リリアンナ・セフィールと不機嫌な皇子様

束原ミヤコ

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遺跡探索と雪解けの春

 同室ぐらし 2

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 ベッドに寝転がる私から、一定の距離をとっているのは、私の奇行を見て私という存在に幻滅したからだったらどうしよう。

 転がったままお話しするのは失礼だと思って、私は上半身を起こして座ろうとした。
 上体を起こしたところで、ごろんごろん転がっていたせいで、制服が乱れに乱れて腹や足を曝け出していることに気づいた。

 私は急いでスカートの裾を直して、はだけた制服の裾も直して、お腹をしまった。
 それから、ベッドの上で足を正座のようにして座り、フィオルド様を見上げる。

「ご、ごめんなさ……っ、見苦しいところを、見せてしまいました……」

「見苦しくはない。腹部でも、痛むのかと」

「痛いところはなくて、……その、色々と思い出したら、恥ずかしくて、転げ回っていました」

「女性というのは、恥ずかしいことがあると、あのような行動をするのだな。覚えておく」

「み、みんな、というわけではないと、思いますけれど……」

 ばっちり見られていたらしい。
 心配して声をかけてくださったフィオルド様に、私は顔中を真っ赤に染めた。

「そうか。リリィは、愛らしいな」

 フィオルド様が目を細めて、優しく言った。
 あぁ、もう、素敵。

 フィオルド様が優しくしてくださるようになってすぐに、フィオルド様のことを好きになってしまうとか、私は軽薄で身勝手な人間なのではないかしらと思う。

 けれどフィオルド様に許していただいたから、気持ちに蓋をしないでも良いような気がしている。
 優しくされるのは好き。

 フィオルド様は未だ私と一定の距離を保っている。
 少し寂しい。

「……リリィ、お前の部屋から、執事たちに命じてある程度の荷物を運ばせた。湯浴みをして、着替えをしようか。浄化魔法で体も服も清めはしたが、実際に湯につかったほうが気分も晴れるだろう」

「は、はい、ありがとうございます……」

「起きられそうか?」

 私はいそいそと、ベッドから降りた。
 さっきまでベッドの上でごろごろ転げ回るぐらいに元気だったのだから、動けるものだと思っていた。

 けれどベッドから降りて立ち上がろうとした途端に、足からがくりと力が抜けて、私は床にぺたんと座り込んでしまった。

「……あ、あれ……?」

「大丈夫か、リリィ!」

 フィオルド様が深刻な表情で、厳しい声をあげて、私を抱き上げてくださる。
 自分では元気なつもりなのに、どうしてだろう。

「すまない。やはり、まだ全て回復には至らないようだ。かなりの量、魔力を奪われたからだろう。……リリィ、私が手伝おう」

「お風呂を、ですか……?」

 フィオルド様の提案の意味を、私は聞き返した。
 お風呂、一緒に入るのかしら。
 私と、フィオルド様が?

「妙なことはしない。ただ、手伝うだけだ。お前の素肌を他の誰かに見られたくない」

「……は、はい、……その、よろしくお願いします」

 私は頷いた。
 お風呂に入って着替えをしたい。

 浄化魔法で体も服も綺麗だけれど、それでも、清潔な服に着替えて、体を綺麗にして、フィオルド様と一緒にいたい。
 だって、同じベッドで寝るかもしれないのだもの。

 できる限り、体を清潔にしておきたい。良い香りのする女だって思われたい。

 フィオルド様は「任せておけ」と力強く頷いた。
 けれどその表情は、少し緊張したように硬かったし、眉間に皺もよっていた。

 迷惑だって、思われたかしら。
 体が動けばお風呂だって着替えだって、一人で大丈夫なのに。

「ごめんなさい、迷惑、かけてしまって……」

「迷惑など思っていない。私はこうしてお前を腕に抱いて歩くことができるのが、嬉しい」

 表情は硬いけれど、口調は優しかったので、私はほっとした。

 フィオルド様は寝室から暖炉のある広いリビングを抜けて、扉を一枚隔てた場所にある浴室へと私を運んだ。
 脱衣所にはすでに私の衣服が準備されていて、フィオルド様は私をゆったりとした長椅子へと座らせると、とても真剣な表情で私を見た。

「……遺跡では、他に方法がなくあのようなことをしてしまったが、私はお前を大切にしたい。……だから、けしてお前の素肌を見ても、邪な気持ちを抱かないと誓う」

「あ、あの……っ」

 フィオルド様があまりにも真剣なので、私は言葉に詰まった。
 言葉に詰まるのはいつも通りなのだけれど。

 邪な気持ちを抱いてくださって良いのに。むしろ、抱いていただきたい。
 もっと口付けをしたり、触れたり、して欲しい。

 そう思う私は、もしかしたら淫乱なのかもしれない。口にしたら、嫌われてしまうかもしれない。
 私からもっと触れて欲しいなんて、言えない。

 ――でも。

 フィオルド様が私の制服のリボンをするりとほどいた。
 長い指先が私の肌にかすめるように触れる。

 どくりと心臓が脈打った。


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