リリアンナ・セフィールと不機嫌な皇子様

束原ミヤコ

文字の大きさ
51 / 200
遺跡探索と雪解けの春

三大公爵家と嫌われているリリアンナ 1

しおりを挟む


 朝からフィオルド様にたっぷり可愛がっていただいた私は、ぐったりするかと思いきや、どことなく甘い怠さは残っているものの、艶々で元気だった。

 自分でもどうしてなのか不思議なのだけれど。

 運動は嫌いだし、体力も食欲もないし、病弱ではないけれど貧弱ではある。

 私は自分のことをそんなふうに思っていたのだけれど、もしかして案外丈夫なのかもしれない。

「リリィ、今日は寝ていて良い。無理をして授業を受ける必要はない。……全て、私のせいだが」

 私の体を浄化魔法で清めてくださったフィオルド様が、寝室に私を運んで寝かせてくださる。

 私はフィオルド様の手を握って、首を振った。

 自分でもびっくりするぐらい、元気なのよね。
 それは私も寝ていたい。だって外に出るよりもお部屋でだらけている方が好きだもの。
 でも。

「フィオルド様、私も、授業に出ます。……その、フィオルド様と、仲良くなれたから、……一緒の時間を過ごさないと、もったいない気がして」

「……そのように可憐なことを言われると、……どうにも、もう一度触れたくなってしまう」

「っ、だ、だめ、です……時間が、もう」

 ベッドサイドに座る私の髪や耳に、フィオルド様は優しく手のひらで触れた。

 くすぐったさから身をすくめながら、私は小さな声で言った。

 本当は、もっとしていただいて構わないのだけれど、ここで流されたら駄目な気もする。

 だって今日はまだお休みじゃないもの。

 フィオルド様は優秀な皇太子殿下として評判なのだから、私のせいで堕落したというような噂が流れてしまうのはよくないと思うの。

 私のせいで、なんて、烏滸がましいとは思うのだけれど。

「そうだな。……リリィ、しかし本当に、大丈夫なのか?」

 フィオルド様は名残惜しそうに私から手を離すと、心配そうに私の顔を覗き込んだ。

「それが、その……体が軽い気がするのです。フィオルド様の魔力を、分けて頂いたからなのでしょうか、足りなかったものが満たされたような、不思議な感じがして。……すごく、すっきりしています」

「…………そうか」

 フィオルド様は口元を押さえると、短い返事をした。
 フィオルド様の周囲にキラキラと雪の結晶が一瞬舞い踊って、すぐに消えていった。

 不機嫌そうに眉間に皺がよっているけれど、頬が僅かに染まっている。
 照れていらっしゃるのかもしれない。

 そう思うと私の胸もどきどきと鼓動が早まった。

 私、かなり大胆なことを言ってしまったのではないかしら。
 紅潮した頬を、私は両手で隠した。

「リリィ、私も同じだ。……お前に触れていると、とても満たされる感覚がある。お前は、私のために生まれた器であるような、そんな奇妙な感覚だ。……いや、今の言葉はお前に対して無礼なものだったな。すまない」

「……い、いえ……! 嬉しいです、私……そうだと、良いなって、思います」

「まずいな。……お前があまりにも愛らしく、昼も夜もなく、お前を鳴かせたくなってしまう。……無理はするな、リリィ。体調が悪くなったら、すぐに私を呼べ」

「はい、ありがとうございます……」

「それから……体調以外にも、何かあればすぐに私に言え。今まで私にお前について、偽りの情報を伝えてきた人間が何人かいる。言われるがままに騙されていた私も愚かとしか言えないが。……私の方で然るべき処置を行うつもりではいるが、お前の身に危害が加わる可能性もある」

「……どうしてでしょう、私、そんなに、嫌われているのでしょうか……顔が怖いからでしょうか」

 それ以外に理由が見当たらない。

 だって私、お母様の方針で、ほとんどセフィール公爵家から出たことがないし。
 魔導学園にはお友達がいないし、社交会にだって話し相手もいないし。

 そもそも私自身もあまり、貴族の皆さんの顔や名前を覚えていない。

 人の顔を見るのも、話すのも苦手だから、自分から誰かに話しかけたこともないし、話したいと思う相手もいなかった。
しおりを挟む
感想 30

あなたにおすすめの小説

一級魔法使いになれなかったので特級厨師になりました

しおしお
恋愛
魔法学院次席卒業のシャーリー・ドットは、 「一級魔法使いになれなかった」という理由だけで婚約破棄された。 ――だが本当の理由は、ただの“うっかり”。 試験会場を間違え、隣の建物で行われていた 特級厨師試験に合格してしまったのだ。 気づけばシャーリーは、王宮からスカウトされるほどの “超一流料理人”となり、国王の胃袋をがっちり掴む存在に。 一方、学院首席で一級魔法使いとなった ナターシャ・キンスキーは、大活躍しているはずなのに―― 「なんで料理で一番になってるのよ!?  あの女、魔法より料理の方が強くない!?」 すれ違い、逃げ回り、勘違いし続けるナターシャと、 天然すぎて誤解が絶えないシャーリー。 そんな二人が、魔王軍の襲撃、国家危機、王宮騒動を通じて、 少しずつ距離を縮めていく。 魔法で国を守る最強魔術師。 料理で国を救う特級厨師。 ――これは、“敵でもライバルでもない二人”が、 ようやく互いを認め、本当の友情を築いていく物語。 すれ違いコメディ×料理魔法×ダブルヒロイン友情譚! 笑って、癒されて、最後は心が温かくなる王宮ラノベ、開幕です。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

最愛の番に殺された獣王妃

望月 或
恋愛
目の前には、最愛の人の憎しみと怒りに満ちた黄金色の瞳。 彼のすぐ後ろには、私の姿をした聖女が怯えた表情で口元に両手を当てこちらを見ている。 手で隠しているけれど、その唇が堪え切れず嘲笑っている事を私は知っている。 聖女の姿となった私の左胸を貫いた彼の愛剣が、ゆっくりと引き抜かれる。 哀しみと失意と諦めの中、私の身体は床に崩れ落ちて―― 突然彼から放たれた、狂気と絶望が入り混じった慟哭を聞きながら、私の思考は止まり、意識は閉ざされ永遠の眠りについた――はずだったのだけれど……? 「憐れなアンタに“選択”を与える。このままあの世に逝くか、別の“誰か”になって新たな人生を歩むか」 謎の人物の言葉に、私が選択したのは――

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)

かのん
恋愛
 気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。  わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・  これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。 あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ! 本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。 完結しておりますので、安心してお読みください。

【完結】20年後の真実

ゴールデンフィッシュメダル
恋愛
公爵令息のマリウスがが婚約者タチアナに婚約破棄を言い渡した。 マリウスは子爵令嬢のゾフィーとの恋に溺れ、婚約者を蔑ろにしていた。 それから20年。 マリウスはゾフィーと結婚し、タチアナは伯爵夫人となっていた。 そして、娘の恋愛を機にマリウスは婚約破棄騒動の真実を知る。 おじさんが昔を思い出しながらもだもだするだけのお話です。 全4話書き上げ済み。

処理中です...