初恋の王子様が奪われてしまったので、庭付き風呂付き怪異つき古びた館に引っ越しました

束原ミヤコ

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お化けさんと外出

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 ――今日は何をしようかしら。
 
 食事を終えて着替えた私は、明るい窓の外を眺めながら考える。
 因みに着替え中もルーファスさんは側にいる。
 
 姿は見えないけれど多分いる。スカートが引っ張られたり、下着を脱がされそうになったり、背後から抱きしめられたりしたので、着替えるのにもやたらと時間がかかってしまった。

 もちろん羞恥心がないわけではないのだけれど、ルーファスさんは見えないので、私にはルーファスさんをどうすることもできないのだし。

 ともかく、いちいち恥ずかしがっていては何もできないので、気にしないことにした。

「お化けさんは、外には出られないのですよね」
『あぁ。屋敷の外には出ることができない……はずだ。この家そのものが俺なのかもしれないと思うときもあるな』
「なるほど」
『出かけるのか?』
「はい。街には海がありますから、買い出しをしながら海を見に行こうかと思いまして。ルーファスさんも食事ができるとわかったので、二人分の食事を用意したいですし」
『それはよい心がけだな、リュミ』
「嬉しいと素直に言ったらどうですか」
『……嬉しい』
「ふふ」

 私は部屋を見回した。屋敷の中はどこもかしこも美しく整えられている。
 全体的に装飾や家具などのデザインは古めかしいけれど、それが逆に雰囲気があり美しくも見える。
 ルーファスさんの生きていた時代が例えば五百年以上前だとしたら、その時代の家具なのだろう。

「ルーファスさんが部屋を綺麗にしてくれましたから、当面は家のことはやることがなくなりました。それなので、これからは思い切り優雅に過ごそうと思いまして。お金には困っていませんし」
『金、か』
「はい。お金は、ここに来るまでに稼ぎました」
『お前は有能だな』
「……ありがとうございます。褒められたことって、あまりなくて。嬉しいものですね」

 身支度を整えて準備をして、私は玄関に向かう。
 ルーファスさんが私の隣をついてきている――ような、気がする。
 気配を感じるわけではないのに、そこにいるのがなんとなくわかる。

『お前は有能で、可憐で美しい。なにせこの俺が欲しいと思った女だからな』
「ルーファスさんに言われると、なんだかそんな気がしてきます」
『花は愛でなければ、美しく咲かない。お前のことは俺が愛でよう』
「……っ、ん」

 扉の前で立ち止まる。扉のドアノブに手をかけると、真後ろから抱きすくめられる。
 首筋に唇が触れて、軽く噛みつかれる。
 ピリッとした痛みが走り、それ以上に甘い痺れが背筋を這い上がった。

「これから出かけますから、駄目ですよ、ルーファスさん」
『俺を一人にする気か? つまらん』
「子供ですか」
『長年の孤独から解放されたばかりなのだ』
「では、帰ってきたら相手をしてあげますから、いい子にしていてください」

 幼い少年を相手にしているような気さえして、私はルーファスさんの手の上に自分の手を重ねた。
 私に触れていてくれるから、手の場所が分かる。
 
『俺も共に行く』
「……出られないのに?」
『今までとは違う。お前がいるのだ。例えば俺がこの屋敷に縛られているとして、お前はこの屋敷の所有者になった。つまり、所有者であるお前は、屋敷の一部だといえる。そう考えれば、俺はお前の傍にいることができるはずだ』
「そういうことになるのでしょうか」

 扉に幾何学模様が浮かび上がり、私は力を入れていないのに、ひとりでに開いた。
 確か、ルーファスさんが誰も侵入できないように、屋敷を閉じたと言っていた。
 この不思議な光景も、ルーファスさんの言っていた力の一つなのだろう。

 外の光が玄関に差し込み、眩しさに目が眩む。
 吹き込む風は穏やかで、優しく頬を撫でた。

 一歩外に踏み出してみる。ルーファスさんは本当に一緒に来ることができるのかしら。
 外に買い物に行くだけなのに、一緒に行きたいと駄々をこねられるのは――そんなに、悪い気がしない。
 甘えん坊の犬みたいだ。
 玄関前のアプローチを抜けて、門をくぐる。

「――ルーファスさん、いますか?」

 荒れ放題だった庭には、薔薇の花が咲き乱れている。
 屋敷を振り返ると、薔薇の花の奥に――外観だけは、変わらない幽霊屋敷があった。

 ぼろぼろの屋根。剥がれた外壁。薔薇の花々に隠されるようにして聳え立つ屋敷は、不気味さが更に増しているように見える。
 ルーファスさんは屋敷の外観は変えなかったみたいだ。
 私のことを不用心だと言っていたので、あえてそうしたのかもしれない。
 
 屋敷が不気味や不気味であるほど、人が近づかないという配慮なのだろう。多分。

「ルーファスさん?」
『リュミ。……外だ』
「出られたのですか?」
『あぁ、外だ……!』

 両手をぎゅっと握られる。ぶんぶん振り回されて、私はよろめいた。
 ルーファスさんの喜びが、両手から伝わってくるようだった。
 私も――つられるようにして微笑んだ。
 きっと今、ルーファスさんはとても楽しそうに、笑っているのだろう。

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