君を愛さない……こともないような、そうでもないようなって、どっちなんですか旦那様!?~氷の軍神は羊飼い令嬢を溺愛する~

束原ミヤコ

文字の大きさ
64 / 84

あなたに恋をしています

しおりを挟む

 白葡萄酒は火にかけているのでアルコールが飛んで、風味だけが残っている。
 けれど、心なしか体がぽかぽかしてくる。
 温かいものを食べているからか、それとも白葡萄酒の風味に体が酔っていると勘違いをしているからなのか。

 蓄光石のランプが室内を照らしている。美しく整えられたテーブルには、食器などの他にもいつもお花が飾られていて、私はともかくとして、背筋がまっすぐで品のある佇まいのダンテ様が食事をしているというだけで、絵になる風景である。

「今日は、薪割りをして、馬の世話をして、薪を運ぶのを手伝わせていただきました。皆さん、吹雪が来ることを真剣に受け止めてくださっていて、ほっとしています」

「君のいう通り、本当に吹雪いてきそうだな。この季節に、こんなに冷え込むのは珍しい」

「何事もないといいのですが。大聖堂に登るには細い道が一本しかないので心配ですね。声をかけてきましたから、大丈夫だとは思うのですけれど」

「ディジー、君は……まるで、幸運の女神だな」

「えっ、……ど、どうしました、急に!?」

 ダンテ様らしからぬ言葉に、私は目を見開く。
 やや目つきの悪い瞳と目が合って、ダンテ様の目尻がわずかに赤く染まっていることに気づいた。

 ダンテ様、かなりお酒を飲んでいるみたいだ。
 もしかして酔っているのかもしれない。

「伝えなくてはいけないと、思っていた。……君への、感謝を」

「もう十分伝わっています。言葉にしなくても、わかります。だから、大丈夫ですよ」

「……君は俺を、その、す……こ、好意があると、言ってくれた」

「あ、わ……っ、そ、その、はい……。せっかく夫婦になるのですから、ダンテ様と仲良くなりたいと思っていたのです。私、今まで恋をしたことが一度もなくて、それがどんな感じかも分からなくて。それでも、両親のような仲の良い夫婦になりたいなって、考えていました」

「幻滅、しただろう。俺の態度に」

「いえ、全くそんなことはなくて! ダンテ様と過ごすのは、楽しいです。ダンテ様は私を信じてくれました。幼い頃に出会ったことも、覚えていてくださいました。……全部、嬉しくて。いつの間にか、ダンテ様に私は、恋をしていたみたいです」

 恥ずかしさを誤魔化そうとすると、余計なことまで話してしまうみたいだ。
 けれどこれが私の気持ち。今の、私の全て。
 夫婦になるのだから、隠す必要などないものだ。
 
「私の旦那様になってくださる方に恋ができるなんて、私は幸せです」

 にっこり微笑んで伝えると、ダンテ様の顔がぶわっと真っ赤に染まった。
 その表情を見てしまうと私も余計に恥ずかしくなってしまい、おろおろしながらパンをフォンデュ鍋に突っ込んだ。
 
 そういえばお母様も混乱した時に、よくフォンデュ鍋に色々なものを突っ込もうとしてはお父様やお兄様に止められていることを思い出す。
 血は争えないわね。私もお母様に似てしまったみたいだ。
 パンに絡みついたチーズがみよんとのびた。
 そういえばもうお腹がいっぱいだ。これ以上は食べられないし、気恥ずかしさに胸がいっぱいで余計に食べられない。

「ダンテ様、どうしましょう……食べきれないのに、チーズをつけてしまいました。ダンテ様、食べますか?」

「あ、あぁ」

「はい、どうぞ」

「……っ」

 ごく自然にダンテ様の口元にパンを持っていく。特に何にも考えていなかった。
 ダンテ様は眉間に深い皺を寄せながら、口を開いてくれる。
 綺麗に白い歯の並んでいる口の中にパンを入れて、ふと私はとても恥ずかしいことをしているのではないかと気づく。

「ご、ごめんなさい、嫌でしたか……?」

「いや、問題ない」

「熱くなかったですか?」

「大丈夫だ」

「ダンテ様、私の両親はいつもこのような様子で、私もつい同じようにしてしまっているみたいで……」

「そうか。……俺の両親は、食事中に話をすることは少なかった。このような振る舞いも、していなかった」

「よくないでしょうか……」

「これからも、君は君の思うままに振る舞ってほしい。その度に俺は君が可憐で、愛しくて、どうしようもなくなるのだが、それでもよければ」

「えっ」

「……何かおかしなことを言ったか」

 私はぶんぶん首を振った。
 なんて愛らしい人なのだろう。ダンテ様の感情については表情を見ていればなんとなくわかるのだけれど、言葉にされると余計に愛しく、愛らしく思えてしまう。
 ダンテ様はぐいっと、本日何杯目かの白葡萄酒をあおった。

「そろそろ、終わりにしましょう? 飲み過ぎかなと思います。体も温まりましたし、休みましょうか」

 声をかけて立ちあがろうとした私の手を、ダンテ様はそっと握った。

「……今夜は、共に過ごすと約束をした。忘れてしまったのか?」

「忘れていないです……」

「今、逃げようとした」

「そ、それは、その、恥ずかしくなってしまって……」

「ディジー。俺は今日一日、そのことばかりを考えていた。もちろん、やるべきことは行ったが、君の言葉が頭の中から離れなかった」

「は、はい」

「だから」

「だから……?」

「すまないが、約束を忘れたふりはできない」

 どこか懇願するような響きを帯びた声音で、ダンテ様は言う。

「支度をしたらお部屋に行きます。だから、待っていてくださいますか? この姿では、眠れませんから」

「あぁ。待っている」

 名残惜しそうに離れていく手に、その硬い感触に、私も少し寂しいと思った。
 ほんの少し離れるというだけなのに、同じ屋敷の中にいるのに。
 そう感じるのがとても不思議だった。


しおりを挟む
感想 4

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

婚活をがんばる枯葉令嬢は薔薇狼の執着にきづかない~なんで溺愛されてるの!?~

白井
恋愛
「我が伯爵家に貴様は相応しくない! 婚約は解消させてもらう」  枯葉のような地味な容姿が原因で家族から疎まれ、婚約者を姉に奪われたステラ。  土下座を強要され自分が悪いと納得しようとしたその時、謎の美形が跪いて手に口づけをする。  「美しき我が光……。やっと、お会いできましたね」  あなた誰!?  やたら綺麗な怪しい男から逃げようとするが、彼の執着は枯葉令嬢ステラの想像以上だった!  虐げられていた令嬢が男の正体を知り、幸せになる話。

【12月末日公開終了】有能女官の赴任先は辺境伯領

たぬきち25番
恋愛
辺境伯領の当主が他界。代わりに領主になったのは元騎士団の隊長ギルベルト(26) ずっと騎士団に在籍して領のことなど右も左もわからない。 そのため新しい辺境伯様は帳簿も書類も不備ばかり。しかも辺境伯領は王国の端なので修正も大変。 そこで仕事を終わらせるために、腕っぷしに定評のあるギリギリ貴族の男爵出身の女官ライラ(18)が辺境伯領に出向くことになった。   だがそこでライラを待っていたのは、元騎士とは思えないほどつかみどころのない辺境伯様と、前辺境伯夫妻の忘れ形見の3人のこどもたち(14歳男子、9歳男子、6歳女子)だった。 仕事のわからない辺境伯を助けながら、こどもたちの生活を助けたり、魔物を倒したり!? そしていつしか、ライラと辺境伯やこどもたちとの関係が変わっていく…… ※お待たせしました。 ※他サイト様にも掲載中

悪女役らしく離婚を迫ろうとしたのに、夫の反応がおかしい

廻り
恋愛
第18回恋愛小説大賞にて奨励賞をいただきました。応援してくださりありがとうございました!  王太子妃シャルロット20歳は、前世の記憶が蘇る。  ここは小説の世界で、シャルロットは王太子とヒロインの恋路を邪魔する『悪女役』。 『断罪される運命』から逃れたいが、夫は離婚に応じる気がない。  ならばと、シャルロットは別居を始める。 『夫が離婚に応じたくなる計画』を思いついたシャルロットは、それを実行することに。  夫がヒロインと出会うまで、タイムリミットは一年。  それまでに離婚に応じさせたいシャルロットと、なぜか様子がおかしい夫の話。

身代わりの公爵家の花嫁は翌日から溺愛される。~初日を挽回し、溺愛させてくれ!~

湯川仁美
恋愛
姉の身代わりに公爵夫人になった。 「貴様と寝食を共にする気はない!俺に呼ばれるまでは、俺の前に姿を見せるな。声を聞かせるな」 夫と初対面の日、家族から男癖の悪い醜悪女と流され。 公爵である夫とから啖呵を切られたが。 翌日には誤解だと気づいた公爵は花嫁に好意を持ち、挽回活動を開始。 地獄の番人こと閻魔大王(善悪を判断する審判)と異名をもつ公爵は、影でプレゼントを贈り。話しかけるが、謝れない。 「愛しの妻。大切な妻。可愛い妻」とは言えない。 一度、言った言葉を撤回するのは難しい。 そして妻は普通の令嬢とは違い、媚びず、ビクビク怯えもせず普通に接してくれる。 徐々に距離を詰めていきましょう。 全力で真摯に接し、謝罪を行い、ラブラブに到着するコメディ。 第二章から口説きまくり。 第四章で完結です。 第五章に番外編を追加しました。

夫に顧みられない王妃は、人間をやめることにしました~もふもふ自由なセカンドライフを謳歌するつもりだったのに、何故かペットにされています!~

狭山ひびき
恋愛
もう耐えられない! 隣国から嫁いで五年。一度も国王である夫から関心を示されず白い結婚を続けていた王妃フィリエルはついに決断した。 わたし、もう王妃やめる! 政略結婚だから、ある程度の覚悟はしていた。けれども幼い日に淡い恋心を抱いて以来、ずっと片思いをしていた相手から冷たくされる日々に、フィリエルの心はもう限界に達していた。政略結婚である以上、王妃の意思で離婚はできない。しかしもうこれ以上、好きな人に無視される日々は送りたくないのだ。 離婚できないなら人間をやめるわ! 王妃で、そして隣国の王女であるフィリエルは、この先生きていてもきっと幸せにはなれないだろう。生まれた時から政治の駒。それがフィリエルの人生だ。ならばそんな「人生」を捨てて、人間以外として生きたほうがましだと、フィリエルは思った。 これからは自由気ままな「猫生」を送るのよ! フィリエルは少し前に知り合いになった、「廃墟の塔の魔女」に頼み込み、猫の姿に変えてもらう。 よし!楽しいセカンドラウフのはじまりよ!――のはずが、何故か夫(国王)に拾われ、ペットにされてしまって……。 「ふふ、君はふわふわで可愛いなぁ」 やめてえ!そんなところ撫でないで~! 夫(人間)妻(猫)の奇妙な共同生活がはじまる――

【完結済】隣国でひっそりと子育てしている私のことを、執着心むき出しの初恋が追いかけてきます

鳴宮野々花@書籍4作品発売中
恋愛
 一夜の過ちだなんて思いたくない。私にとって彼とのあの夜は、人生で唯一の、最良の思い出なのだから。彼のおかげで、この子に会えた────  私、この子と生きていきますっ!!  シアーズ男爵家の末娘ティナレインは、男爵が隣国出身のメイドに手をつけてできた娘だった。ティナレインは隣国の一部の者が持つ魔力(治癒術)を微力ながら持っており、そのため男爵夫人に一層疎まれ、男爵家後継ぎの兄と、世渡り上手で気の強い姉の下で、影薄く過ごしていた。  幼いティナレインは、優しい侯爵家の子息セシルと親しくなっていくが、息子がティナレインに入れ込みすぎていることを嫌う侯爵夫人は、シアーズ男爵夫人に苦言を呈す。侯爵夫人の機嫌を損ねることが怖い義母から強く叱られ、ティナレインはセシルとの接触を禁止されてしまう。  時を経て、貴族学園で再会する二人。忘れられなかったティナへの想いが燃え上がるセシルは猛アタックするが、ティナは自分の想いを封じ込めるように、セシルを避ける。  やがてティナレインは、とある商会の成金経営者と婚約させられることとなり、学園を中退。想い合いながらも会うことすら叶わなくなった二人だが、ある夜偶然の再会を果たす。  それから数ヶ月。結婚を目前に控えたティナレインは、隣国へと逃げる決意をした。自分のお腹に宿っていることに気付いた、大切な我が子を守るために。  けれど、名を偽り可愛い我が子の子育てをしながら懸命に生きていたティナレインと、彼女を諦めきれないセシルは、ある日運命的な再会を果たし────  生まれ育った屋敷で冷遇され続けた挙げ句、最低な成金ジジイと結婚させられそうになったヒロインが、我が子を守るために全てを捨てて新しい人生を切り拓いていこうと奮闘する物語です。 ※いつもの完全オリジナルファンタジー世界の物語です。全てがファンタジーです。 ※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しています。

突然決められた婚約者は人気者だそうです。押し付けられたに違いないので断ってもらおうと思います。

橘ハルシ
恋愛
 ごくごく普通の伯爵令嬢リーディアに、突然、降って湧いた婚約話。相手は、騎士団長の叔父の部下。侍女に聞くと、どうやら社交界で超人気の男性らしい。こんな釣り合わない相手、絶対に叔父が権力を使って、無理強いしたに違いない!  リーディアは相手に遠慮なく断ってくれるよう頼みに騎士団へ乗り込むが、両親も叔父も相手のことを教えてくれなかったため、全く知らない相手を一人で探す羽目になる。  怪しい変装をして、騎士団内をうろついていたリーディアは一人の青年と出会い、そのまま一緒に婚約者候補を探すことに。  しかしその青年といるうちに、リーディアは彼に好意を抱いてしまう。 全21話(本編20話+番外編1話)です。

処理中です...