リリアンナ・セフィールと不機嫌な皇子様

束原ミヤコ

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遺跡探索と雪解けの春

悩みは話すと半分になる 1

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 どのようにして偽物の私の映像を記録石に保存したのかはわからないけれど、私はアニスさんにも、レイフィアさんにもソフィアさんにも嫌われていたらしい。

 三大公爵家のうちの二家から嫌われてしまうとか、孤立無援も良いところだけれど、身に覚えはもちろんない。悪女顔、ということぐらいだ。
 あとは――。

「フィオルド様の婚約者だから、でしょうか」

 いくら鈍い私でも、それぐらいはわかる。

 彼女たちの誰かが、もしくは全員が、フィオルド様のことが好きかもしれないということぐらいは。

 だから私とフィオルド様を不仲にさせて、婚約破棄をさせたかったのかもしれない。
 フィオルド様は、軽く首を傾げた。

「どういう意味だろうか」

「……私を、陥れたかった理由、です。フィオルド様のこと、……あの方たちも、好きなのかと思って」

「私はどうとも思っていない。リリィを傷つけたのだから、むしろ嫌悪の対象だ。それに、お前にも言った通り、私は今まで女性というものをできる限り遠ざけて生きてきた。アニスやレイフィア、ソフィアと、個人的に親しくした記憶はない」

「で、でも、フィオルド様は、私の話をあの方たちから聞いていたのですよね?」

「あぁ。私の元へとやってきては、一方的に捲し立てて帰っていった。話をしていたのは、主にアニスだが。レイフィアとソフィアはまだ子供だろう。アニスが中心となっていた印象だったな」

 レイフィアさんは今十五歳。ソフィアさんはレイフィアさんの妹なので、それよりもさらに年下だったように思う。

 私の知らない時間を、彼女たちとフィオルド様は過ごしている。

 そう思うと、つきりと胸が痛んだ。

 たまたま私はフィオルド様の婚約者に選ばれたのだけれど、アニスさんたちも立場的には私と同じ。
 誰がフィオルド様の婚約者になっても特に問題はない。なぜ私のなのかしらと疑問に思うぐらいだ。

 もし、私がフィオルド様の婚約者ではなかったら。

 こんなふうに、フィオルド様に愛していただけることもなかったのよね。

 寂しいような、切ないような、どこか不安な気持ちになって、私はフィオルド様の制服をきゅっと握った。

「嫉妬をしてくれているのか。どうにも、喜んでしまいそうになるな。……だが、リリィが不安に思うようなことは、なにもない。私にはお前だけだ、リリィ」

「はい……。でも、誰かがフィオルド様のことを……その、好きなのかも、しれなくて」

「私個人がどうということはなく、欲しているのは私の立場だろう。それほど、皇帝妃になりたいものだろうか。私は、……母上が幸せだとは、思えないが」

「アミティ様が……?」

 フィオルド様は私の体を抱きしめる手に力を込めた。

 背中や髪を愛しむように撫でる手つきはどこまでも優しい。
 私はこんなに幸せなのに、アミティ様は違うのかしら。

 アミティ様は、レランディア公爵家の次女だった。つまり、アニスさんの叔母にあたる方だ。

 アニスさんのお母様のアザレア・レランディア公爵夫人がバルツス様の婚約者候補に一番最初に上がったらしいのだけれど、皇帝妃になったのはアミティ様だった。

 滅多に皇帝家や他公爵家についてお話をしてくださらないお母様が、いつか教えてくださったことを覚えている。

「あぁ。私は、母上を不幸だと思う。……お前たち公爵家の娘たちは、誰かが必ず皇帝と番う必要がある。それすら私にとっては、蜘蛛の巣に絡め取られた蝶のように思える時がある。それとも、牢獄か。……セントマリア家の血筋など、……守ることに、何の意義があるのか」

「フィオルド様……私は、フィオルド様の婚約者でいられて、嬉しいです」

「あぁ、リリィ。すまない、少し、感情的になってしまったようだ。……私も、リリィが婚約者でいてくれて、幸せだ。お前を幸せにしたいと思う。どうすれば良いのかはわからないが、私が愛しているのはお前だけだ、リリィ」

 私はフィオルド様の胸に額を押し付けるようにして、こくんと頷いた。

 フィオルド様の悩みを、少しでも分けていただけたら良いのに。

 そうすればフィオルド様の苦悩は、半分になるのに。


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