リリアンナ・セフィールと不機嫌な皇子様

束原ミヤコ

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遺跡探索と雪解けの春

 フィオルド様の苦悩 2

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 ざばりと波打つお湯の音と共に、体が自分の質量を思い出したかのような、重たさを感じる。

 洗い場の椅子に私を座らせたフィオルド様は、良い香りのする洗髪剤で私の髪を洗ってくださる。はじめは身を硬くしていた私だけれど、頭に触れる長い指の感触が心地よくて、ついうとうとしそうになる。

 ドロレスに洗ってもらうときとはまるで違う感触だ。繊細だけれど、力強くて、なんともいえない心地良さがある。
 うっとりしながら心地良さに身を委ねていると、お湯が頭にかかった。

 泡を落とされた私の濡れた髪は、いつもと違って真っ直ぐになっている。
 これで乾くと、ふわふわして落ち着かないのだから、妙なものだと思う。

 ふわふわした癖のある蜂蜜色の髪を、可愛いものが好きな私は、毛足の長い犬のようだと思って結構気に入っている。けれど、あまりにも落ち着かないので、いつもは飛び跳ねないように結っている。

 お湯に濡れて真っ直ぐになると、まるで別人のようだ。
 大きな鏡に、私の姿がうつっている。

 少しうとうとしてしまったせいか、表情から緊張が抜けたからか、そんなに悪女顔には見えなかった。

「綺麗な髪だな、リリィ。乾いている時は柔らかく愛らしいが、こうして濡れると大人びて、艶やかだ」

「はぅ……」

 返事をしようとしたら、唇から妙な声が漏れた。

 容姿を褒めていただいたわよ……!

 しかも、うっとりするぐらいの優しい声で。

 フィオルド様の言葉は、常に真剣なせいか、殺傷能力が高い。
 嘘やお世辞を言う方じゃないって、親しくなれたばかりだけれど、分かるもの。

 信じてみようと、思う。
 好きだと自分から伝えることができるぐらいに、私はフィオルド様を、信頼しはじめている。

「……美しいな、リリィ。白くきめ細やかな肌も、凛とした顔立ちも、全て、愛しい」

「……ぁ」

 泡に塗れた大きな手が、私の肌の上を滑る。

 熱を帯びた声音が、愛の言葉を紡ぐたびに私の皮膚を舐めるように震わせた。

 丁寧に私の指先に、しっかりしたしなやかで力強い指が絡まり、腕を撫で上げる。
 鎖骨から胸へと降りた時に、体を隠していたタオルが床に落ちていることにやっと気づいた。

「わ、私、胸が小さくて……ごめんなさい」

 フィオルド様の手の中にすっぽり隠れてしまうぐらいの慎ましい胸が、あらわになっている。

 恥ずかしいし、なんだか申し訳なくて、私はうつむいた。

 だって私、顔立ちが悪女なのに、胸が小さいとか期待外れではないかしら。

 私も豊満になりたかった。できれば、両手からお肉がこぼれ落ちるぐらいの、豊満な体つきが良かった。

「何故謝る?」

「胸が小さいと、その、あまり、……触っても、楽しくないかと、思って」

「リリィ。……煽らないでくれ」

 よく意味がわからなかったので、私は首をかしげた。

 フィオルド様の両手が私の胸を優しく撫でて、それから足や、足の付け根、下腹部に這っていく。
 あくまで洗っているだけの手つきなのに、私の体は勝手に切なく疼いて、だんだん気持ち良くなってきてしまう。

 自分のことをよく知らなかったけれど、私はもしかして、淫らなのかもしれない。
 足の間に背後から手が触れて、私は力の入らない手でフィオルド様の腕を掴んだ。

「そこ、だめ、…ぁ、ん……っ」

 足を開かせるようにして、足の付け根に指が這う。
 割りひらいた花弁の奥に、ぬるりと指が触れて、感触を確かめるようにして蠢いた。

「ぁ、あ……ごめん、なさ……っ、私、こんな……っ」

「少し、我慢していろ」

「フィオルド様、恥ずかし……ゃ、あ……」

 柔らかい襞を、注意深くフィオルド様の指が撫でていく。

 顔を出した小さな突起を、きゅと、つままれて、私は背中をそらせた。

 もしかして、意地悪をされているのかしら。
 なんだかよくわからない。

 でも、フィオルド様はあくまで冷静に、これ何かの施術なのかしらっていうぐらいに冷静に、ただ私を洗っているだけのようにも見える。

「ふ、ぁ……」

 薄皮を剥かれて、敏感な場所を優しく指で円を描くように触れられて、私はきつく目を閉じる。
 我慢しているのに、気持ち良い。

 足の指先に力が入り、両足がぴんと伸びた。
 駄目なのに、どうしようもない快楽が、体にびりびりとはしった。

「リリィ、……終わった。湯当たりする前に、出よう」

 するりと、手が離れる。

 体にお湯がかけられて、泡が落ちていく。

 私を抱き上げてお風呂から出ようとするフィオルド様に、泣きたくなるほどの羞恥心を感じた私は、その首に腕を回してぎゅっと抱きついた。 


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