君を愛さない……こともないような、そうでもないようなって、どっちなんですか旦那様!?~氷の軍神は羊飼い令嬢を溺愛する~

束原ミヤコ

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 あらためての求婚 2

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 皆、オルデイル牛に驚き、大聖堂の神官様たちの無事に喜んでくれた。
 雪で滑って怪我をした人や、屋根が潰れたり吹き飛んだりした家はあったようだけれど、大事故にはならなかったと、皆が口々に教えてくれる。

 今日の作業を労うために皆に配ったら、大鍋で作ったシチューはすっかり空っぽになってしまった。

「それじゃあディジーちゃん。僕たちはオルデイル牛を闘牛場に返しにいくよ。本当はエステランドに連れて帰りたいぐらいだけれど、そういうわけにもいかないからね」

「母上とレオも宿で待っているから、そろそろ行かないと。ディジー、顔を見ることができてよかった」

「お二人とも。本来ならば、こちらで宿を手配しなくてはいけないところを、申し訳ありませんでした」

 オルデイル牛に乗って闘技場に向かおうとするお父様とお兄様に、ダンテ様が頭をさげる。
 二人は顔を見合わせると、慌てたように両手を振った。

「顔をあげてください、ミランティス公」

「俺のことは、ダンテと。ディジーの家族に、そうかしこまられては、どうにも申し訳なく思います」

「じゃあダンテ君」

「ダンテ君」

 お父様とお兄様はあっさりダンテ様を、軽々しく呼んだ。
 ダンテ君。ダンテ君。とても可愛い。私も呼んでみたい。

「ダンテ君、僕たちは勝手に婚礼の儀式の日程よりも早くにミランティス領に来たんだよ。物見遊山の気持ちでね。好きに滞在して好きに帰るつもりだから、あまり気にしないでほしいな」

「そうそう。あまり気をつかわれると、かえって居づらくなってしまう。だから気にしないで」

「ディジーちゃんの婚礼の儀式は延期になったようだから、もう少しゆっくりできるね」

「母上が喜びますね、父上」

 そんなことを言いながら、お父様とお兄様は現れた時と同じように、嵐のように去っていった。
 ダンテ様は心なしか寂しそうに、二人の背中を見送っている。
 私はそんなダンテ様の腕を引っ張った。

「ダンテ様、大丈夫ですよ。お父様もお兄様も、ダンテ様のことを大切な家族だと思っています」

「ディジー」

「ダンテ様の気持ちはちゃんと伝わっていますよ」

 多分、ダンテ様は不安に思っている。二人とあまり会話を交わせなかったことや、ミランティス家として私の家族のもてなしができなかったことを。
 私の家族は、堅苦しいことが苦手だ。街の人々にも、伯爵とは呼ばせないぐらいである。
 王都にも行ったことがないし、社交界にも顔を出したことがない。
 ただの農夫なのだ。私もそうだけれど。
 だから、ミランティス家に招待をされたらきっと気後れしてしまう。

 そんな理由もあって、お父様たちはこっそりヴィレワークの街に滞在していたのだろう。
 多分、本当は婚礼の儀式まで顔を見せないつもりだったはずだ。
 その気持ちは私にもなんとなくわかる。
 私もまだ、ミランティス家での優雅な生活に慣れていない。

「……そうか。君や、君の家族には大恩ができた。大惨事にならずにすんだのだから」

「私の話を真剣に聞いてくださったダンテ様や、街の人々のおかげです。信じてくださったからですよ」

「ディジー」

 ダンテ様が私の手をとった。 
 私は思わず、周囲を見渡した。ロゼッタさんやカールさんたち、それから街の人々が遠巻きに、私たちを見守っている。
 
「ダンテ様、あの、皆さんが……」

「君に、今、伝えなくてはいけないことができた」

「は、はい」

「ディジー。俺と、結婚をしてくれ。俺は君を、愛している。君に出会った幼い日から、君だけをずっと想っていた」

 ダンテ様の低い声が、ダンテ様らしくなく饒舌に言葉を紡ぐ。

「きちんと、伝えなくてはと。街の者たちのために、君は懸命に動いてくれた。どれほど礼を言われても、自分を誇らず謙虚で、誰に対しても優しい。俺には勿体無い女性だが、俺はどうしても、どうしても君と、結婚をしたい。君のいない人生など、考えられないんだ、ディジー」

 一生懸命気持ちを伝えてくれるダンテ様を見つめて、私はその首にぎゅっと抱きついた。
 恥ずかしさなんてどこかに吹き飛んでしまった。
 今、抱きつきたい。ダンテ様に抱きしめてほしい。
 あなたが大好きだと、伝えたい。

「喜んで! 私でよければ、お嫁さんにしてください、ダンテ様!」

 私の言葉と共に、街の人々やロゼッタさんたちから拍手が沸き起こる。

 丘の上の大聖堂から、ヴァイオリンの音色が聞こえる。
 音色に合わせて、子供たちの愛らしい歌声が遠く、響いていた。


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