リリアンナ・セフィールと不機嫌な皇子様

束原ミヤコ

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遺跡探索と雪解けの春

 フィオルド様の謝罪 2

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 よく私のいないところで「リリアンナ様は、私のことが気に入らないのでしょうか。何か、態度に問題があるのでしょうか」とドロレスに尋ねたりするらしい。
 ドロレスが「お嬢様は表情筋が硬くて目つきが悪いだけの子ウサギみたいなものなので、大丈夫」と誤解を解いてくれているので、公爵家での私の立場は今のところなんとかなっている。

 公爵家ではドロレスがいてくれるから良いのだけれど、晩餐会などではそういうわけにはいかない。
 額に『目つきが悪いだけです、怒っていません』と書いて生活できればいいのだけれど、もちろんそういうわけにもいかない。

 だから、フィオルド様が誤解するのは無理のないことだ。
 恋人というのはよくわからないけれど、私がフィオルド様を嫌っている、と思い込ませてしまったのは、全面的に私が悪い。自覚はあったのよ。なおせないだけで。

「わ、わた、私、……話すのが、下手で、自分から話しかけるのも、苦手で……」

 やっと言えた。
 ずっと言えなかったことだ。
 だって、言えないわよね。フィオルド様から話しかけられてもいないのに、いきなり口下手宣言するとか、できないわよ。それができる時点でもう口下手とかじゃないもの。

「そうなのだな。……私から、お前と話すべきだった。しかし、お前と話をする前に、私の耳にはお前について悪い噂が、多く入ってきていた」

「うわさ、ですか?」

「あぁ。……お前には、恋人がいる。私を嫌い、仮面舞踏会に出向いては、男を漁っていると。記録石にも、お前の姿があった。仮面舞踏会後に男と密会し、私の婚約者でいることをやめたいと男に縋る、お前の姿が」

 記録石とは、魔力を帯びた道具の一つだ。
 魔道具と呼ばれていて、私たちの生活を便利にしてくれるものである。

 記録石には任意の映像を記録しておくことができる。一度記録されたものは、魔力に反応して何度も映像を見ることができる。

 その記録石に私の姿が写っていたとしたら、それは、信じてしまうわよね。
 もちろん私は仮面舞踏会に行ったことなんて一度もない。

 行けと言われたら断固拒否する。そんな、知らない人がいっぱいいるところ、絶対に行きたくない。

「私はお前のことを、不実で淫らな、忌むべき存在だと、思い込んでいた」

「……私、恋人なんて、いません。話すのも、その……苦手なのに」

「仮面舞踏会に参加したことは?」

「ありません。そんな人がたくさんいて怖いところ、行きたくないです」

「あぁ。……アルラウネの媚薬漬けにされて、嘘をつける者はいない。誰にも触れられたことがなく、はじめてだったんだな、リリアンナ。……ひどいことをして、すまなかった」

「い、いえ、ひどくなんて……」

「……私は、残酷な気持ちになっていた。お前は男を惑わす魔女だと。お前に馬鹿にされているのなら、仕返しをしても良いだろうと、お前を傷つけても良いだろうと……だから、お前に触れた」

「フィオルド様……」

「許してくれるだろうか、リリアンナ。自らお前に確かめもせずに、今まで誤解をしていた愚かな私を。そして、お前に……ひどくしてしまった、私の罪を」

 フィオルド様が、肩に顔を埋めるようにして言った。
 懺悔を求めるその姿は絵に描いたように清廉潔白で、とても美しいような気がした。

「リリアンナ。できることなら、私はお前と、はじめからやりなおしたい。婚約者として、お前を愛したい」

「……は、はぃ……っ」

 愛したい。
 愛したい。愛したい。

 その単語が、頭の中をぐるぐる回った。
 文字通り私はのぼせあがった。

 私だって年頃の女だ。素敵な婚約者に愛を囁かれたいなぁと何度妄想したかしらない。
 フィオルド様の口からそんな言葉が聞けるなんて。

 あぁ、好き……!

 今までのことなんて、もう頭の中から綺麗さっぱり消えてしまった。
 フィオルド様が私を愛してくださる。もうそれだけで、私の心は春爛漫だった。
 

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