幼馴染の婚約者に浮気された伯爵令嬢は、ずっと君が好きだったという王太子殿下と期間限定の婚約をする。

束原ミヤコ

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五代目の王の子供たち 1

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 ゼフィラス様の顔が離れていって、私の唇を硬い指先が撫でた。

「ん……ぁ」

「リーシャ……可愛い」

 囁くような言葉が耳に触れて、全身がかっと熱を帯びる。
 もうすでに熱いけれど、焼けるみたいに熱い。
 瞳が潤んで視界がぼやける。あまり人には見せられないような顔をしているのではないかしら。

 ゼフィラス様に捕まっていた手を離すと、足に力が入らないせいで体がふらついて、ずるっと倒れそうになる。
 倒れる前にゼフィラス様が私を抱き上げてくださった。

「どうした? 具合が……」

「ち、違うのです……なんだか、力が抜けてしまって……」

 恥ずかしくて、ゼフィラス様の顔を見ることができない。
 唇を辿る舌の感触が妙に淫らで、思い出すだけで胸が激しく高鳴った。

「……っ、そうか。……」

「……あ、あの、ごめんなさい。もっと慣れます、私、頑張りますから、呆れないでくださると嬉しいのですが……」

 あの程度でこんなに恥ずかしがってしまっていては、ゼフィラス様も困ってしまうわよね。 
 ゼフィラス様は少しずつでいいと言っていたけれど、夫婦になるのだから、これぐらいで動揺していてはいけない。
 王妃というのは堂々としていなくてはいけないのだと、アリッサ先生も言っていたもの。

「……君が可愛すぎて、私はどうしたらいいのかわからない」

 絞り出すような声でゼフィラス様は言って、抱き上げた私の首筋に顔を埋めた。

「私は幸せだ、リーシャ。君のこんな、愛らしい姿を見ることができるのだから。……呆れたりはしない。リーシャが可愛くて、倒れそうだ」

「あ、ありがとうございます……可愛いと言われるの、慣れていなくて。嬉しいです」

「可愛い。可愛いリーシャ。め……」

「め?」

「い、いや、なんでもない。本を取るのだったな。私がとろう。あの本か? 五代目の王の」

「は、はい。その本です」

 め――とは、何かしら。
 ゼフィラス様がそれ以上言わなかったので、私も聞かなかった。
 少し落ち着いた私を床に降ろして、ゼフィラス様は軽々と上段の本を取ってくれる。
 私では背伸びしてやっとの場所にある本は、ゼフィラス様の背丈では軽々と抜き出すことができた。
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