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遺跡探索と雪解けの春

 遺跡からの帰還 2

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 だってこんな私なんか、愛していただけるはずがないもの。

 なんの取り柄もないし、顔立ちは怖いし、愛想もないし、気の利いた会話もできないし。
 一緒にいてくれますか、なんて、とても聞けない。

「わ、私、なんでもない、です……」

「リリィ。ずっと、一緒にいる。お前が嫌がっても、側を離れたりはしない。私にお前を愛する許可を与えてほしい。もう二度とお前を傷つけないと誓う。お前のことは、私が守る」

「フィオルド様……」

 私の欲しい言葉を、フィオルド様がたくさんくださる。
 それは優しい雨のように私の体に降り注いで、じんわりと心を満たしていく。

 あぁ、すごく、今、甘えたい。

 甘えても、良いかしら。フィオルド様、怒ったりしないかしら。
 めんどくさい女だと、思われないかしら。

 でも、――甘えたい。甘やかして欲しい。

「愛している、リリィ」

 胸が高鳴る。もっと、言って欲しい。もっと近づきたい。
 私は、なんだかおかしくなってしまったみたいだ。

 誰かと話すの、苦手だったと思うのに、フィオルド様とはもっと一緒にいたい。
 私が欲しい言葉をくださって、私を愛してくださるから。

 だから、好き。

 でも、それはとても、身勝手なのではないかしら。フィオルド様が私に冷たかったときは、怖いと思っていたのに、フィオルド様が私に優しくなった途端に、好きだと思うなんて。

 単純で、安易で、我儘で、私こそ愚かで、どうしようもない。

「っ、ふ……」

 嬉しいのに、悲しい。
 頭がごちゃごちゃになる。身体中を、罪悪感に似た鬱屈した感情が渦巻いて、涙がこぼれた。

「すまない。……私はまた、お前を傷つけてしまったのか」

「違うんです、違うの、私、嬉しくて、……フィオルド様のこと、好き、です。でも、申し訳なくて」

「私は、お前に好きだと言われると、天にも登る心地がするほどに、幸せだ。お前の罪悪感の理由を教えて欲しい」

 ベッドサイドに座ったフィオルド様が、私の顔を覗き込みながら、涙を指先で拭ってくださる。

 私はうまく説明できる気がしなくて、口をつぐんでしまいそうになる。
 でも、きっとそれでは駄目なんだと思う。

 ずっとそうしてきた。ずっとそうしてきたから、私とフィオルド様の間には空白ができてしまった。

「私に、フィオルド様が優しくて、それが嬉しいから、フィオルド様が好き……なんて。そんなの、身勝手で、ずるいのではないでしょうか……」

「お前が私を愛してくれるのなら、いくらでも、私はお前に優しくしたいと考えている。ずるいのは、私の方だ」

「で、でも」

「理由なんて、なんでも良い。私はお前に愛されたい。それ以上にお前を、愛したい。リリィ、好きだ、リリィ」

 私の体を、覆い被さるように抱きしめて、フィオルド様は好きだと何回も繰り返してくださる。

 これは、夢ではないのかしら。

 遺跡の中から出て日常に戻ってきたのに、私は夢の続きを見続けている。

 フィオルド様の背中におそるおそる腕を回すと、さらにきつく抱きしめられる。

 耳元で「リリィ、不自由なこの場所に、お前を一人にはできない」と言われて、私はその意味がよくわからなかったけれど、こくんと頷いた。


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