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美青年ダイエット応援団
しおりを挟む走り慣れない体で走ったせいで、朝からの筋肉痛も相まって結構私はへろへろだった。
けれどサリエルと紅樹先輩の前を、二人の存在に気づかないふりをして走り抜けるべく気合を入れる。
二人の前に差し掛かったところで、二人ともほぼ同時に立ち上がったので、私を待っていたようだ。
是非魚肉ソーセージについて語り合っていてほしかったわね。
私の通り道にいる時点で、多分私に用事があるのだとはわかっていたのだけれど。
「果林さん、お疲れ様。タオルとスポーツドリンクだよ」
紅樹先輩がにこやかに、私にタオルとペットボトル飲料を差し出してくれる。
すごい。なんて胡散臭いのかしら。
魚肉ソーセージでここまで人間の好感度は上がるものなのかしらね。
でも、正直ありがたい。
足を止めそうになってしまう。
というか、足を止めてしまった。
汗拭きタオルとスポーツドリンクの誘惑には逆らえないもの。
「果林。走り始めてからほぼ二十分だ。よく頑張ったな。今日この後の食事に気をつければ、きっと効果が現れる」
サリエルが腕時計に視線を落として言う。
「特に、放課後のコンビニエンスストアでの唐揚げ串には注意が必要だな」
「紅樹先輩、ありがとうございます。サリー、うるさいわよ、黙らっしゃい」
なんでこのタイミングで唐揚げ串について話すのよ、馬鹿。
食べたことないけど、美味しそう。すごく美味しそう。
「同じ鶏肉を使用した料理なら、蒸し鶏などがおすすめだよ、果林さん」
「すごく親切ですわね……」
「生徒会長として、困っている生徒を放っておけないからね」
「そういうものなのですか」
生徒会長とは、ダイエットに悩む女生徒にスポーツドリンクを差し入れするのも仕事なのね。
胡散臭いけれど、良い人なのかもしれないわね。
それにしても。
物腰が柔らかくて良い人なのに妙に有無を言わせない圧力があるこの感じ。
誰かに似ているわね。
誰だったかしら。
私は紅樹先輩から受け取ったタオルで顔を拭いて、冷たいスポーツドリンクを飲んだ。
「ところで、果林さん。ルイに絡まれていたようだけれど、大丈夫だった?」
「あの男子生徒は、一体君にどのような用事だったんだ」
紅樹先輩とサリエルがほぼ同時に同じ質問をしてきた。
紅樹先輩は生徒会長として心配してくれているとして、サリエルはなんなのかしら。
私の保護者にでもなったつもりなのかしらね。
監視とは保護者のことなのかしら。保護者同伴で学園生活を過ごしているようで、どうにも面倒だわ。
「ルイ先輩に勧誘されて水泳部に入ることになりましたの。今日から私は水泳部ですわよ」
「水泳部に入るのか、果林。確かに水泳とは、かなり運動量が多いものと記憶しているが」
「水泳部……大丈夫だろうか。ルイの指導が厳しすぎて、部員がどんどん辞めてしまって、今は部員がルイと、数人しか残っていないんじゃなかったかな、確か」
サリエルが口元に手を当てて、良いことだと頷いた後に、紅樹先輩は記憶を辿るようにして、ゆっくり言った。
「人手不足なのだと言っていましたわね。プール掃除も手伝って欲しいとか、なんとか。ダイエットの為ならなんでもしますわよ」
「心配だな……」
「指導は厳しい方が良いのですわ。紅樹先輩などは私を甘やかそうとするので、私にとってはルイ先輩の方が良いと考えておりますの」
二人とも初対面だけれど。
今のところ一番頼りになりそうなのはルイ先輩だ。
紅樹先輩はややショックを受けたように、表情を曇らせた。
「……そうか、優しくしすぎるのはよくないことなんだね」
「そんなこと私は知りませんわ。あくまで私にとってはということですのよ。今日から忙しくなりますわね、放課後は水泳部に行って、それからアルバイトも探さないといけませんのよ」
いいかげん校舎に戻って着替えないといけない。
歩き出した私の跡を、サリエルと紅樹先輩がまるでしもべのようについてきた。
美青年二人を引き連れて歩く、汗だくの私。
ただでさえ昼休みに走るふとましい私は目立つのに、さらに目立っているわね。別に良いけど。
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