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遺跡探索と雪解けの春
フィオルド様の謝罪 1
しおりを挟む男性に抱きしめられたのは、はじめての私。
フィオルド様の胸に顔を埋めると、清涼感のある森林のような良い香りがした。
細身に見えるフィオルド様は、けれど私よりもずっと大きくて、すっぽり包まれるように抱きしめられると、胸がどきどきと高鳴った。
嫌われていたし、怖いと思っていたのに、そんなことすっかり忘れてしまったように、心がふわふわした。
単純すぎないかしら、私。
でも、嬉しいもの。
抱きしめられるのは、なんだかとっても好きみたいだ。
でも、どうしたのかしら、フィオルド様。
急に、突然、別人みたい。今まで私など目に入るだけで不快、みたいな態度をとりつづけていたのに。
(まさか、小さな胸が好きとか……! 悪女顔の私の胸が小さかったことに、喜んで下さったとかかしら)
ドロレスも言っていたものね、「小さい胸には風流さがあります、それはそれでとても良いものなのです」と。
ドレスを着る時などは、一生懸命ないお肉を寄せて集めてあげてあげてぎゅうぎゅうにして谷間を作っているので、気づかれなかったのかもしれないわね。
とすると、私たちの距離を縮めてくれたアルラウネには感謝をしなくてはいけない。捕食一歩手前だったけれど。
「リリアンナ……私は、お前に、辛い思いをさせただろう」
私の背中をフィオルド様は優しく撫でながら、どこか苦しそうに言った。
「……ぇ、ぇと、あの……」
何か言わなければと思うけれど、持ち前の口下手が本領発揮してしまう。
嫌われていることは辛かったのだけれど、私もフィオルド様に率先して話しかけようとしなかったし、というかできなかったし。愛想のない婚約者でごめんなさいって常に土下座したい気持ちでいっぱいだったし。
こんなミジンコが王妃になるなんて烏滸がましいも良いところ、と思っていたし。
なので、お互い様といえばお互い様なのよ。
それになんせフィオルド様は氷の皇子様という二つ名まであるのだし、ということは、私と同じかそれ以上に愛想とは縁遠い方なのだろうし。
そもそも皇太子殿下というのはこの国で一番尊い方なので、愛想を振り撒く必要はない。
愛想を振り撒くべきは私。つまり、謝るべきは私なのだ。
などとつらつら考えても、私の口からは、虫が鳴くような小さな声しか出てこない。
あの、だの、ええと、だのは言えるのに、そこから先が言葉にならないのはいつものことだ。
「私は、お前のことをずっと誤解していた。……お前は私の他にも恋人がいる、不実な女なのだと思っていた」
「ど、どうして、です……?」
先程も、フィオルド様は恋人とかなんとか言っていた気がするわね。
いるわけないのに。
だって、人とまともに話すこともできないのよ、私。
関わる男性なんて、フィオルド様でていっぱい、どころか、フィオルド様と関わることだって荷が重かったのに。
それなのに、他に恋人なんてつくれるわけがないじゃない。
そんなことしたら死んでしまう。主にメンタルが、即死だと思うの。
「お前は、私に会うたびに不機嫌そうにしていた。……私も、あまり異性と話すのが得意な方ではない。むしろ、避けていた。だから、お前にとって私は、不愉快な婚約者なのだろうと考えていた。それに」
「違い、ます、それは、違うのです……っ」
私はぶんぶんと首を振った。薄々気づいてはいたのだけれど、あぁ、やっぱりという感じだ。
だって、セフィール公爵家でも、新しく来たばかりの侍女などは私に怯えるもの。
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