91 / 107
第二章 マユラ、錬金術店を開く
伯爵は何故石化するのか
しおりを挟むアルヴィレイスは「部屋に誘うということは、そういう意味だと思ったんだが」と勝手にがっかりした。
「麗しのマユラが、石像になった美男子、つまり僕を助けてくれる。石化の呪いがとけたとき、マユラは僕に恋をする。そして二人は愛し合う──というのが、黄金パターンだとは思わないか?」
『死ね』
「師匠、直球すぎます……! アルヴィレイス様、さぞや女性に不自由のない生活をしていらっしゃるとは思うのですが、私は今それどこではないのです。早く仲間を助けにいかなくてはならないので」
「そうか……その仲間を助ければ、それどころになるというわけだな。手を貸そう」
アルヴィレイスは濡れた服をさっさと脱いだ。
非常にいい脱ぎっぷりだった。言動は優男ではあるものの、体つきは立派。腹筋も胸筋も腕も、ムキムキだ。伯爵というよりも、どこかの海賊みたいだなとマユラは思う。
『マユラ、お前、何を平然と見ているんだ』
「あぁ、いい体でしたので、つい」
『お前な』
「ほら、先日レオナードさんにマントを作ったでしょう? アルヴィレイス様のような体つきの男性にはどのような装備が似合うのかを考えていたのです」
「どれだけ見てくれても構わない。この鍛え抜かれた肉体美を!」
『黙れ。マユラ、これ以上この男に関わらなくていい』
筋肉を目立たせるポーズをとってくれるアルヴィレイスに、マユラはパチパチと拍手をした。
師匠が怒るので、両手で顔を覆う。「着替え終わったら教えてください」と伝えると「照れ屋な子猫ちゃんだ」と言われた。
さすがのマユラもこそばゆさを感じた。
師匠もユリシーズも自信満々なところがあるが、アルヴィレイスの自信はまた少し違うようだ。
ともかく自己肯定感が高いのだなと、マユラは感心した。その自信、見習っていきたい。
「いいぞ、マユラ」
「はい」
「綺麗な服に着替えた僕だ。どうかな」
「濡れていない服を着ているアルヴィレイス様です。どうしてお風呂場で石化していたのですか?」
「おぉ……君はなかなか、つれない。大抵の女性は、僕が視線を向けただけで、きゃあ、アルヴィレイス様~と言いながら抱きついていくルのだが」
『どういう生活をしているんだ。それは、伯爵という肩書きと金に群がっているだけではないのか。軍隊蜂のごとくだ』
「師匠、真実は時に、つらく苦しいものなのですよ」
多分師匠の言うとおりだろう。
みなまで言う必要はないと、マユラは師匠の口をふさぐ。
師匠はもごもごしながら『お前もそう思っているじゃないか』と呟いた。
「──僕が風呂場で石化をしていたのには、海よりも深く山よりも高い事情があるのだ」
アルヴィレイスは勝手にベッドに座り足を組み、深刻な顔で話をしだした。
マユラは師匠を膝に乗せて、椅子を持ってくるとアルヴィレイスの前に座った。
◇
──僕がキリア伯爵家をついでから、かれこれ五年になる。
あ、僕は若々しく見えるだろうが、今は二十八歳だ。マユラは何歳? 二十歳だって?
なんてちょうどいい! 八歳差が一番いいのだ。
……あぁ。話を続けよう。
僕は田舎が嫌いでね。父が病に倒れるまでは、王都の劇場で男優をしていた。
ん? 歌姫システィーナ?
あぁ、知っているぞ。知っているといっても、僕が男優をしていたのは由緒正しい王都劇場で、システィーナがいたのは小劇場だ。
年二回のオーディションによく来ていたな。
恋人だったかだって? 愚問だな、マユラ。美しい女性を見たら口説くのは礼儀というものだ。
とはいえ、システィーナとは長続きしなかったな。あれも気の多い女だった。ころころ男をとっかえひっかえ……い、いや、捨てられてはいない。そういうことじゃない。
ともかく、父が倒れた三年前。僕は二十五歳の時に、田舎に戻ってきた。
伯爵家の領地はこの街と、クイーンビーの森と、それから伯爵家の傍にある少し大きな街。
王都に比べると、ど田舎でね。女の子を愛でるぐらいしかやることがない。
結婚はなぁ……人生の墓場だ。特定の妻がいると、少し女の子を口説いただけで浮気ものだと大騒ぎするだろう? そ、そんな顔をしないでくれ、僕はまだ人生を謳歌したいだけなんだ。
マユラが僕の妻になってくれるというのなら、マユラしか愛さないと誓おう。
考えておいてくれ、僕の子猫ちゃん。
……そこの、喋る猫のぬいぐるみは、僕にやたらと攻撃的ではないか?
で、だ。領地に戻ってきてからしばらくして、ちょうど、一年ほど前か。
退屈しのぎに参加していた貴族の社交界では、魔導師や錬金術師を家に抱えることがステータスとされるようになりはじめていてね。
何せ、魔物の異常発生が起っているらしい。
数の少ない錬金術師や魔導師を抱えて武力を補強することが貴族としての義務とか、なんとか。まぁ、ようするに自慢だ。何人家に魔導師がいる、とか、錬金術師がいるなどと。
皆、こぞって自慢をしたがった。
僕は別に自慢をしたいわけではなかったんだがね。魔物が異常発生しているのならば、確かに戦力は多ければ多いほうがいいだろう。
そういうわけで、この小さな街に錬金術師がいるという噂をきいて、伯爵家に呼んだ。
それで、雇った。
今から、半年ぐらい前のことだったかな。
それで、つい最近、民からの嘆願書が届いてね。クイーンビーの森に石像が増えて仕方ない。
なんとかしてくれといって。
錬金術師に相談したら、石化をなおすための薬を作るには素材がいる。軍隊蜂を採ってこいと言う。
そこで僕は思ったんだ。
軍隊蜂を採ってくるなど面倒なことをしないで、僕がクイーンビーを討伐すればそれでいいのではないか、と。
そう。僕もクイーンビーの討伐に出かけたんだ。
こう見えて、僕も腕に覚えがある。田舎に戻ってから、暇なものだから、女の子たちと愛を育む他には鍛えることぐらいしかすることがなかったから。
実戦経験も、まぁ、ある。魔物の討伐をすると、女の子たちが素敵だと喜ぶのだ。
クイーンビーに勝てなかったのは……その、あれは、ほら、素敵な夢を見せるだろう?
いや、噂には聞いていたんだ。
ちょっと興味があった。
うん。そう。興味本位で、煙を吸った。
そして僕は見事に石化の毒をこの身に受けて──何かあったときには使えと、錬金術師から渡されていた転移石を使って、宿の風呂場に転移で逃げたというわけだ。
そして、そのまま石化を。そう、だから僕は風呂場で石になっていたというわけだな。
◇
アルヴィレイスの話を聞いて、マユラは首をひねる。
「転移石……お兄様の使う転移魔法と同じですか、師匠」
『あれは、自分が行った場所に魔力を埋め込み、再び行くことができるようにする魔法だ。転移石というのは、もっと雑なものだな。いわゆる、緊急脱出用の道具で、どこに転移するのか転移をするまではわからん。崖の上に転移して死ぬ場合もある』
「そ、そんな危険なものを、カトレアは僕に!?」
『死ねということだな』
「さすがにそこまでの気持ちはなかったのではないでしょうか……でも、偶然お風呂場に転移してよかったですね、伯爵」
「あぁ。なかなか、快適だった」
「……快適だったのですね、お風呂」
「海の中とか、湖の中とか、井戸の底などよりはずっと、快適という意味だ。君にも会えたしな、マユラ」
マユラは──返事をしなかった。
腕を組んで思案していたのだ。
もしかしたらやっぱり、お兄様もわざとクイーンビーの煙を吸ったのではないかしら、と。
346
あなたにおすすめの小説
妾の子だからといって、公爵家の令嬢を侮辱してただで済むと思っていたんですか?
木山楽斗
恋愛
公爵家の妾の子であるクラリアは、とある舞踏会にて二人の令嬢に詰められていた。
彼女達は、公爵家の汚点ともいえるクラリアのことを蔑み馬鹿にしていたのである。
公爵家の一員を侮辱するなど、本来であれば許されることではない。
しかし彼女達は、妾の子のことでムキになることはないと高を括っていた。
だが公爵家は彼女達に対して厳正なる抗議をしてきた。
二人が公爵家を侮辱したとして、糾弾したのである。
彼女達は何もわかっていなかったのだ。例え妾の子であろうとも、公爵家の一員であるクラリアを侮辱してただで済む訳がないということを。
※HOTランキング1位、小説、恋愛24hポイントランキング1位(2024/10/04) 皆さまの応援のおかげです。誠にありがとうございます。
「無加護」で孤児な私は追い出されたのでのんびりスローライフ生活!…のはずが精霊王に甘く溺愛されてます!?
白井
恋愛
誰もが精霊の加護を受ける国で、リリアは何の精霊の加護も持たない『無加護』として生まれる。
「魂の罪人め、呪われた悪魔め!」
精霊に嫌われ、人に石を投げられ泥まみれ孤児院ではこき使われてきた。
それでも生きるしかないリリアは決心する。
誰にも迷惑をかけないように、森でスローライフをしよう!
それなのに―……
「麗しき私の乙女よ」
すっごい美形…。えっ精霊王!?
どうして無加護の私が精霊王に溺愛されてるの!?
森で出会った精霊王に愛され、リリアの運命は変わっていく。
継母の嫌がらせで冷酷な辺境伯の元に嫁がされましたが、噂と違って優しい彼から溺愛されています。
木山楽斗
恋愛
侯爵令嬢であるアーティアは、継母に冷酷無慈悲と噂されるフレイグ・メーカム辺境伯の元に嫁ぐように言い渡された。
継母は、アーティアが苦しい生活を送ると思い、そんな辺境伯の元に嫁がせることに決めたようだ。
しかし、そんな彼女の意図とは裏腹にアーティアは楽しい毎日を送っていた。辺境伯のフレイグは、噂のような人物ではなかったのである。
彼は、多少無口で不愛想な所はあるが優しい人物だった。そんな彼とアーティアは不思議と気が合い、やがてお互いに惹かれるようになっていく。
2022/03/04 改題しました。(旧題:不器用な辺境伯の不器用な愛し方 ~継母の嫌がらせで冷酷無慈悲な辺境伯の元に嫁がされましたが、溺愛されています~)
勇者パーティを追放された聖女ですが、やっと解放されてむしろ感謝します。なのにパーティの人たちが続々と私に助けを求めてくる件。
八木愛里
ファンタジー
聖女のロザリーは戦闘中でも回復魔法が使用できるが、勇者が見目麗しいソニアを新しい聖女として迎え入れた。ソニアからの入れ知恵で、勇者パーティから『役立たず』と侮辱されて、ついに追放されてしまう。
パーティの人間関係に疲れたロザリーは、ソロ冒険者になることを決意。
攻撃魔法の魔道具を求めて魔道具屋に行ったら、店主から才能を認められる。
ロザリーの実力を知らず愚かにも追放した勇者一行は、これまで攻略できたはずの中級のダンジョンでさえ失敗を繰り返し、仲間割れし破滅へ向かっていく。
一方ロザリーは上級の魔物討伐に成功したり、大魔法使いさまと協力して王女を襲ってきた魔獣を倒したり、国の英雄と呼ばれる存在になっていく。
これは真の実力者であるロザリーが、ソロ冒険者としての地位を確立していきながら、残念ながら追いかけてきた魔法使いや女剣士を「虫が良すぎるわ!」と追っ払い、入り浸っている魔道具屋の店主が実は憧れの大魔法使いさまだが、どうしても本人が気づかない話。
※11話以降から勇者パーティの没落シーンがあります。
※40話に鬱展開あり。苦手な方は読み飛ばし推奨します。
※表紙はAIイラストを使用。
刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。繁栄も滅亡も、私の導き次第で決まるようです。
木山楽斗
ファンタジー
宿屋で働くフェリナは、ある日森で卵を見つけた。
その卵からかえったのは、彼女が見たことがない生物だった。その生物は、生まれて初めて見たフェリナのことを母親だと思ったらしく、彼女にとても懐いていた。
本物の母親も見当たらず、見捨てることも忍びないことから、フェリナは謎の生物を育てることにした。
リルフと名付けられた生物と、フェリナはしばらく平和な日常を過ごしていた。
しかし、ある日彼女達の元に国王から通達があった。
なんでも、リルフは竜という生物であり、国を繁栄にも破滅にも導く特別な存在であるようだ。
竜がどちらの道を辿るかは、その母親にかかっているらしい。知らない内に、フェリナは国の運命を握っていたのだ。
※この作品は「小説家になろう」「カクヨム」「アルファポリス」にも掲載しています。
※2021/09/03 改題しました。(旧題:刷り込みで竜の母親になった私は、国の運命を預かることになりました。)
転生したら領主の息子だったので快適な暮らしのために知識チートを実践しました
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
不摂生が祟ったのか浴槽で溺死したブラック企業務めの社畜は、ステップド騎士家の長男エルに転生する。
不便な異世界で生活環境を改善するためにエルは知恵を絞る。
14万文字執筆済み。2025年8月25日~9月30日まで毎日7:10、12:10の一日二回更新。
余りモノ異世界人の自由生活~勇者じゃないので勝手にやらせてもらいます~
藤森フクロウ
ファンタジー
相良真一(サガラシンイチ)は社畜ブラックの企業戦士だった。
悪夢のような連勤を乗り越え、漸く帰れるとバスに乗り込んだらまさかの異世界転移。
そこには土下座する幼女女神がいた。
『ごめんなさあああい!!!』
最初っからギャン泣きクライマックス。
社畜が呼び出した国からサクッと逃げ出し、自由を求めて旅立ちます。
真一からシンに名前を改め、別の国に移り住みスローライフ……と思ったら馬鹿王子の世話をする羽目になったり、狩りや採取に精を出したり、馬鹿王子に暴言を吐いたり、冒険者ランクを上げたり、女神の愚痴を聞いたり、馬鹿王子を躾けたり、社会貢献したり……
そんなまったり異世界生活がはじまる――かも?
ブックマーク30000件突破ありがとうございます!!
第13回ファンタジー小説大賞にて、特別賞を頂き書籍化しております。
♦お知らせ♦
6巻発売です! 告知遅れてすみません……。
余りモノ異世界人の自由生活、コミックス1~6巻が発売中!
漫画は村松麻由先生が担当してくださっています。
よかったらお手に取っていただければ幸いです。
書籍1~9巻発売中。
1~8巻は万冬しま先生が、9巻以降は木々ゆうき先生がイラストを担当してくださっております。
現在別原稿を作業中のため、更新が停止しております。
しばらくしたらまた再開しますので、少々お待ちを……
コミカライズの連載は毎月第二水曜に更新となります。
漫画は村松麻由先生が担当してくださいます。
※基本予約投稿が多いです。
たまに失敗してトチ狂ったことになっています。
原稿作業中は、不規則になったり更新が遅れる可能性があります。
現在原稿作業と、私生活のいろいろで感想にはお返事しておりません。
聖女の紋章 転生?少女は女神の加護と前世の知識で無双する わたしは聖女ではありません。公爵令嬢です!
幸之丞
ファンタジー
2023/11/22~11/23 女性向けホットランキング1位
2023/11/24 10:00 ファンタジーランキング1位 ありがとうございます。
「うわ~ 私を捨てないでー!」
声を出して私を捨てようとする父さんに叫ぼうとしました・・・
でも私は意識がはっきりしているけれど、体はまだ、生れて1週間くらいしか経っていないので
「ばぶ ばぶうう ばぶ だああ」
くらいにしか聞こえていないのね?
と思っていたけど ササッと 捨てられてしまいました~
誰か拾って~
私は、陽菜。数ヶ月前まで、日本で女子高生をしていました。
将来の為に良い大学に入学しようと塾にいっています。
塾の帰り道、車の事故に巻き込まれて、気づいてみたら何故か新しいお母さんのお腹の中。隣には姉妹もいる。そう双子なの。
私達が生まれたその後、私は魔力が少ないから、伯爵の娘として恥ずかしいとかで、捨てられた・・・
↑ここ冒頭
けれども、公爵家に拾われた。ああ 良かった・・・
そしてこれから私は捨てられないように、前世の記憶を使って知識チートで家族のため、公爵領にする人のために領地を豊かにします。
「この子ちょっとおかしいこと言ってるぞ」 と言われても、必殺 「女神様のお告げです。昨夜夢にでてきました」で大丈夫。
だって私には、愛と豊穣の女神様に愛されている証、聖女の紋章があるのです。
この物語は、魔法と剣の世界で主人公のエルーシアは魔法チートと知識チートで領地を豊かにするためにスライムや古竜と仲良くなって、お力をちょっと借りたりもします。
果たして、エルーシアは捨てられた本当の理由を知ることが出来るのか?
さあ! 物語が始まります。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる