喉の奥でくぐもった悲鳴を上げた。
おかしくなるぐらいに気持ち良くて、強すぎる快楽から逃れたくて身をよじった。
「だめ、だめ、へんになっちゃう、からぁ……っ」
「良いの、間違いだろう」
「気持ちいの、怖いっ、あぁ、ひ、あ、あっ」
「大変可愛らしいですよ、お嬢様。殿下にどこが気持ち良いのか、教えてあげましょうね」
「ぅん、あるすさまの、で、おく、いっぱい、ぐりぐりされるの、きもちい、です……」
「あとは?」
セディの穏やかな声音が、空っぽの頭に響く。
思考回路を全て明け渡して支配されるような感覚が、体の奥にある繊細な場所を無理やりこじ開けられるように、どうにもならない快楽が体を支配する。
「いりぐちのとこ、ぬるぬるされるのも、きもち、い……」
「あぁ、ここ、か」
アルス様が入り口の浅いところまで昂りを引き抜いて、私の膣壁の入り口を押し上げるように擦り付ける。
体の内側からアルス様に押し上げられて、外側からはセディがぐり、と花芯を押し込むようにした後に、指先でぴん、と幾度も弾いた。
「あ、アッ、きもち、い、っひあ、あ、あああ、いく、いく、も、やだぁ、でちゃ……っ」
堪えきれない排泄感が迫り上がってくる。
跳ねる体をセディが片手で抱きしめてくれる。
ぼろぼろ溢れる涙を、ぺろりと舐めとられる。
全身に緊張が走り、下腹部に力が籠る。堪えようとしているのに、容赦無く内壁を擦られて花芯をいじめられると、もう無理だった。
「あ、ぁあ、やっ、あああ……っ」
ぷしゅ、と透明な液体が迸り、飛び散る。
多幸感が胸に溢れて、頭がぼんやりする。全身を痙攣させたまま戻ってこれない私に、愛おしそうにアルス様が口付ける。
「お前のこぼしたもので、服がずぶ濡れだ。こんなに汚して、はしたないな、レティ」
「ごめ、なさ……っ」
「私を求めながら、執事の指にいやらしく自分で擦り付けるように腰を揺らして、淫らだな」
「ごめんなさい……、気持ち、いの……っ、止まらな……っ」
「あぁ、レティ。幾度も、淫らなお前の夢を見た。泣きじゃくり体を震わせるお前の姿が、頭にこびりついて離れない。もっと乱れろ。快楽に染まったお前は、美しい」
アルス様は幾度も激しく私に腰を打ち付ける。
最奥をこじ開けるようにして、膨らんだ先端がとん、とん、と奥を断続的に叩いた。
私の中は形を変えて、奥にたまった蜜がアルス様を誘うように昂りに絡みつき、離さないというように吸い付きはじめる。
体がばらばらになりそうなぐらいに、気持ち良い。
「好きだ、レティ。愛している……っ、私を受け入れろ、レティ……っ」
「っ、あるす、さまっ、気持ち、いっ、あ、るす、さま……、好き、好き……っ」
自分が何を言っているのかよく分からないけれど、真っ白になった頭に、好きという単語だけがぐるぐると回った。
掻き抱くように抱きしめられて、どくりと中でアルス様のご自身が大きく膨れる。
「――っ、あ、ああああ……っ」
熱いものが迸り、同時に私も全身を強張らせながら、深く激しい絶頂感に身をゆだねた。
ベッドのさらりとしたシーツの感触が心地良い。
夢と現の境をいったりきたりしていた私は、深い水底からゆっくり水面に浮上するように目を覚ました。
――なんだか、すごい夢を見た気がする。
ぱちりと目を覚ます。
いつも「おはようございます、お嬢様」と声をかけてくれるのに、今日はセディの声がしなかった。
「起きたか、レティ」
そのかわり、私が三人ぐらい寝転んでもまだ余裕のあるぐらいのベッドに、アルス様が寝転んでいる。
私の隣に体を横たえて私を覗き込んでいるアルス様に、私は息を飲んだ。
「……いつもと違う」
「どういうことだ?」
獣欲を滾らせて匂い立つような色香を纏ったアルス様とは違う、冷静沈着ないつものアルス様の声音が訝しげに私に尋ねた。
アルス様は制服ではなくて、つるりと光沢のある前開きの黒い寝衣を身に纏っている。
艶やかな銀色の髪が、首を傾げるとさらりと揺れた。
片耳にだけついている蝶の耳飾りも、同時に揺れる。なんとなく、不安定な気持ちになる。
――私が目覚めた時に、セディがいないことなんて今まで一度もなかったのに。
「どうした、レティ。体が辛いのか」
私の不安に気づいたのか、アルス様が私の頬を撫でた。
体を起こして、覆いかぶさるようにして私を見下ろす。
「セディが、いないと思って」
「何を言っているんだ? 誰の話だ、レティ。そのような名の者を、私は知らない」
「アルス様こそ何を言っているんですか?」
心配そうにアルス様に言われて、背筋がぞわりと粟立った。
アルス様は真剣そのものだ。ふざけている様子は微塵もない。
けれど、セディを知らないなんて。
だって――眠る前、私に二人で散々、気持ち良いことをしてくれたのに。
「頭でも打ったのですか、アルス様。まさか、私がエロティックラブマジックをかけすぎたせいで、混乱しているとか。やっぱり三倍量は多すぎたのですね、今後は一回分だけにするように気をつけます」
「できれば私に二度と魔法を使わないように気をつけてくれ」
「アルス様、セディです。私の執事の。私に二人でいやらしいことをしたくせに、忘れたなんて」
「そのような夢を見たのか? 私以外の男に体を弄られる夢を見るほどに、物足りなかったのだな、レティ。もっと欲しいと強請っていると、理解しても?」
「そうではなくて。待って、やだ、待ってください……! 私は、大切な話をしていて……!」
「いつも私が大切な話をしたいときに、はぐらかしていたのはお前だろう」
アルス様が咎めるように言って、軽く私に口付ける。
言葉は怒っているようだけれど、それ以上何かするつもりはないようで、アルス様は私の隣にとさりともう一度体を横たえると、包み込むように私を抱きしめた。
「好きだ、レティ。好きだ。今まで、感情を口にすることさえ忘れていた。もっと早く、伝えていれば良かった。好きだ。好き」
「まって、待ってくださいな……! 寝起きでそんなことを言われましても! アルス様、セディがいないとか言いますし、混乱しているのでは……、まさか、これは夢……?」
「夢ではない。現実だ、レティ。ここに、私の果てたものが、残っているだろう」
アルス様が私の下腹部へと触れる。
薄い寝衣の上から胎の上を撫でられて、私はふるりと震えた。
「っ、あ、……っ、ゃ、ん」
軽く圧迫されると、とろりと、流れ落ちていくものがある。
太腿を伝う液体に、私は眉を寄せる。
愛しげに私の額や首筋に口付けてくるアルス様の髪が顔に触れるのがくすぐったい。
天井を見上げながら、私は唖然とした。
(アルス様がいるのは、現実。セディは、……セディと過ごしていた毎日が、夢?)
「……ふ、うぇ……っ」
激しい混乱と、心許なさに、涙が溢れた。
セディがいない?
ずっと側にいてくれたのに。
ーー私はずっと、幻を見ていたの?
「殿下、あまりお嬢様をいじめないでください。泣いてしまったじゃないですか」
「……これぐらいの仕返しは許されるのではないかと思ったのだが。落ち着け、レティ。まさかこんなに騙されやすいとは思わなかった。嘘をついて悪かった」
いつもの優しい声がする。
涙に滲んだ視界の向こうに、いつもと変わらないセディの姿が見える。
アルス様が私を落ち着かせるように、背中をぽんポンと叩いてくれる。
私はアルス様の胸を叩いた。
「アルス様のこと、ちょっとだけ好きって思いましたけれど、気のせいでした。ひどいです、嘘つき、嫌いです」
「私は好きだ、レティ」
「嫌いです……!」
「好きだ、レティ」
「……っ」
私はアルス様の胸を叩くのをやめて、その胸に額を押しつける。
「セディも、同罪よ」
「これは手厳しい。殿下の可愛らしい嫉妬ぐらい許して差し上げてはいかがですか、お嬢様。何せお嬢様は、殿下に多少仕返しをされてもあまりあるような酷いことをしているのですから」
「……うう」
確かに否定できないのよね。
やっぱり、昨日の記憶が夢であった方が良かったのかもしれないのよ。
私はかなり――ひどい姿を、アルス様に見せてしまったのだし。
それでも、あんなことになってまで、私を好きだというアルス様。どうかしているわよね。
「……アルス様は、私が淫らだと嬉しいのですか」
「私の手で乱れさせたいとは常々思っているが、たまにはああいった趣向も悪くない」
「やっぱり私が他の男性に、いやらしいことをされているのを見るのが好きなのですね?」
「否定はしない。お前の魔法に負けた私は、お前のものだが、お前は私だけのものにはならないのだろう? 執事にも、先生にも、ユエルにも、負けるつもりはないが、レティがどうしてもというのなら、共にお前を愛ても良い」
にっこりと微笑んで、とても嬉しそうにアルス様が言った。
セディが「よかったですね、お嬢様。お役御免かと思いましたが、殿下が喜ぶのであれば、たまには役得を味わいましょう」と言って、私の髪をさらりと撫でてくれる。
よくわからないけれど、私は勝ったみたいだ。
いつものように高笑いをしようとして、思い直して。
私はアルス様の胸に顔を埋めた。
じわりと湧き上がってくるあたたかい気持ちは――もしかしたら。
恋なのかもしれない。
応援ありがとうございます!
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表紙絵も素敵
ありがとうございます!表紙絵も褒めていただいて…!!
さすがにこの話は書籍化は無理だとは思うのですが、嬉しいです!
きゃー💗エッチ💗💗💗ね💗
これはもう、そういうシーンだけを書きたいという開き直ったお話なので笑
先生、こちらの話もおもしろいです!読んでいて思わず笑ってしまう場面も。これからも応援しています。
わー!ありがとうございます!息抜きのアホエロコメディですが、楽しんで頂けたら幸いです!