リリアンナ・セフィールと不機嫌な皇子様

束原ミヤコ

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遺跡探索と雪解けの春

 悩みは話すと半分になる 2

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 私なんて、悪女顔で人見知り以外の悩みなんてそれほどないのだから、フィオルド様の悩みを分けていただくぐらいがちょうど良いと思うの。それぐらい日々なにも考えていないもの。ただ生きているだけで必死には必死なのだけど。

「……血を繋ぐ理由も、理解はしている。セントマリア家の血筋は、翼のある者たちにとっての神であり、母であった、女神マリアテレシアの血筋。色濃くその血筋を受け継いだ者の中に……聖なる翼あるものが生まれる」

「聖なる翼あるもの、ですか」

「あぁ。皇帝の血を守るというのも一つではあるだろうが、実際には、セントマリア皇家の血を残しておくのは、聖女や聖人を産むためだ。……リリィは、知らなかったのか?」

「ごめんなさい。そういったことを、あまり、教えてもらっていなくて……本当は知らなければいけないのですよね」

「いや。知らなくても別に構わない。それは私たちセントマリア皇家の者だけが知っていれば良いことだからな。ただ、叔母上……リアン公爵夫人は、元は皇女だった。当然知っているものだと思っていた」

「お母様は、あまり、公爵夫人になる前のことを話してくださらないのです」

「それはそうだろうな。……私の父、バルツスは、最低な男だ。リアン公爵夫人も、城にいた頃のことは思い出したくもないだろう」

「……なにがあったのか、聞いても良いのでしょうか」

「あまり、気持ちの良い話ではない」

 私はフィオルド様の広い背中に手を回した。
 フィオルド様が私にしてくださったように、私もその背を撫でる。

「知りたいです。……フィオルド様の悩みが、少しでも、理解できたらと、思います。……私にできること、少ないですけれど」

「お前は優しいな、リリィ。……ありがとう」

「……私、今すごく、幸せです。だから、フィオルド様も、……その、悩みを話すと、悩みの重さが半分になるって、……だから私、ドロレスには、なんでも話していて。ドロレスというのは、私の侍女なのですけれど」

「そうか。……リリィ、夜に話そう。誰かに聞かれたい話ではない。今は食事をすませようか。……朝は、あのようなことをしてしまったからな。もちろん、今も同じようにしたいと思ってはいるが」

 フィオルド様の声に張りが戻り、切なげな表情は涼しげな美貌へと戻った。
 背中を撫でていた手が不埒にスカートの中に潜り込んでこようとするので、私はびくりと体を震わせた。

「ここでは、だめです。……すぐ隣に、食堂があるので」

「リリィが声を我慢すれば、気づかれたりはしない」

「意地悪です……」

 フィオルド様の体にしがみつきながら、私は首を振る。

 だって、我慢なんてできないもの。

 あんなに気持ち良いことをされて、声を堪えるなんてとてもできそうにない。

 太腿まである絹靴下と太腿の境目を撫でて感触を楽しむようにしていたフィオルド様は、困ったように少し笑った。

「すまないな、あまりにも愛らしいから、つい。……お前の好みにあわせて、野菜と穀物を中心に食事を作らせた。食べられそうか」

「はい……!」

 フィオルド様のいう通り、テーブルの上に並んでいるお食事は、私の食べられそうなものばかりだった。

 久々の安心感のある昼食を目にして、視界が涙で滲んだ。
 嬉しい。嫌いなものを食べなくて良いお食事、すごく嬉しい。

 そんなに辛かったのだなと言いながら、フィオルド様は私の涙を指先で拭った。

 それから、私を膝に乗せたままお食事を食べさせてくださった。

 朝と同じように触れられたらどうしようかとドキドキしていたけれど、フィオルド様も場所を弁えてくださっているのか、お食事を食べさせてくださるだけだった。良かった。

 何でもして欲しいと思っている私だけれど、食堂のすぐ横のお部屋であんなことをされるのは、流石に恥ずかしすぎて耐えられない。
 
 


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